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第87話

「ゼオン、悪いけど俺はこれから単独で移動させてもらうよ。」

「おいおい、奴隷たちはどうするんだよ?」

「ギルドに預かってもらってくれ。用事が済んだら戻るからな。」

集は異世界人の記憶から読み取った情報から依頼を途中放棄するかたちで別行動する旨を伝えると案の定ゼオンが奴隷たちの対応を聞いてくる。

集がそれに答えるとゼオンが素直に頷いたのを集は確認して廃城から走りだしていく。

(もし、俺の予想が正しければ兄さんはともかく葵と薫が危ないな。)

集が読み取ったのはその異世界人が闇ギルドに所属をしているということと、闇ギルドのトップの同じく異世界人がジュリカ国と手を組んでいるということ。そして、ディンペンド国のAランカーを引き離しAランカーが依頼に出かけたとは逆にある学園に強襲をかけることが予想できる。

「転移すれば、間に合うだろう。」

そう、集が慌てない理由は一瞬で移動する手段があるからだ。しかし・・。

「転移、できない・・だと。」

ほんの1日前まで出来た転移ができないことに集は混乱する。空白は一瞬のことで急いで『全知』を発動させて原因を探る。

そして、原因を突き止めると集の雰囲気が一変する。

「あ・・・のぉ・・・・クソジジィがぁぁぁぁぁ‼」

最高神の干渉。アイテールの干渉によって集は転移が出来なくなってしまっている。

「まだまだ、気がぬけてるのぉ~。」

そんな声が聞こえてくるような気がして集はとりあえず、全力で走り始める。

後ろから風で押すことで加速して、そのスピードに耐えられるように動体視力を強化して木々を避けていく。

(タイムリミットは3日。この速度でギリギリか⁉)

必死に集は足を動かして学園へと急ぐ。

それは、葵と薫がまだ未熟だからだ。2人はあと少しで1流の仲間入りができるレベルの強者である。しかし、結局はあと少しなだけだ。本当に1流で戦場を生きてきた猛者たちには敵わない。周りのことを庇わずに逃げるのが精いっぱいである。

(こんな大がかりの作戦に生半可な戦力が投入されるわけがない。まずい、最悪に不味い!)

集に限らず俊も家族は自身にとって掛け替えのないものだ。一度、異世界に連れてこられてその大切さを身に深く刻み込まれている。ただでさえ、過保護な2人がさらに重度のシスコンを患うほどだ。

(間に合ってくれよ。)

世界への影響を考えた上で最大限の力で移動する集は心の中で神になって初めて祈った。

「遂に尻尾を出しましたね。」

「そうだな。予想以上に数が多いがな。」

また近づいてきた兵士を切り捨てながら俊はアリアナに話しかける。アリアナは得意な氷魔法で牽制しながら俊に答えていると部隊の指揮をする。

「第3席!5人をほど引き連れて退路の確保をしろ!それ以外の者は5人ほどで塊をつくり、防衛に専念しろ!突出するな!第3席の退路ができ次第、全員一塊になり撤退を開始する!。」

「「「おう‼」」」

アリアナの指示に全員が返答するのを確認してアリアナは俊の襟を引っ張る。

「いたっ!ちょ、隊長。いきなり引っ張らないでください。」

「突出するなと言っただろう。敵はジュリカ国だけじゃなく、闇ギルドもいるんだ。奴らは闇討ちを最も得意としている。1人になったらやられるぞ。」

「そんな奴らの見分けがつくんですか?!」

俊の驚愕にアリアナは答えずに適当に氷魔法を放って兵士たちを冷凍保存していく。俊もそれに負けじと魔法を放って兵士たちを寄せ付けない。

「結構な数がいますね。(本気だせば一瞬だろうけど。)」

小さい声の独白は誰にも聞かれることなく喧騒の中へと消えていった。

「全員止まれ!」

誰かの掛け声で兵士たちの動きが止まる。それに合わせて近衛騎士の動きを止める。

「ご機嫌麗しゅう。ディンペンド国の近衛騎士諸君。僕は闇ギルドのギルドマスター、アシヤというものです。以後お見知りおきを。」

兵士の合間を縫って出てきたのは戦場に出てくるには軽装備の男だった。

「そのお偉いさんが何の用だ?」

「僕が用があるのはそこのすごい剣を持っている君だよ。」

そういって俊を指さす闇ギルドのギルドマスターに俊は気の抜けた表情をする。

「お、俺?」

「そう、君だよ。それ以外は正直このまま見逃しても大してこちらの計画に支障をきたさないよ。でも、君は違う。正直言って、今のこの兵は君を足止めするためだけにあると思ってくれていい。それに今から行って間に合うかどうかも怪しいからね。」

その発言にアリアナは顔を顰める。

「やはり、我々をここまで引きずり出し王都を襲うのが魂胆か?」

「そんな有り触れたことはやらないよ。僕たちが潰そうとしているのは、ディンペンド国の今より先に未来を潰すのさ。よく言うだろ?芽生えた草を抜くよりも種を掘り返したほうが確実だ。」

「きさまぁあ!」

遂にアリアナが察したのに気が付いたのかアシヤは薄ら笑う。しかし、その目はアリアナを見ているようで俊を見ていた。アシヤからは俊が俯いていて表情は読み取れないが悔しそうに歪んでいることを想像した。

「どうするんだい?君の溺愛している妹が確か学園にいるんじゃなかったっけ?いいのかい、こんなところにいて?」

挑発するようにアシヤが言うと俊が顔を上げる。アシヤはその瞬間まで浮かべていた笑みをその瞬間に消した。

「お前、殺してやるよ。」

抑揚のないその言葉に敵だけじゃなく味方も寒気を覚えた。

アシヤを射抜く俊の双眸は濁り、殺意に満たされていた。その口から発せられる言葉すらも殺意に包まれて呪詛のように聞こえた。

「は、はは。それが君の本性か。とんだ、化け物だね。」

俊の目に怯んでも自分の有利を疑わないアシヤにアリアナは内心で罵倒する。

(なんだ、これは⁉私の知っている俊ではない!こいつはこんなにも不安定なのか?)

最後に冷静を取り戻してすぐに近くの騎士に撤退の合図を出して急いで態勢を整えさせる。

「死ねよ。」

(あれには、抑える何かが必要だな。何が切っ掛けかわからないが、あんな目をするシュンを私は見たくない。)

内心では俊の心の状態を心配して近くにいたい気持ちを抑えてアリアナは隊長としての責務を果たす。今回ばかりは隊長としての立場を呪わずにはいられなかった。

「撤退開始!!」

俊がアシヤに飛び掛かると同時にアリアナは一気に身を翻して兵士たちをなぎ倒して道を確保していく。

(頼むから無事でいてくれよ。)


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