第80話
「ということで、完成した!」
完成したその服をまとめて集は部屋を出るとレイナを探す。
「お、いたいた。レイナ。服ができたよ。」
両手に抱えた服の束をレイナに見せつけながら晴れやかな表情とは裏腹にレイナの表情を優れない。
「どうした?」
「いえ、ただ少し疲れているだけです。」
「予想以上にあいつらが使えないの?」
「そんなことはないんですけど・・。」
歯切れの悪いレイナを訝しげに感じた集はその服を持ったまま奴隷たちの部屋までまっすぐ向かう。
「入るぞ。」
ノックもしないで入ると3人が慌てた様子で集の前に並ぶ。空いている3つのベットと未だに膨らみのあるベットが1つ。
「これからお前たちが着る仕事着を持ってきた。1つは執事服、3つが侍女服だ。本当は戦闘服も作るつもりだったんだが面倒になったからそれぞれの服を頑丈に作っている。1つにつき3セット入っているからそれぞれ今日からはこれを着て仕事に励んでくれ。」
リリー、シンク、アラジンは恐縮しながらそれぞれの袋を受け取るといそいそと着替えを始める。
「お前が原因みたいだな。」
まだ山になっているベットの前まで行って立ち止まる。そのままタオルケットを奪うと丸くなって寝ているカーリーがいた。
「ここに来て2日はしっかりとやっていたんですけど、少しずつ寝坊などが目立ってきて最近では大声でも起きませんね。」
後ろからついて来ていたレイナが言うと集の顔に青筋ができる。
「そうか、少し気が抜けているみたいだから今日は俺が特別に訓練をしてやる。」
そういうと同時に集はカーリーの襟を掴んで持ち上げる。さすがに起きたカーリーが集の表情を見て頭に?を浮かべる。
「喜べ。生き地獄の始まりだ。」
そのまま下にカーリーを下に降ろして服を着替えるように伝えると集はその部屋を出て中庭へと姿を消した。
「いったい、どうしたの?」
まったく状況が理解できていないカーリーが周りに聞くと全員がため息をついて説明をする。
「僕、またやっちゃったのか・・。」
奴隷商にいた時からそういう緊張感を持てずに何度も寝坊しては商人に怒られていた。酷い時には殴られるまで起きない時もある。
しかし、それはどうしようもないことでもあった。
狐族という種族はそもそもある特定の季節には弱い。その季節だとひたすらに眠くなる。それが春である。地球と違って季節というものが存在しないこの世界ではディンペンド国がある場所は年中春の気候である。大人になるとある程度制御ができるが、未熟なカーリーは制御ができていない。
だからこそ、それを知っている集は手加減をしない。その制御が身に付けば狐族という種族は一気に実力を伸ばす。
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だが、これはやりすぎに感じるのはレイナだけではないだろう。
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「レイナも混じる?」
目の前の地獄絵図を背景に集が返り血を拭きながらレイナに聞くとレイナは丁寧に断る。
「そう?じゃあ、続きをしようか。」
嬲っては強制的に回復させ、再び嬲りまた回復させる。完全に心が折れても追い打ちをやめない。心が粉々になるまでやめない。そこまでやって初めて今回の集の目的が果たされる。
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「今日はこのぐらいでいいかな。」
「「「「・・・・。」」」」
既に答える気力は残っていない。生きていることを疑うほど呼吸は浅く全員傷だらけだ。その割に服は汚れているだけで破けていたりしていない。
「最低限の治療はしといた。あとはいつも通りに過ごせ。」
この後、昼食を取ったらレイナに仕事を教えてもらいその後座学が待っている。
4人は脳内で今日の予定を反芻して今すぐにこの家から逃げ出したい心情になる。奴隷でなければすでに逃げ出していただろう。
「いいことを、教えてあげるよ。もし、一人前に仕事ができるようになったら給料を払うようにするつもりだよ。それまで頑張りな。」
少し優しげな口調で語りかけると集はレイナからタオルを受け取って水を浴びに行く。
レイナも4人にすぐに支度を整えるように伝えて集の後を追って家の中へと消えていく。
「随分、立派なものを渡したんですね。」
レイナは4人の服が破けていないのを見て集を訝しめに見る。
「レイナのには足元にも及ばないよ。レイナのは今のところ最高傑作でもあるからね。」
それを聞くとレイナは少し晴れた顔をしてうれしそうな表情に変わる。
それを見た集は自分と同じ性能の物じゃないと優越感があるのか?と感じて追及はしない。
「それじゃあ、あとよろしく。」
「どちらへ?」
「ギルドの方に顔を出しに行くよ。さすがに1週間顔を出さないと金がやばい。」
集のギルドでの働きだけで生活できているとはいえ、さすがに奴隷を4人買ったら心もとなくなる。
「わかりました。お気をつけていってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
レイナが礼儀正しく礼をすると集が軽くそれに返して家を後にする。
「あれを見ると私もまだまだだと痛感しますね。」
集が家を出るのを見送るとレイナが小さく呟く。
「ねえ、レイナ庭のあれはなんなの?」
声を聴いて庭を覗いたらしいフェンが頬を引き攣らせながらレイナに聞くとレイナの表情はなぜか遠くを見ているようなものになって言葉を濁す。
「知らない方がいいですよ。あれは、あの方だからこそできるものだと思ってください。」
正直に言ってあれは言葉では表せられないというのがレイナの本音だった。
もし、これを薫が見ていたら自分たちの方がまだまだ甘いというのが良くわかっただろうが見ていない以上容赦なくやられていると考え続けていた。