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Peace Maker  作者: 那津
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-Knowledge is power-



二十七章 -Knowledge is power-






寮へ戻ったシャルはベッドに倒れ込んだ。

「疲れた……」

カーサも壁にもたれてぐったりとしている。

「頭ん中がぐちゃぐちゃだ……」

「捜査課も大変だな」

シャルたちの部屋に遊びに来ていたバルドとパルスはレイマンが使っていたベッドに座る。

頭をかきながらカーサがため息をついた。

「にしても、クル先輩は一体どこに行ったんだ?」

「まさか誘拐されたとか」

カーサは腕を組んだ。

「だが、誘拐犯が何のためにキール先輩たちを誘拐してるのかがわかんねぇからなぁ……。それに犯人が狙ってるのは『女』のはずだし」

するとドアがノックされた。シャルは首を傾げながらドアへ向かう。

「こんな時間に誰だろう?」

ドアを開けてシャルは思わず声を上げた。

「ルル先輩!?それにエヴァまで」

「こんばんわぁー」

ニコニコと笑ってルルはシャルに手を振った。その後ろにはエヴァが立っている。シャルは左右を見て廊下に誰もいないことを確認すると2人を部屋へ引き込んだ。ドアを閉めて、大きな目でマジマジと2人を見る。

「なんでこんな所にいるんですか?」

ルルはニッと笑う。

「だって一度でいいから『ハッピー・ハロウィン・バレンタイン』じゃない日に男子寮に遊びに来たかったんだもん」

「こんな夜遅く、親が心配してんじゃねぇのか?」

カーサの問いにルルは笑いながら答えた。

「電話で、今日は寮に泊まってくるって言ったから大丈夫だもん」

パルスは膝を叩きながら笑う。

「『男子寮に泊まる』ってあえて言わないところが賢いよな」

その隣でバルドは困ったような顔をした。

「でもこのことがバレたら大変だぜ」

「大丈夫だよ。だってルルもう警官じゃないもん」

「またこういう時だけ調子のいいことを……」

カーサは苦笑いを浮かべた。パルスはルルの前にしゃがむと彼女の頭に手を置く。

「だがな、お前は良くてもエヴァが見つかったら大変なことになるぜ」

「だって一人で寂しそうだったんだもん」

「だから俺が、ボウズの今夜寝る場所を牢じゃなくて俺の部屋にしてやったんじゃねぇか」

ルルは口を尖らす。

「ボウズじゃないよ!」

そう言った彼女に、エヴァは慌てた様子を見せた。しかしそれに気づきもせず、ルルはハッキリと言った。

「エヴァは女の子だよ」

沈黙が流れた。皆硬直している。

ルルはエヴァの帽子のツバを掴んだ。

「あっ……」

エヴァが防ごうとするがルルの方が一歩早く、帽子は取られてしまった。

銀色の長い髪が流れた。パッチリと開かれた青い瞳。まさしく女の子だった。

シャル達はポカンと口を開けている。

「皆気づいてなかったの?」

シャルが口をパクパクさせた。

「だって……自分で僕って……」

エヴァはうつむいた。するとその頭に誰かの大きな手が乗せられた。顔を上げれば目の前にパルスの顔がある。彼はエヴァの顔を覗き込むとニヤニヤ笑った。

「お前えらく美人じゃねぇか。将来が楽しみだな」

エヴァは顔を赤らめてそっぽを向く。

「でも何でまた男の子の振りをしていたの?」

答えは小さい声で返ってきた。

「ボスの命令……」

「でもそれだったら髪切らせるんじゃないか?普通」

「女の子の方が便利な時もあるから……」

パルスが呆れながら言った。

「ずいぶんと巧妙だな」

するとバルドが手を叩く。

「だから初対面のルルでも仲良かったのか」

「さすがルル先輩ですよね。一目でわかったんですか?」

ルルは誇らしげに頷いた。

「うん」

そしてパルスとバルドの手を引っ張る。

「ねぇ、部屋に戻ろう。今日はパルスの部屋で寝ていいでしょ?」

その時カーサは時計に目をやって苦笑する。

「今外出ると危ないぜ」

「どうして?」

「寮長が出回ってるからさ。もう十一時過ぎ。仕事終わった奴は部屋から出ちゃだめな時間だ。それを取り締まるために今頃寮長が寮中の廊下をウロウロしてるぜ」

「じゃあなんでパルスとバルドがここにいるの?」

「俺達は警官だからな。例え廊下でバッタリ会ったとしても、残業があったんですとか言えば何とか見逃してもらえるだろ」

「ふーん」

するとルルは明るい笑顔で言った。

「じゃあここで寝る!」

カーサはやれやれと首を横に振る。

「見つかったら大変だなこりゃ」

シャルも苦笑した。

「そうですね」

「じゃ、俺達も邪魔するか」

パルスの思わぬ発言にシャルは目を丸くする。

「先輩達も泊まるんですか!?」

「ダメなのかよ」

バルドもそこに居座るかのように、ベッドに仰向けに倒れる。

「寮長に下手な言い訳するくらいならここに泊まる方が安全だろ」

その言葉にカーサはため息をつく。パルスはニヤニヤ笑った。

「それに、ここには美人の女の子が2人もいるんだぜ。お前ら2人が何かしねぇように見張ってるんじゃねぇかよ」

「誰がしますか」

カーサが軽くパルスを睨んだ後、ふと思い出してシャルを見た。

「でも、そういやお前確かロリコンだったよな」

「なっ……」

「そうなのか!?」

パルスがルルとエヴァをかばうように立ちふさがる。

「ヤベェ!2人が危ない!」

「違いますよ!あれにはいろいろとワケが」

「嘘つくなって」

「ついてません!」

その時ドアがノックされた。続いて寮長の声が聞こえる。

「うるさいぞ。シャル・レンダーとカーサ・レブンの他に誰かいるのか?」

皆の間に緊張が走った。

カーサは慌ててドアの所へ行き、少しだけ開けて顔を覗かせた。その間にシャル以外の4人は息を殺してひっそりと物陰に隠れる。

「いいえ。すみません。ちょっとシャルと盛り上がっちゃって」

「もう寝てる奴もいるんだ。静かにしろ」

「はい、すみません」

寮長が去り、カーサがドアを閉める。

「危なかったぁ……」

カーサは安堵のため息をついた。シャルは小さく笑う。

「助かりましたね」

隠れていた4人もそろそろと出てきた。

「でも本当にここに泊まるんですか?」

「問題あんのか?」

「だってここ3人部屋ですよ。先輩達がここに泊まったら6人になっちゃうじゃないですか」

「そんなの、客人の俺らがベッドで寝て、お前とシャルは床に決まってんだろ」

「なっ……」

「ひどすぎる」

「しかも客人って。招いた覚えはないですよ」

「何だよ、先輩に文句つけんのか?」

「こういう時だけそうやって調子のいいこと言うんだから……」

カーサが大きくため息をついた。

するとふとバルドがエヴァを見て目を丸くする。

「エヴァ……?お前、泣いてんのか?」

「え?」

皆は一斉にエヴァを振り向いた。その目から、涙が溢れていた。

「どうしたんだ?」

心配そうにカーサが顔をのぞきこんでくる。エヴァは苦笑しながら目を背けた。

「何でもないよ。ただ、すごく楽しそうだったから、いいなって」

「エヴァは楽しくないの?」

ルルの問いに彼女はうつむいた。

「楽しいことなんてないよ」

「どうして?」

エヴァはルルを見る。

「お母さんから引き離されて、やりたくもない暗殺の仕事をさせられて、友達もいない。これでルルは楽しいと思うの?」

「お母さんから引き離された……?」

エヴァは再びうつむいた。

「僕のせいなんだ。僕があの時あそこに行かなかったら……」

「どういう意味だ?」

「1年前、僕は一人で外で遊んでいたんだ。その時、もう使われていないビルの中に入った。そしたら」

その時、エヴァの顔が平然としていたことをパルスは見逃さなかった。

「『マーダレス』が暗殺をしていたんだ」

「え?」

「僕は人を殺している所を見たんだ。それでその『マーダレス』の人に見つかって、捕まえられた。『マーダレス』の本拠地に連れて来られて、僕はボスに会った。その時ボスは僕に『部下になれ』って言ったんだ」

皆は目を見開いた。エヴァは続ける。

「僕はどうしていきなりそんなことを言われるのかわからなかった。僕は嫌だって言ったんだ。そしたらボスは『いいのか?お前の母親がどうなっても』って笑ったんだよ」

「どういう意味だ?」

「『マーダレス』には情報収集専門の人たちがいるんだ。その人たちの情報集めは速くて的確。僕の情報はその時にはもうほとんど調べられていた」

「それで……?」

「それで、お母さんは人質にとられたんだ。でも、凶器を向けられたわけじゃなくて、家を見張られているだけだったから、お母さんは人質に取られたことなんて気づいていない。だけど、僕がボスの誘いを断れば殺されるし、僕が逃げ出しても殺される。だから僕は『マーダレス』の仲間になったんだよ。お母さんは僕が行方不明になったと思っているんだ」

「ひでぇ奴らだぜ」

「でもなんでその人はエヴァみたいな子供を仲間にしようと思ったんでしょうね?」

エヴァは首を横に振った。

「知らない」

すると唐突にパルスが手を叩く。

「あ。俺明日、朝早いんだった。もう寝るわ」

「え?」

「ルルとエヴァももう寝ろ。子供は早く寝ないと背が伸びないんだぜ」

「じゃあルル二段ベッドの上がいい!エヴァ、行こう」

ルルはシャルに了解を得ることも無くエヴァの手を引っ張り、梯子を上って寝転がった。

「ああ、ルル先輩、そこ一応僕の」

「おやすみぃ」

シャルの言葉を無視してルルは無邪気に言った。

「ああ、ぐっすり寝ろよ」

パルスはそう言って電気を消した。程なくしてルルとエヴァの寝息が聞こえてくる。余程疲れていたのだろうか。するとそれを確認したバルドが暗闇の中パルスに問いかける。

「何か秘密の話でもあるんですか?あの二人寝かせて」

パルスはカーテンを引いた。うっすらと互いの顔を確認できる程度ではあるが、月の光で部屋が明るくなる。パルスはレイマンのベッドに座った。小声で切り出す。

「お前らが騙されないよう一つだけ確かなことを言っておこうと思ってな」

3人は顔を見合わせ首を傾げた。パルスはハッキリと言った。

「エヴァは、嘘をついている」

「嘘?」

「ああ。多分あいつは、一年前にマーダレスが暗殺をしていた所なんて目撃してねぇと思うんだ」

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

パルスは自信満々に笑った。

「取調べ課の洞察力をなめんなよ。俺たちは特別に訓練されてるからそれくらい見抜けるんだぜ」

「へぇ……」

シャルは首を傾げた。

「でもどうしてそんな嘘を……」

パルスは右手で頭の後ろを掻く。

「そこまではわからねぇな。でも何か、理由があるはずだ」

その時、シャルは小さくため息をついた。それを聞き取ったカーサは彼をちらりと見る。悲しそうな、憂鬱そうな、なんとも言えない顔をしていた。

「おい」

その呼びかけにシャルはカーサを見る。彼は笑っていた。

「警官がそんな顔してんじゃねぇぞ」

シャルは小さくうつむく。

「すみません……。でも、理由はどうあれエヴァが暗殺組織の一員っていう事は事実なんですよね。それを思ったら、なんだかひどい話だなって……」

「だから、俺たちが助けるんだろ?」

その言葉にシャルは顔を上げた。カーサもパルスもバルドも、皆笑っていた。シャルは小さく微笑んで頷く。

「そうですね」




翌日、ヴァウェルは敵地侵入のため、一人警察署の門を抜ける。

「気をつけろよ」

そこに立っていたのはディーズだった。

「ディーズ、なぜお前がここにいる」

彼は肩をすくめた。

「おいおい。親友が見送りしちゃいけねぇのかよ。何年かぶりの仕事だろ?『密偵』は」

ヴァウェルは目を細めた。

「言いたいことは、それだけではないのだろう」

「……ああ」

ディーズは小さくうつむいた。

「お前に、一番言っておきたいことがあるからな」

そして顔を上げて真剣な顔で、友を見る。

「死ぬなよ」

「……」

「お前まで死んだら……俺は」

拳を握り締める。ヴァウェルはそんなディーズを見下ろして、呟いた。

「お前だって、後から特殊部隊として入ってくる。人の心配している場合じゃないだろう」

「俺は、俺のことよりお前のことが心配なんだよ」

ディーズはヴァウェルの肩を掴んだ。

「必ず、生きて会おうぜ」

ヴァウェルは頷いた。そしてディーズに背を向けて去る。ディーズはずっとその背を見ていた。

「死ぬなよ……」

最後にもう一度、そう呟いた。



シーズ通りのダリアビルに到着する。敵地への侵入開始である。昨日エヴァに教えてもらった詳しい情報を元に、『マーダレス』の一員になりすましている。

目的は、情報収集。

エヴァが警察側に捕まったと『マーダレス』に知られてからの彼らの動きを探ってこなければならない。

そしてもうひとつは、人質の安全の確認である。

アカーシアの小型無線機からの連絡が途絶えたために彼女たちの身の安全が署でも心配されている。

ヴァウェルは怪しまれないよう平静を装い、目立たないようにビルの中を歩き回った。やがて、アカーシアたちが監禁されている場所が掴めた。

隣の倉庫。

ヴァウェルはすぐにそこへ向かった。

倉庫へ着き中の様子を見回す。気配は確かにあった。しかし、姿が見えない。ヴァウェルは気配を辿り、それがドラム缶の影からであることを掴んだ。そちらへ近寄る。そっとのぞいてみると、誘拐された皆がいた。眠っているようだ。

「先輩?どうしてここに」

一人だけ起きていたモカが目を丸くする。ヴァウェルは左右に視線を巡らし、片膝をついて小声で確認する。

「敵は誰もいないようだな」

「はい。昨日の夜はいましたけど……」

「どういうことだ?」

「アカーシア先輩の無線機で連絡とろうとした時、見つかってしまったんです。無線機は奪われました」

「無事だったのか?」

「はい。皆眠らされたみたいですけど、大きな怪我はありません。クルさん以外は……」

モカは床で寝ているクルを見た。ヴァウェルはわずかに驚いているようだ。

「クル?怪我をしているのか?」

「この傷は昨日の夜つけられたものではないんですけど、殴られたみたいです。クルさんを利用するつもりだったみたいですけど、キール先輩がそれに気づいて、犯人は計画を変更するようです」

「そうか……」

「先輩は何をしているんですか?」

「密偵だ」

驚くモカをよそ目に、ヴァウェルはゆっくりと立ち上がった。

「無駄話をしている暇はない。とりあえず全員無事だということがわかった。俺は行く」

「わかりました。気をつけてください」

「ああ」

その時、眠っているキールが寝言を言った。

「副班長サン……」

ヴァウェルはふと彼女を見下ろした。悲しそうな顔をして、キュッとモカの服の端を掴んでいる。拉致監禁されて、彼女も多少なりとも恐怖を感じているのだろうか。そう、ふとキールのことを心配したヴァウェルだったが、彼女は眠ったままニヘラと顔を緩ませた。

「そんな性格だからぁ、結婚できないんだよぉ……ムニャムニャ」

俺がバカだった。

ヴァウェルは早足で倉庫からビルへ戻った。




エヴァは『鬼才の人鬼』の部屋の前に立っていた。

顔が強張っている。手足もわずかに震えていた。しかし、意を決してドアをノックする。

「誰だ」

鋭い声が聞こえてきて、思わず逃げ出したくなったが、わずかに浮いた右足を押さえつける。そしてできるだけ大きい声で言った。

「エヴァ・カーソンです。お願いがあって来ました」

少しの沈黙の後、声が聞こえた。

「入れ」

エヴァはそっとドアを開ける。ローエルは椅子に腰掛けていた。何かを聞いているのか、少し大きめの機械から右耳に向かって黒いコードがのびていた。

「要件を言え」

その眼光と声にエヴァは思わず背筋を張る。そして恐る恐る言った。

「あ、あの……昨日言ってた特殊部隊、『マーダレス』の本拠地に行くんですか?」

「お前が知る必要はない」

「……」

「第一、知ったところでどうするというのだ」

「もし……もし本拠地に行くなら」

エヴァは拳を握り締めた。

「僕も連れて行ってください」

「なに?」

「道案内をします。どこに何があるとか、その部屋は誰の部屋だとか、全部教えます。だから、連れて行ってください」

「無理だ」

ローエルはキッパリ言った。

「今密偵の者が敵地に侵入している。お前が本部へ行く必要はない」

エヴァはうつむいた。しかしここで引き下がってはいられない、と拳を握る。

「お願いです、僕を連れて行ってください!」

しかしその時、ローエルは右耳に入っているイヤホンを押さえて厳しく言った。

「黙れ」

眉間に皺が寄っている。大声を出したことに怒っているのかと最初は思ったが、どこか彼が緊張しているようにも、エヴァには見えた。




ビルへ戻ったヴァウェルは更に情報を掴もうと慎重に中を歩き回った。会話している人たちとすれ違う時には耳を澄ませてその会話の内容を聞き取る。そして行き交う人々の人数を数え、外見などを悟られないよう注意しながら観察した。

そんなことを続けているとき、男に呼び止められた。

「おい、そこのあんた」

ヴァウェルは振り向く。

「なんですか」

「ちょっと、こっちに来てくれ。用があるんだ」

ヴァウェルはジャケットの下に隠してある拳銃の位置を確認し、男に着いていった。部屋に入ると男はヴァウェルを振り向く。

その青い目に、殺意が見えた。

瞬間、2人は同時に銃を抜く。銃口は互いの左胸に向いていた。男は口を開く。

「お前、ラベル警察署の奴だろう」

「……なんのことですか」

「俺に銃口を向けていて、とぼける気か?」

「それは、あなたがこちらに向けてきたからです」

「随分と反射神経がいいんだな」

「それが俺の売りですから」

「そうか。それなら俺の売りは―――」

突如男が視界から消える。次の瞬間、ヴァウェルは壁に押さえつけられていた。

「この足の速さだな」

「……っ」

銃口がヴァウェルの腹部に突きつけられる。

「お前はラベル警察署交通課副班長、ヴァウェル・オリントだな?」

眉間に皺を寄せて男を睨んだ。

「なぜ、それを……」

「知らなかったのか?」

ニヤリ、と笑った。

「俺は一時期ラベル警察署に潜入していたんだぜ」

「なっ……」

「うちのガキがお前らの所に捕まったっていうから、その様子見と情報収集の為に警官に扮していたんだ。案外警察署っていうのも手薄なんだな」

「……」

「さて、貴様をどう処理してくれよう」

ヴァウェルはギロリと男を睨むと、ひざで男の腹を蹴り上げた。

「っ……」

男の力が緩んだ所で彼を突き飛ばし、隙をついて部屋を出る。見つかってしまった以上、一番危険なのは人質に捕らわれているキール達だ。ラベル警察署の者がここに潜入したということは、もはやクルを使ってはめるということは自分たちにとって無意味なことであるというのも『マーダレス』にはわかっているだろう。そうなるとクルを含める人質の6人は直ぐにでも皆殺しされることに間違いはない。

ヴァウェルは倉庫へ走った。ビルを出て倉庫の入り口が見える。

その時。

銃声が響き肩に激痛が走る。

「くっ……」

ヴァウェルは右肩を抑えて地面へ転がった。血がドクドクと溢れ左手は見る見るうちに生々しい赤色に染まった。

「俺の売りは足の速さだって、言わなかったか?」

嘲笑にも似た声が聞こえ、ヴァウェルは振り向いた。さっきの男が、煙を立てる銃口をこちらへ向け、ゆっくり近づいて来る。目の前に立つと、しゃがみ込む。そしてヴァウェルの髪を乱暴に掴むと、グイ、と引き寄せた。その顔は、不敵な笑みを浮かべる。

「じゃ、ボスとご対面といきますか」

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