53
「女は化けるというが、怖ろしいほど別人だな」
いつの間に入ってきたのか、赤毛の脳筋騎士がまじまじとこちらを見ている。
私とセッカが歌やら踊りやらの猛特訓している時は、暇を持て余しているコウの相手をしてくれているらしく、今日も騎士達に交じって鍛錬をしていたコウを連れて来てくれたようだ。
そういえば、コウは私達の変身後の姿を見るのが初めてだったな?
よし!感想を聞いてみよう!!と傍へ行けば、シュルツ隊長とバーン副隊長の間に隠れ尻尾を丸めて怯るコウ。
「………コウ?」
「どうしましたの?コウ」
じーっとこちらの様子を伺って、鼻をヒクヒクさせるコウ。何か警戒されてますが…
「…………き…」
「「き?」」
「きもちわるい」
なんだとぉぉ!!恥ずかしさ堪えてやっている私に向かって気持ち悪いだとぉぉぉー。
「……なんか、臭いし」
「「え?そう?」」
セッカと2人でくんくんするが、レッスンの後にお風呂でさっぱりしたんだけどなぁ?
「これじゃないか?」そう言って忍兄が取り出しのは小さな香水瓶。さっきセッカと共に使用した新作のフレグランスだ。
「やっぱ駄目かぁー」
「まだまだ改良が必要ですかね?」
忍兄とアル君がぶつぶつ言っているが、つけまつ毛の件があるだけに怪しい。いったい香水の原材料に何を使ったのか問い詰めてみた。
「あー前にセスが言ってたろ?」
「……?」
「セッカの魔力は花の様な香りがするって…」
ああ、確か花人族の魔力は花の様な香りがするとか言ってた件だ。同じ魔人族にはその香りで正体が明らかになってしまう為、対抗策として商品開発した香水らしい。でも魔力の香りって香水で消えたりするのだろうか?
「だからな?香水に他の強い魔力を加えてみた」
何だろう?凄く嫌な予感がするぞ。
「シャールの【魅了】効果が香水にあったら売れるだろーなぁーと」
「忍兄ぃぃぃぃ……何をしたぁぁ?」
「……シャールの体液を少し」
たたたたた体液ぃぃぃ?……涎?血液?涙?そ、それとも下の????
「大丈夫ですよ雫さん。幾ら僕でもそれは阻止しました」
「あれ?アル……入れなかったのか?」
「はい、私の独断で……ま、確かに媚薬作りには効果的な方法ですが」
あれ?じゃあ何を入れたのだろう?
「今回は、シャール様の御髪をひと房漬け込んでみました。強い魔力持ちなら、髪も魔力を帯びてますから」
「ああー、シャブ中の毛髪から覚せい剤の薬物反応がでるっていう…あれと同じか」
忍兄の例えが怖すぎます。つまりは何ですか?常に【魅了】発動中のシャール様の髪をじっくり漬け込んで作った香水を、実験的に使わせたのだという事?酷いです。
しかも【魅了】の付加価値が付いたこの香水、効果があれば忍兄は市場に売り出すつもりらしい……あざと過ぎる。
「よし、コウ。ちょっとこっち来い」
忍兄がバーンさんの後ろに隠れているコウを呼ぶが、騎士服の裾を掴んだまま警戒している。忍兄が呼んでも来ないって事は、コウは相当嫌がってます。それってやはり香水の効果?
痺れを切らした忍兄が暴れるコウを無理やり抱えると、私達の目前で絞めにして向かい合わせた。ちょっとちょっと、これ動物虐待じゃないですか?
「忍兄……やりすぎ……」
「こうでもしないと効果が分からん」
「コウ、どうですかぁ?」
セッカが覗き込むようにコウの顔の近くへ身を寄せると、真っ赤な顔でイヤイヤと首を振るコウ。どうやら息を止めているらしい。
「えいっ!」
セッカが両手でコウをくすぐると、我慢しきれなくなったコウが大きく息を吸い込んだ。
一時、皆の視線がコウに集まる。
「どうやら効いてるみたいだな?」
ふにゅりと足の力が抜け、トロンとした瞳で息を荒くしたコウを後ろから抱えた忍兄が覗き込む。
「ちょっと、効き過ぎですか?次回はもう少し漬け込む時間を短くしてみます」
四六時中傍にいるコウが動けなくなっては困るので、セッカの魔力が誤魔化せる程度に効果を薄めることになった。余程近くに寄らなければ、正体がバレることもないだろうということだ。
というか、シャール様ではなく、アル君の髪を使えば良い様な気がするのだが、面白いので黙っておこう。




