第83話
「ふう、そっちはどうだった?」
ガンランの被害が出ている地域の町の宿に集合して3人は今日集めた情報を共有する。
「聞いた話によるとまだこの町の周辺で活動をしているみたいだな。」
「ええ、私も軽く森の中などを見て回りましたけど盗賊の拠点らしきものを3,4ヶ所見つけました。」
ゼオンとネシルの話を聞いて集は頭を捻る。
「どうした。気になることでもあるのか?」
「そうだな。元Aランカーにしては1つの地域に長居しすぎな感じでな。」
「確かにそうですね。盗賊討伐の依頼を受けていたら長居の危険性を理解しているはずですけどね。」
「考えても仕方がないだろう。明日から拠点を1つ1つ潰して回ればいいんだろうからな。」
そのゼオンの意見に集もネシルも否定的な意見を述べずに静かに頷く。そして、ネシルが見つけた拠点を地図上で確認し制圧でのフォーメーションを話し合う。
「それで、集はどこ行ってたんだ?」
フォーメーションの話が終わるとゼオンが唐突に切り出す。町に到着した途端、用事があると言って消えた集が気になったのだろう。
「秘密だ。」
それに対して集は意味深な笑みを作って意地悪く返事をする。それに一層好奇心を刺激されたゼオンがしつこく聞いて来ても集はのらりくらりとそれを回避していく。誰もそこから一瞬で学園まで行って講師の仕事をしてきただなんて普通にいう事が出来ない。
「そんなことよりもだ。明日は制圧なんだ。もう休もう。」
「逃げたな。」
「逃げましたね。」
「別にいいだろ。それじゃあ、俺は部屋に帰るぞ。」
「私も武器の手入れがあるので。」
「俺は酒を飲んでいい感じに出来上がってから寝るわ。じゃ、また明日な。」
そう言って夜の行動は終了となりそれぞれが各々の好きなように移動を始める。
(さてと、嫌な予感がするけどここで『全知』を使うわけにもいかないからな。普通に考察をするしかないか。)
全知を使ったらそれこそガンランの居場所だけじゃなく遠いパンドラにいる俊の状況も葵や薫の状況も手に取るようにわかる。けど、それをやったらつまらない、と集は考えている。
「今回のガンランの行動はあまりにも露骨すぎる。自分に注意を向けさせるためにやっていることは簡単にわかる。でもその真意は?この地域からだと該当される意味があまりにも多い。」
集は困ったように眉間に手を添えてベットに座る。
『お困りの様ですね。』
「今回ばかりは不安だよ。正直、ギルドマスターも今回のガンランの動きには何かしらの違和感を感じてたんだろうね。だから派遣されたのがたったの3人。普通の盗賊討伐でも少なすぎる。相手のボスは元Aランクだ。ギルドマスターは何かしらの事態に備えてあまり王都から有力な冒険者を引き離したくないんだろう。」
『しかし、王都の周辺には重要な町が多くあります。』
朱雀のその言葉に集は俯く。そこが集の気がかりなところだからだ。
「今は、王女の近衛騎士も遠征で出払っていてAランクの3人が王都から離れている。この状態で王都だけじゃなくその周辺の重要な都市を守りきれるのかが不安だ。」
『いかがしますか?』
「今は特に動けないだろうね。これはもうガンランを拷問でもして吐き出させるしかなさそうだよ。」
あくまで人の範疇で集は動くつもりでいる。無理にすべてを知って対策をしようともしない。
『簡単に吐いてくれると助かるんですけどね。私としては久々に主様と一緒に戦うことができるので楽しみですね。どれだけ耐えることができるのか…。』
もし鳥じゃなく人の顔が付いていたら大層悪い笑みを浮かべているであろう朱雀を見て集はため息をつく。
「必ずしもお前を使える状況とは限らないからな、先に言っとくぞ。」
『わかっていますとも。別に最近出番がなくて久々に燃えているわけじゃないですよ。ええ、そうですとも。不死鳥の私がそんな簡単に燃え尽きるわけがありません。』
なぜか知らないがトリップをし始めた朱雀から距離を取る集。本当は放置気味で拗ねているだけなのだが、集はそれを考慮しない。
「今回は後手に回ることになるか・・。」
少し憂鬱そうな表情で集はベットに倒れ込む。そのまま手足をバタバタと動かして静かに眠る準備を始めた。
「朱雀、頼みがあるからちょっとこれを準備してくれないか。期限は明日の朝までだからゆっくりして来てくれ。」
集が渡してきた紙を朱雀は嘴で受け取って内容を読む。それを見て朱雀は首を傾げる。
『かしこまりました。確実にすべてそろえてきます。』
「ありがとう。」
そう言って朱雀が窓から飛び立つのを見送ってから集はベットに入って静かに眠りについた。
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「ガンラン。予定通り冒険者が近くの町までお前の討伐にやってきたぞ。」
「おう。ここまでは予定通りだな。相手は誰だ?」
「『脳射』『壊鎚』『変幻百器』だ。」
「っ!!大当たりじゃねえか!!」
「落ち着け、さっきから魔力が周りに撒き散らされているぞ。」
「これが落ち着いてられるか!!最後に十傑の1人とやれるなんて俺にとってはこれとない大往生だ。」
獰猛な笑みを浮かべて期待に溢れた目で少年のように輝いている。
(この戦闘狂なところがなければ素晴らしい素質を持った男になるというのに。)
残念そうな感じでガンランを見る男。
それに気付かずに1人戦いに思いを馳せるガンランは棚から高そうなワインを取り出す。グラスを男に渡してワインを注ぐと自分のグラスにも注ぐ。
「計画の成功を祈って。」
「俺の大往生を願って。」
「「乾杯。」」
掛け声とともにワインを一気に飲み干す。飲み干したグラスを机に置いて男はその場を後にする。1人残ったガンランはグラスを置くとワインのラッパ飲みを開始した。
「最高だな。」
酒精と高揚感が体を満たしていくのを感じながらガンランは小さく笑いながらつぶやいた。