第79話
「ふ~、最近私たちが出動する機会が増えてきましたね。」
「仕方ないだろう。王様は姫様しか跡継ぎがいないんだからその近衛である俺たちは力を示さないといけない時期に入ったってことだろう。」
近くの近衛騎士のぼやきに俊が答えるが自身も今回の近衛の出動には納得がいっていない。
(他国からの圧力だと考えると一番可能性が高いのはこの国と同じだけ大国のジュリカしか思いつかないな。しかし、あの国に今そんな余裕があるのか?今回の遠征にもジュリカ国はかなりの兵力を投資しているらしい。つまり、あの国の狙いは首都ではなくつまり・・・。)
「全軍、止まれ!」
そうこう考えているうちに目的地に到着してアリアナの声が響く。
アリアナの声と同時に俊は自分なりの答えに辿り着いて意識を表に戻す。
「これより、我々はこの場所を拠点とする。斥候部隊を直ちに向かわせ、パンドラの確認をさせろ。その他のものは警戒を解かずに拠点の作成に取り掛かれ!俊は少し私と一緒に来てくれ。話がある。」
「「「はっ!」」」」
騎士たちが慌ただしく動き始めたのを尻目に俊とアリアナはそこから離れて声が届かないところまで移動する。
「今回の遠征はどう思う?」
「近衛隊長ともあろう人がいきなり任務の意義に関して部下に問うのはいかがかと思いますよ。」
「茶化すな。」
ちょっとした冗談にも真顔で返されてこれ以上ふざけてるわけにもいかないと考えた俊は素直に話し始める。
「ジュリカ国が圧力をかけてきたと考えています。」
「やはり、そう思うか。しかし、その割にはジュリカ国の兵士が多いとは思わないか?」
神妙な顔で質問されたのに対して真剣な表情で俊が答える。
「あの国の狙いはこの機に乗じて隊長か私を始末することだと思います。」
「どうしてそう思う?」
「私は元Aランクの冒険者です。ランクの上がり方が異常で冒険者の中では敵意を持つ者の方が多いでしょうし、ポッと出の自分が近衛騎士の副隊長を務めているという事は貴族出身の一般兵士からしたら面白くないでしょうからジュリカ国の賄賂に比較的簡単に乗るでしょう。それに、隊長はその年で近衛騎士の隊長を務めるような逸材です。他国で有名で警戒されるのはもちろん、女性が隊長であることを恥だと考えるバカどもは自国にもたくさんいるでしょう。つまり、私たち2人は消えれば他国にとっては戦力の激減を意味し、自国の権力に飢えているハイエナどもには格好の空席になります。」
「ふ~。パンドラの調査だけでなく他国からの妨害もどうにかしないといけないのか。」
アリアナが疲れたように呟くけど俊の話はそこで終わらなかった。
「今回の話で王はディンペンド国の膿み出しを行うつもりなんでしょう。もし、そうならばすでに何人かの貴族の証拠を掴んで捕縛に向かっているところでしょうね。しかし、1番の問題はそこではありません。」
「どういうことだ。」
「もし、ジュリカ国が同盟を組んで我々を排除しようとした場合、撃退できたとしても我々の立場は非常に危ういものになるでしょう。どんな時でも民主主義はこういうものでは強いものです。」
「すまん、もう少しわかりやすく頼む。」
「すいません。つまり、この調査に兵を出している各国が口裏を合わせて我々を糾弾した場合、王は我々の言葉に耳を傾けることができなくなってしまう。という事です。王と騎士とではその発言力が違います。もし、王が賄賂を受け取った貴族から切り札になりえる証拠を得られない限り、そうなったときは絶望的でしょうね。各国の糾弾にしたがって解雇が最良、下手したら処刑ですね。もし、王がそのすべてを跳ね返して進んだら各国対ディンペンド国の戦争が始まるでしょう。」
「最悪だな。ええ、ジュリカ国が同盟を組んでいないことを祈るばかりです。」
こういっている俊だったが自分の中では同盟を組んでいる可能性が非常に低いと考えていた。集の話し方からも俊に窮地に追いやることが今のところないと考えられる。
「しかし、我々の取る行動は一つに限られるな。」
「ええ。」
「「すべてを返り討ちにする!」」
正しく脳筋な結論に至った2人は晴れ晴れした表情でその場から離れて再び騎士たちに指示を出しに行った。
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「ふむ、予想以上に賄賂額が多いな。」
「しかし、これで逆賊たちの証拠を掴めましたな。」
「そうだな。バカな振りをしていた甲斐があったというものだ。」
ディンペンド国の王の寝室で4人の人影が動いていた。
「ディンペンド王、これで貸し借りは無しだぞ。」
「わかっている。変幻百器殿のおかげでこの国に巣食っている害虫を大方排除することができた。これで、貴殿の身内は正式な国民にした借りはなくなった。」
集と国王と近衛騎士長と王妃。近衛騎士長は正式には国王付き近衛騎士隊長であり、近衛騎士のトップであり、一応人事が違ってもアリアナの上司に当たる。
「ねえ、これであの娘に本格的に政治を教え始めてもいいんじゃないかしら。」
「そうだな。サン(サンテリア)も19だ。今から叩き込めば私が引退するときには私に劣らないだろう。」
「そういう話は俺がいないところでやってくれ。これで俺は消えるからな。これからはお互い不干渉だ。其れじゃあな。」
そういって一人の集が窓から飛び降りてその場から消えると3人は息を吐いて緊張を解す。
「これで多少は憂いがなくなったな。」
「正直、冒険者に力を借りるのはあまりよろしく思いません。」
「仕方いだろう。隊長よ、今日は私ももう休む。お前も下がれ。」
「はっ」
そういって、近衛騎士長はドアから堂々と出ていって王と王妃はその気配が遠ざかるのを感じてベットに倒れ込む。
「お休み。」
「お休みなさい、あなた。」
限界だったのか、王はすぐ様に寝に入って王妃はそれを愛おしそうに眼を細めて隣で一緒に眠った。