第6話 アキギュラ
視点を統一します。ご注意ください。
最後の書類にサインをし、不備がないか確認をしてから右側に積まれた書類の山の上に乗せる。本日中の物はないかと手持ちの書類を確認し、ルルグヴェナスは満足そうに鼻を鳴らして立ち上がった。
壁一面を埋める本の中から昨夜の内に選んでおいた本を数冊抜き出すと、これまた昨夜の内に用意しておいた鞄の中に入れた。
金の瞳をうっとりと細め、鞄を背負う。
「先代!」
ビリビリと音と衝撃が痛いくらいの勢いで扉を開け放った青年は、自分の3倍はありそうなくらい膨らんだ鞄を背負い、少し前屈みになっているルルグヴェナスを見て徐々に目を見開き一度扉を閉めた。そして間を置かず再び扉を開けて何事もなかったようにルルグヴェナスに近寄った。
「我はお前のそういった所は嫌いではないぞ?」
「ありがとうございます」
鞄をしっかりと背負い、まっすぐ立ったルルグヴェナスは青髪の青年に向き直り首を傾げた。
「本日中の仕事は片したぞ」
「ええ、わかっております。別件です」
「アキギュラか」
「はい。正式な書状がきました」
面倒な。そう言いたそうな顔で手を出すとすかさず件の書状が渡される。
「お前はどう思う」
内容に目を通しつつ、青年に意見を求めると、眉間に皺を寄せ、端正な顔を歪めた。
「国と思えば受けるべきかと」
「個人としては?」
「都合がよすぎるかと」
そう青年は吐き捨てた。
性格は生真面目で平等。比較的穏和な部類に入る青年だが、根に持つ質だ。
「話はしてみる。受けるかどうかはあいつと、子ら次第だ」
「よろしくお願いいたします」
「あんまり思い詰めるなよ、アウニャロ」
軽く頭を叩かれて、アウニャロは苦笑した。ルルグヴェナスとて平然を装っているが内心は違うだろう。まだまだ精進が足りないと痛感させられる。
「時間がありましたらご挨拶に伺うと、お伝え下さい」
「了解」
部屋を出ていくルルグヴェナスに、待機していた私兵が続く。それぞれ大荷物を抱えているが、いったいそれほど何を持っていっているのか。
話に聞くヒト型で生まれた竜族の子ら。先代であるルルグヴェナスが足早に会いに行くその魅力とはどんなものか。
会うのが楽しみだと口端を上げ、アウニャロはルルグヴェナスが片付けていった書類の山を持ち上げた。
「今代様」
「お持ちいたします」
「いや、いい」
さっさと仕事を片付け、時間を作ろうとアウニャロは足を早めた。