15歳の夏
蝉の鳴き声が響き渡る夏の東京。
何をする気もなく、ただただ家に引きこもって1年半が過ぎようとしている。
コンコン、と、ドアをノックする音が聞こえた。たぶん、お母さんだろう。
私の予想は当たっていた。
「ひかる、今日も学校は・・・。」
お母さんの言葉が途切れた。たぶん、聞いても同じ答えが返ってくるだろう、と、察したに違いない。そのあと、お母さんの足音が薄れていった。
私は立ち上がり、ベットへ飛び込んだ。あまりふかふかではないけれど、顔をうずめた。”引きこもり”に慣れてしまった私は、家から出る気をなくした。いや、むしろ出ようとも思わない。自分の部屋から出るのは、トイレやお風呂に入るときだけだ。もう、生きる意味さえもわからなくなってきている。
ふと、カーテンを開けた。そこには、見慣れた景色があった。一番手前には歩道橋があり、その下には電車が通っている。周りには住宅街があり・・・。また、少し離れた所には高層ビルが立ち並んでいる。
目に入ったのは、私と同じくらいの歳の男子が歩道橋の上から電車を眺めていた。
彼は私の存在に気付いたのか、こっちを見た。目が合った。とても顔の整った人だ。私はなぜか話したくなって、窓を開けた。
「・・・電車、好きなんだ。ガキみたいだけど」
彼は笑いながら言った。
「・・・べつに、ガキじゃないよ。」
苦笑いしながら言った私に、その男子は戸惑いを隠せないようだ。でも、すぐに表情は元に戻った。
「学校は?」
踏み込んでほしくないところに入られた。
でもなぜだろう。この人には話したくなった。私のすべてを。初対面なのに、不思議なものだ。
「・・・行ってない。中1以来、ずっと。」
「なんで?」
「・・・怖いの。私、裏切られたから。女子にも男子にも・・・。」
彼は、黙ってしまった。
だめだ、空気を悪くしてしまった。私の悪い所・・・。
「学校、来なよ。お前、花風中学だろ?花風中学の、瀧本ひかる。」
・・・なんで私の名前、知ってるの?
会ったこともないのに・・・・・。
彼は、小さく鼻で笑った。その仕草は、どこか懐かしく思えた。
「びっくりするなよ。会ったことあるだろ。覚えてない?」
私は黙ったまま、瞬きもできなかった。
「あー・・・。覚えてないか。そうだよな、ガキだったもんなー。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・瀬戸内真。俺は、瀬戸内真。」