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やってきた第1村人…いやいや、地元民である異世界人達は、我が家を取り囲むように近づいてきた。正直、顔が怖い。馬上な事もあって相手の目線は高く、ガタイの良いお兄さん達の迫力は半端ないので、兄の背中越しにこっそりと様子を伺う。
隊服とでもいうのだろうか?皆さんお揃いの制服ですね。いやカッコイイですよ。体つきも鍛えてますって感が服の上からでもわかります。はい、姉の腐った本制作の為に、兄が仕事用に使っている、筋解剖学の本を借りて読みましたから。
うちの敷地のぎりぎり外で、騎士様らしき方々と何かローブみたいのを着こんだ人が、馬から降りてやって来た。
皆さんタイプは違えど、美人なイケメン揃いだ。何このイケメン率の高さ!ああでも7人中3人くらいは残念な人もいるのね。のっぺりと平たい顔の私がほっとする御顔立ち。ちょっと安心…?
何だか偉そうな、いかにも人様を見下した感たっぷりの騎士が、兄に向って話しかけた。
「*@#‘*@@$#-!?」
「………何を言ってるのかさっぱり分からん!」
我が家の忍兄さまが、不機嫌さを隠そうともせずに両腕を組んで吐き捨てた。騎士様方は後ろのゴブリンを指差している。ああ、あれ倒したのはお前か?とか聞いてるのかな?騎士達も言葉が通じないと理解したようで、口々に何事かを言って相談しているようだ。
痺れを切らした兄は、羽織ったパーカーのポケットから煙草を取り出して、百円ライターで火を点けた。
「@$#$%&っーー!!」
何だか皆さんとても驚いていらっしゃいますが―――忍兄は、ふぅーと紫煙を吐くと、首を傾げる。やだ兄可愛い♪
何?何なの?男達が兄を指差して何事か言っている。忍兄が「これか?」と手にした百円ライターを指差すとローブを着た男がうんうんと頷いた。
忍兄は、カシュっという音と共にライターに火を付けて見せてから、そのライターを手前の男に投げ渡す。
「\@#$%&@――――っ!!!」
避けたー!?何か知らんが、めっちゃビビってライターを避けた。何?爆弾だとでも思ったの?
「だから、何を言ってるか分からんと言っとるだろうがっ」
ぎゃーすかと喚く騎士は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
その様子に、兄は両肩を竦めて鼻で笑った。そう、両肩をあげて「呆れたー」という、欧米人が良く使うジェスチャーだ。文化は違えど、馬鹿にされたのは騎士にも理解できたらしい。
私は紫煙をゆらす兄の横から外に出ると、足元に落ちたライターを拾い上げた。怒る騎士の目前でもう一度火を付けて見せてから、側にいたローブ姿の人にライターを手渡した。
ローブの兄ちゃんは私の仕草を真似てライターに火を付けてみる、おお付いた。ああ、喜んでるよ、良かったねー。
誤解は解けたかな?と思いきや、割って入った私が気に入らないのか?怒った顔の騎士が、私の腕を掴む。
「おい!!お前ぇ…なに人様の妹に手ぇ出してんだぁ?ああぁ?しばくぞ、こるぁぁ」
兄がめっちゃメンチを切ってる!!やばい!!これはやばいぃ!!!
その迫力に、腕を掴んだ騎士が一瞬気押された。スバっと腕を引き離して、兄の後ろ、風除室へ逃げ込んだ――瞬間、騎士が剣に手を伸ばすのを目の端で捉えた。
「おにぃ!!あぶないっ」
思わず兄の背中にしがみ付き、風徐室の方へ引っ張り込んだ。体制を崩した兄が、私の身体の上に後ろ向きのまま倒れ込んでくる。
そこで剣から手を離した騎士が、倒れる兄を助けようとしたのか?は、分からないが、確かに兄の方へと手を伸ばすのが見えた。
――――バチィィィィン
先ほどの金属音とは違った拒絶。我が家の風除室が、騎士が差し伸べた手を弾き返す…っていうか、扉開いてるのに弾くってどんな仕掛け?
流石に兄の身体を支えることは私には無理。完全に倒れる前に、兄が身体を捻って、私に全体重が掛からないようにしてくれたが、重いものはやっぱり重い。ぐぇっという私の声に「おっすまん」と言って、兄が身体を退けてくれた。
そこで漸く他の騎士達が、ことの異常さに気が付いた。剣に手を置いたまま、風徐室の中へ進もうと試みる。だが、見えない壁があるように、そこから先に入ることが出来ないようだ。
風徐室の内側で倒れたままの私と、横に手を着いて座っている兄。見上げると、見えない壁をペタペタと手で触る男達、どうやら異世界人はうちの敷地内に入って来られないらしい。そういえば、先ほどもゴブリンが弾かれてたなぁ。家の中は安全圏内ということか。助かるー。
すると、ローブを着た男が、ライター片手にニコニコを笑顔で何事か話しかけながら、風徐室の中へ入ってきた。あれ?なんで貴方は中に入れるのでしょうか?