第81話
「ギルマス、なんの用?」
ギルドに着いて早々にギルドマスターから呼び出された集は執務室に入る。
入ってきた集に向けられた視線は3つ。
「へぇ、珍しいメンツだね。これは。」
執務室にいるメンバーを見て集は少し驚いた表情になって笑う。
「今回は、Aランクのみで依頼を受けてもらいたかったんですよ。」
執務室の一番奥。集にとって対角線上にいる狐の耳が生えたまだ30も行かない男性が答える。
「それにしても、俺は変幻百器に会うなんて初めてだぜ。俺は、『壊鎚』のゼオン。よろしくな。」
顔が獅子の巨漢が集に握手を求めて手を伸ばしたので集もそれに応じる。
「わ、私も初めてです!ネシルって言います。若輩者ですが、よ、よろしくお願いします。」
緊張した表情で集に敬礼するのは人間の女で薄い装備を身にまとっている。
集はさっとネシルの体を目で確認して少しだけ感心する。
「変幻も気が付いたか。こいつまだ19でこんなにいいからだしてるんだぜ。将来が楽しみだよな!」
少し言い方が妙だったが集もそれには同意した。ネシルの体は集やゼオンと同じく一種の完成された肉体だ。集は万能型を突き詰めた筋肉の付き方をしていて、ゼオンは槌を振り回すために筋肉が付いている。ネシルの筋肉の付き方から想像して集は弓を得意とする斥候系の冒険者だとあたりを付ける。
「よろしく。俺は集。巷では変幻百器と呼ばれている。」
「自己紹介が済んだところで依頼の話をしてもいいでしょうか?」
集が言い終わるとあくまで下手に出るゼオンと集が顔を顰める。この2人はギルドマスターが下手に出る時など厄介ごとでしかないことを経験で知っている集は最近、学園の教師の件でそれを思い知った。
「それで、内容は?」
「元Aランクの冒険者ガンランの捕獲ですね。」
「ガンランの噂は知っているが、あいつはAランクが剥奪されただけでBランクとして働いているんじゃないのか?」
「それが、少し前に冒険者権利も剥奪になりました。」
「なるほど、それからは盗賊に堕ちたか。」
「え、え?ど、どうしてですか?」
ギルドマスターと集とゼオンだけで話が進んでいくとネシルが取り残される。
「「「・・・・・・。」」」
何でわからないの?っていう表情で3人がネシルを見る。
「うう、すいません。」
「まあ、まだまだ若いし仕方がないだろう。」
と、ゼオンの意見。
「俺の方が若いけど?」
と、意地悪そうに集が言う。
「君と比べたら可哀想すぎるでしょうね。」
ギルドマスターがにこやかに言う。
「え、えと、すいません。」
集と比較されて少し気落ち気味になるネシルにゼオンが慰める。
「気を落とすな。だいたい十傑の1人がまともなわけがないだろう。お前はその年でAランクになったんだ。自信を持て。」
「・・・・話を戻しますよ。ガンランは元々その暴力性は有名だったけど、素行不良の度が行きすぎでAランクを剥奪。Bランクになるも元Aランクという肩書で格下の冒険者の報酬をカツアゲする場面が何度も目撃されました。依頼達成度の低下もあり、ギルドはガンランを追放。そののち、就職先が見つからずに盗賊に身を落としました。」
「つまりは、ギルドの風評がひどくなるからさっさと片付けたいんだよ。」
「なるほど。」
ネシルが納得してようやく話が進み始める。
「俺たちの選考基準は?」
ゼオンが鋭い目でギルドマスターを見る様子はまさしく獅子が獲物を狩ろうとするような雰囲気がある。
「少数で依頼を達成する可能性があり、尚且つ断らないであろう人員です。ゼオンさんは酒代のつけが大分たまっているようですので。ネシルさんは前回の依頼で装備を一新したため金欠気味。集さんも奴隷をまとめて買ったため金欠気味。依頼もギルドの尻拭いですのでそれなりの報酬を準備させていただきます。受けていただけますよね?」
断らないことを確信した口調で確認を取るギルドマスターに3人は悪態をつく。
「お前、やっぱり性格悪いな。まあ、受けるぜ。」
「ギルドマスターなんかより商人の方が向いてるんじゃないか?」
「なんで、周りの人間がギルドマスターに近づきたがらないのかわかった気がします。」
そうして各々が依頼書を受け取ってギルドマスターの部屋を後にした。
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「で、今からすぐに行くのか?」
「今日中には出発をしよう。一度、帰って装備を整えてから南門に集合。この依頼書にあるギルドの準備した馬車を受け取り、ガンランの被害にあったと思われる地域を回る。この依頼に掛かる予定日数は・・。」
チラッと集は言葉を切ってゼオンに目をやると、ゼオンは。
「そうだな。ガンランは単純ではあるが、頭は悪くない。アジトへの攻撃事態は1発で済ませるべきだろう。少しずつ追い詰める作戦は今回は下策だろうな。」
「ああ、それには確かに賛成だ。それを考えると移動に5日。情報収集に2日。殲滅に半日。帰りに6日。と考えるべきだろう。」
「え、と。お2人は他にご予定はないんですか?」
「あの腹黒狐のことだ。俺たちがこの後しばらく予定がないことぐらい調べているはずだ。」
「ああ、俺の常時依頼の方は他の依頼を優先しても文句は言われないし、移動手段もある。」
その移動手段が瞬間移動だとは言えないが・・。
「それじゃあ、また南門でな。」
「ああ、それじゃあな。」
「ま、また。」
そういって各々で武器を取りに戻り3人はガンラン捕獲に旅立った。