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―――で、どうしてこうなった?


朝起きて、いつものように犬の散歩に出かけようと玄関を開けると、其処にある筈の電柱も、自販機も、隣のタバコ屋も、ご近所の家も、コンビニもない。

我が家の前には、見たことのない景色が広がっていた。


自宅まるっと異世界トリップした朝。とりあえず、わさびの散歩ついでに自宅周りを散策してみた。

どうやら、母屋丸ごとトリップしたようで、庭の途中から急に途切れている。残念なのは、離れの車庫がこちらへ来なかった事だ。知らない土地を丸腰で移動するのは怖いし、兄の愛車ジ○ニーさんがあれば多少の遠出も出来たのに。

家丸ごとトリップなのは助かるが、電気も上下水道も使えない。いや、電気は日中だけなら、太陽光発電があるから大丈夫か。


我が家の左方、西の方には綺麗な泉があり、その奥には鬱蒼とした森が家の裏手の方にまで続いている。右方には、広い草っぱらの向うに大きな城壁?らしきモノが見える。


所謂、城壁都市ってやつだろうか?外郭にもぽつぽつと建物が見えるが、内郭部の様子は見えない。城壁の上部から、遠くに石造りの建物がニョキッと生えて見えるが、ビルではない、お城だ。ああ、予想はしてたが、SFちっくな近代都市ではなくって、ファンタジーな訳ね。


愛犬のわさびがウンチをしたので、地面に埋めた。いつもならマナー袋で持ち帰ってトイレに流すのだが、上下水官は元の世界から切り離されトイレが使えない。排泄物は自然界にかえそう。


これからは水が貴重ななるだろうと、近くの泉で顔をザブザブ洗い、自宅へ帰り、とりあえずの身だしなみを整えた。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、戸棚から取り出したカセットコンロで湯を沸かしている間に、わさびのドックフードをトレイに入れる。パントリーにドックフードの大袋を置いてあるので2カ月くらいなら大丈夫だな、それ以降は愛犬用に肉を入手しなくてはいけない。うちの家族は特売日になると、日用品から食料品まで大量に買い込んでパントリーに詰め込んでいるので、しばらくは物に困る事はないだろう。


珈琲メーカーが使えそうにないので、デカンタの上にドリッパーをセットし、上からゆっくりと湯を回し注ぐ。冷蔵庫からミルクを取りだし、自分用のマグにカフェオレを作った。まだ冷蔵庫の中はひんやりとしているが、やはり庫内の電気は消えていた。

どうしたものかと悩んでいたら、2階から兄が下りてきた。「おはよ、珈琲飲む?」と声をかけると「ああ」と一言だけ返事が返ってくる。低血圧な我が兄は、朝はすごぶる機嫌が悪い。


「…で…え………てる?」

「…えっ何?」

「何で、電気が消えてる?」

「つかないから……」

「静は?」

「昨夜は彼氏んとこ泊まるって」

「孝弘(※兄の同級生で姉の彼氏)んとこか…」

「うん……ねぇお兄ちゃん?起きてる?」

「………んっ…」


お兄ちゃん呼びをしてもこの反応…まだ頭は寝ているな。


忍兄(しのぶにい )……電気つかないから、太陽光発電を売電から自家電に切り替えて欲しいんだけど…」

「……んっ……」


兄が半覚醒のままで、太陽光発電を売電から自家利用に切り替える。と、試しに近くの電球を付けてみた。おおついたぁ!!無事に使えることが分かってほっとする。テレビや携帯は役に立たない、待機電力が勿体無いので、使わないテレビ、パソコンの主電源をオフにした。


「…しず…く…」


家の不要な待機電力を片っ端からオフにしていると、リビングから縁側に出たらしい兄が、煙草を片手にしたまま固まっていた。屋内での喫煙を静姉が嫌がる為、縁側がもっぱら兄の喫煙所だ。


「雫……お隣のタバコ屋さんはどこに行ったんだろうなぁ?」

「さあ?………ついでに言うと、反対隣りの家も、角のコンビニも無くなってたよ」


というか、ご近所さんからすると、無くなったのは我が家の方だと思うのだが……。



外に出ると、空にあった薄い双子月はさらに薄く、太陽の光に隠れていた。

兄は咥えタバコのままで家の周りを確認している。どうせ辺りには、人も車もいないのだからと、わさびもノンリードで外へ出す。嬉しいのだろう、兄の後をついて回って喜んでいる。今は愛玩用だとしても、元は猟犬のプードルなのだから、周囲に熊や獣がいれば、何かしら教えてくれるだろう。たぶん…


口元に火のついた煙草を咥えたまま、先程より更に薄くなった双子月を見上げる兄は、紫煙と共に大きく溜息を吐きだした。


「異世界トリップだな……」

「ですね……」

「雫の得意分野だろう……」

「読み物としては」

「………………」

「………………」

「こういう場合は、どうなるんだ?」

「モンスターに襲われてる一行がやって来てそれをチートな力に目覚めた兄が助ける」

「その2」

「モンスターが襲いかかってきて、それを駆け付けた王子様が助けてくれる」

「…その3」

「貴方様は魔王を倒すために召喚された勇者様、もしくは世界を救う御子様です。とお城から迎えが来る?」

「………分かった。もういい…」


吸殻を取り出した携帯灰皿にいれると「…とりあえずは飯だな」と兄が脱テンプレ宣言をする。直後、ガサガサっと近くの草むらから、テンプレ修正が飛び出してきた。


「お……おにい…さま……その2ルートのフラグが立ったようですが?」


草藪から飛び出してきたのは、緑色の小さな小鬼…ゲームで同じみのゴブリンだった。


「――雫っ!家の中に入ってろ!わさびもハウスだっ!!」


我が家の愛犬わさびは、ちゃんと躾られている。兄の声に従って玄関口の雪囲いへと戻ってきた。

積雪が多い地元では、風雪を防ぐ目的で、玄関口にサッシの風除室がある家がほとんどだ。我が家も御多分に漏れず、設置されている。

ギャンギャンと吠える愛犬を屋内へ保護し、自分は風徐室の内側から様子を伺う。とはいえ、透明なガラス越しなので、雪風は避けられても、モンスターの攻撃は避ける事が出来ないんぢゃなかろうか?だってたった1匹とはいえ、あのゴブリン、棍棒みたいの持ってるし。昔、兄が荒れていた時期に愛用していたという釘バット…伝説の釘バットがここにあれば。


玄関前に立つ兄の手には、いつ拾ったんだ?拳大の小石が2つ握られている。そして大きく振りかぶると、鋭い剛球と正確なコントロールでゴブリンの額にクリーンヒットぉ!

さすが元リトルリーグのピッチャー。親の離婚で習い事を辞めたのが勿体無いよ、おにいさま。


後ろに倒れる小鬼ゴブリンに対し、兄はもう一つの小石を片手で玩び、反対の手は腰に置き殺る気満々で待機中。額から血を流したゴブリンが、ふらふらしながらも怒っている。そりゃ怒るわな。

でもね、駄目だよ元ヤンは怒らせたら怖いんだから。


太陽光発電システムについては、乏しい知識ながら友人宅の話を参考にさせていただいております。この世界ではこうなのだ!とご理解ください。

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