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あけましておめでとうございます。ゆっくりペースですが投稿していきます。

360度見渡す限りの緑である。近所の家々が昼御飯を作る匂いや、近くを行く車の排気音。そんな当たり前にあった日常が其処にはない。一言でいえば空気が違うのだ。つい今しがた迄とは肌に感じる外気温も、吸い込んだ身体に感じる空気の味も、日差しの強ささえもが違う。

一言でいうならばそこは森の中だった。



叔父の頭がおかしくなった、壊れたしまったと嘆く静を孝弘が落ち着かせている間に、ノートを奪い返した信慶(のぶちか)が何かを行った。

信慶に掴みかかろうとした静を孝弘が止めようとしたところで、ドオォォンと大地が揺さぶられる。耳を裂く轟音と共に目が焼けそうな程の強く白い光が辺りを包むと、フワリと内臓が持ち上がるような下降感を感じた。


―――落ちるっ!!


文字通り落ちた。意識を失ったのだ。


「う゛………頭痛い……」


孝弘の直ぐ傍で静が頭を抱えて身を起こす。酷い二日酔いの様な鈍痛がした。


「すーちゃん……大丈夫?」

「あんま…り…大丈夫じゃない……吐きそう」


自身も酷い頭痛がするのだろう、孝弘も眉間に皺を寄せて静の背を撫でている。


「――あっ!!2人とも気が付いたぁ~?」


間の抜けた声がこれほど腹立たしい事はないだろうと、2人がは怒気を含んだ視線を信慶に向けた。


「はははっ。2人とも酷い顔だねぇ~」

「……そう言う叔父さんは元気そうね」


森の中にスーツとトレンチコート姿の紳士が、笑顔でいる光景は全く現実感がない。公園ならば違和感ないのだろうが、周りの景色はまるで人の手が加わっていない鬱蒼とした森の中だ。信慶は背の高い草むらを面倒そうに掻き分けて近づくと、何処から持ってきたのかオレンジに似た果物を2人に差し出した。


「あ、これ食べてね。少しは頭痛も良くなる筈だから」

「「………………………………………………………」」

「2人は魔力が無いからねぇ~渡って来るの無理だと思ったんだけど、どうにかなるもんだねぇ~」


受け取ったオレンジモドキを素直に食べて後悔する。すっぱ苦渋い……レモンと八朔にゴーヤの苦味が加わった何とも言えない味だった。しかも、後味は渋柿の渋みだけを何倍にも濃縮したえぐ味がある。


「今は酷い魔素酔いしてると思うけど、暫くしたら治まるはずだから」

「……………………叔父さん」

「あ、その果物は魔素酔いに効くからちゃんと食べてね」

「……………叔父さん、いつからハリー○ッターに転職したの?」


それは職業じゃなくって人名だよ。しかも架空の人物だよ。と心で突っ込みを入れた孝弘は、ふと向けた視線の先、茂みの奥に生き物らしき気配を感じた。一見、周りの草薮に隠れそうな肌をした、しかし異様な緑の肌の子供が、ギラギラとした視線をこちらに向けている。


「心配しなくても、異世界(こっち)に滞在してるとね、2人にも魔力回路ができてぇ」

「おじさんっ!!櫟木のおじさんっ………」


叫ぶ孝弘の声をかき消す様に、茂みから緑の肌をした子供が飛び出してきた。

子供といっても、身長のことであって見た目は正直可愛くも何ともない。異様に大きな口と耳、そして爬虫類を思わせるような容姿に鋭い犬歯。しかも、その手には武器らしき木の棒を持っている。向けられた殺気に、孝弘はボストンバッグから取り出したモノを構えて、静の前に出た。


「なんだありゃ?グレイか?」

「グレー(灰色)じゃなくて緑よ?」

「あぁ~ゴブリンだねぇ~、すーちゃん、孝弘君、危ないから後ろに」


信慶が言い終えない内に、孝弘が構えた金属バットをゴブリン目掛けて振り抜いた。鈍い音と共に人とは違う色の体液を流して後ろへ吹っ飛ぶ。ついで近くにいた2匹目のゴブリンを回転が掛かった身体を利用して、ちょうどいい高さにあった頭を蹴り飛ばした。


「……………あら、釘バッドじゃないのね」

「そんな物騒なもの一般家庭にありませんっ」


確か忍は持っていた筈だ。見た事がある。


「今時の子って怖い……叔父さんこっちに始めて来た時は、そんな戦闘能力無かったよ」

「さて、叔父さん……………孝くんが蹴散らしてくれてる間に、知ってること話して」


まさか現代日本人が、異世界でゴブリンに遭遇してもバット片手に応戦できる事に驚いた信慶だが、奥で弓に矢をつがえるゴブリンを視認し、周囲に風除けの術式を展開した。これで矢が飛んできても自分達に当たる前に逸れていく筈だ。


忍の親友である孝弘君の勇姿を見る限りでは、この世界のどこかにいる忍と雫は大丈夫だろう。

地元の不良やチンピラ、妹達に手を出そうとした野郎共を、いつもあの2人が締め上げていた。いつだったか、静に乱暴しようとした暴走族達を相手に2人で大立ち回りをして警察に呼び出された事があった。ある意味、実戦?経験は豊富だよなぁ~と、少し安心する信慶だった。




**********************************




預かった鍵で玄関を施錠し、これまた(領主が)預かっているトイプードルのリードを持って外に出た。

この異界の建築物である日本家屋は、神位となった3匹のニホンヤモリが守護している。


赤髪の騎士は家主からこの家の鍵を預かっていた。数日に1度顔を出し、ニホンヤモリの様子を見に行って欲しいと頼まれたからだが、何故か彼は毎日通っている。

家の空気を入れ替え、リビングで寛いで、時には得意とする風の魔術で溜まった埃を綺麗にしていた。

時間があればトイプードルのわさびを連れて来ては、家の周りを一緒に散歩したりもするのだ。


「今頃……シノブ達はどうしているだろうか?」


赤髪の騎士に答えるようにわさびが「わんっ♪」と吠えれば「そうかそうか、わさびもそう思うか」とあたかも犬と通じているような言葉を返す。


そろそろ街へ帰ろうかと散歩を切り上げたところで、森の奥で大きな魔術式が行使された気配を感じた。

この家がこちらの世界に来た時ほどの規模ではないが、その気配はどこかから転移してきたようなそれだ。


「ちっ!侵入者か」


魔術師一個人での転移術式は、不可能に近いが不可能ではない。数十人単位で行ったという事例もあるし、携帯できる魔道具で転移術式を簡単に実行しようという研究も進められている。だからこそ、この時に感じた魔術式の気配が、他国からの侵入者だと予想し行動した。


「わさびはそこで待っていろ!!」


そういって森の奥へと入っていく。が、わさびは待つ様子もなく後をてくてくと着いて来た。


「くっ……仕方ない。わさびは俺の後ろだ。前に出るなよ」

「わんっ♪」


分かっているのか分かってないのか、可愛い声で答えたわさびのマズルを慌てて塞ぎ、人差し指を立てて「しーっ」と合図すると、小型犬を抱き上げて森の奥へと進んだ。


『だからねぇ、その便利だって言う魔法とやらで雫達を見つけられないのか?って聞いているの!!』

『……そんな便利な魔術式は無いよぉ。んー、でも、媒介となる身体の一部とかあれば範囲絞って捜索できるかな?あーでも、肉体って生きてる内に細胞分裂を繰り返してるわけだからねぇー。人の細胞は約60兆、これが約90日で全部入れ替わるんだよぉ、3ヶ月で新しい肉体。凄いよねぇ。だからぁ、3ヶ月以内の雫の身体の一部があればできるかなぁ?』

『怖っ!!……おじさん、それ持ってたら間違いなく変質者ですよ』


奥から聞こえてくるのは、人の話し声だった。どうやら気配は3人だ。しかも素人なのか、話の内容は分からないがまるで周囲を警戒せず、歓談をしながら歩いているようだ。


『あ、孝くん……あそこ』

『あぁーまた角生えたウサギだ。あの愛らしい瞳で襲ってくるんだもんなぁー。俺、小動物好きなのにぃ』


そう言って手にした金属製の棒で、近くの木を叩き付ける。

元来臆病な角ウサギは、その行為で獲物が格上の存在だと理解し、逃げていった。


―――武器を持っているのか。


まだ距離があることと、森の木々が姿を隠している事で相手の様子は伺えないが、気配と行動でそれを察知する。


「わんっ♪」

「――っ!!(だ、駄目だわさび…今吠えたら)」

『あれ?すーちゃん、今…犬の声しなかった?』


慌てた騎士の腕から逃れたわさびが地を駆ける。

預かった愛犬を逃がしたと合っては困る。と、騎士は慌てて後を追った。


「わんっわんっわんっ♪」

『―――っ!!わさびぃぃぃぃぃ♪お前無事だったのねぇ』


飼い主の声に反応したわさびが静に駆け寄って来た。

わさびが此処にいるという事は、近くに雫や忍が来ているのだろう。


『ほらね♪叔父さんちゃんと言ったでしょ。お家の転移跡を追って来たんだから、近くに雫が居るはずだって』


刹那、飛び出してきたのは赤い髪が艶やかな騎士だった。

腰に下げた剣に手を掛けて、もう一方の手は前に伸ばして、3人の方へ向けられている。


「此処はルーキス=オルトゥス辺境伯領である。先程、転移して来たのはお前達か?」

「う゛ぅぅぅぅぅぅーわんっわんっ」


静の懐にいたわさびが、主人を護るように牙をむいて吠えた。


「わ、わさびぃ!!な、何故、吠えるのだっ」


思わずうろたえる騎士の様子を見れば、悪い人には見えない。


『何て言ってるか分かんないけど……このイケメン、今わさびって言った?』

『イケメンっ!!て……すーちゃん浮気だよぉ』

『あぁー、何だか彼はわさびを知ってるみたいだね。ええと』


信慶は相手に敵意がないと言う事を示す様に、両手を上に上げて話しかける。


「……あのぉ~怪しい者じゃあ~りませ~ん」


めちゃくちゃ怪しい。


『えっ?叔父さん、外国語しゃべれるの?』

『すーちゃん、この場合は異世界語かな?』

「むっ……貴公は共通語が話せるのだな。ここは魔窟近くの森。何故このような所にいるのだ。先程の転移術式は何だ?』


赤髪の騎士は剣に手を置いたまま、3人を観察し、驚いたように静の容姿で視線を止めた。


『あっ……すーちゃん、俺なんかこいつキライだわ。すっごく嫌な予感がする』

「た、たいぷだ………」


静の顔を熟視する騎士。


『あぁ~叔父さん、久しぶりに一目惚れする瞬間ってのを見たよ』

『止めて下さいよ……おいこら手前ぇ、すーちゃんは俺のだ。手ぇ出すな』

「な、何を言っているのか分からんが…こ、このような場所に長居は良くないぞ。レディ、安全な場所までご案内しましょう」


片膝をついて静の手を取り、騎士は手の甲に口づけを落とした。

騎士らしい慣れた動作に、淑女であればうっとりするところだが…


『ふむぅ……ヘタレ受け?それとも俺様受け?M属性よね??』


呟く静の言葉は理解できない騎士だが、何か背筋を悪寒が走った。


なんかシュルツのへたれっぷりが…

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