第78話
「ここが今日からあなた達の部屋になります。各自、必要なものが棚に入っているので確認し、明日に備えて休みなさい。明日から厳しい毎日になるため気を引き締めているように。さっきも言いましたが、ご主人様の部屋には入らないように。他にも先ほど説明したことを守るように。破った場合には厳しい罰則を与えていいと許可を与えられています。気を付けるように。それじゃあ、お休みなさい。」
淡々とした口調で説明するレイナが出ていくと奴隷の中でため息をつくものが出る。頭のいいという事で選ばれた奴隷たちは主人やその近い者の前で気を抜くなんてことはしない。そのせいか、監視の目がなくなると全員が一気に脱力する。
「予想以上に屋敷が小さかったな。」
奴隷の1人がポツリとつぶやくと全員がそれに同意して首を縦に振る。奴隷を4人も同時に買うほど裕福な人間である。かなりの大きさの屋敷だと身構えていた奴隷側にしては少し気が抜ける思いだった。
それから各自の名前が書かれている小さな棚を開けると服と日用品が入っていて更に小さなベットが4つあるのを確認すると奴隷たちがまず最初にしたことは着替えることだった。
「意外といい材質だな。」
また同じ奴隷が呟くと各自で服に触れて触り心地を確かめていく。今までの奴隷の服と比べたら大概の服はいい材質に感じるだろうが誰もそのことについては何も言わなかった。
「それじゃあ、これから一緒に働くんだから自己紹介をしよう!僕はカーリー、16歳。一応、狐族だよ。よろしく。」
さっきまでの静かさとは打って変わって1人の奴隷が明るい声で話を切り出す。カーリーは蒼いボーイッシュな髪形で活発そうな雰囲気をしている。頭もいいが集が買った理由はスキルにあった。スキルリーダーシップは集団行動に置いてそれを統率する補助を与える。集はカーリーが奴隷たちのトップになるように今後の教育も組んでいるほどだった。
ちなみに、カーリーは女だが自分を僕と呼ぶ所謂、僕っ娘だ。
閑話休題
「俺は、アラジン。18歳で人間だ。たぶん、ここで1番年上で唯一の男だろうな。」
無口で無愛想な雰囲気な上に厳ついアラジンに周りは尻込みするが本人にしては、年上で男だから頼ってくれというニュアンスで伝えたつもりだった。そして、周りの反応に少し小首を傾げる。その見た目に反して面倒見が良く、奴隷商にいたときから周りの男奴隷からは慕われていたが女奴隷とは別室なため他の3人はそれを知らない。
「わ、私は、シンクですぅ。15歳で見ての通り人間ですぅ。よろしくお願いしますぅ。」
アラジンが微妙な雰囲気にしたのを払うようにしゃべりだしたはいいが少しおっとりした感じの大人しげな感じである。髪は金髪で肩まで伸びてしゃべり方からしてのんびりした感じはするが実は4人の中で1番頭の回転が速く、スキルも貴重である。そのスキルは聖母。治癒魔法に特化したスキルで魔法系統のスキルの中で最上位に位置する1つである。正直、何故そんな人間が奴隷のままなのか不思議でもある。
「私はリリー。16歳で元冒険者。その頃の話なら面白くはないけど、いろいろ話せるよ。」
最後は元冒険者だと語るリリーが締めた。雰囲気からして明るくその長いくせ毛のついた赤髪が彼女を一層活発に見せる。
「冒険者なのに奴隷になったのは、何か失敗したのか?」
アラジンがそう聞くのは別に珍しいことではなかった。実際、アラジンたちがいた奴隷商は比較的良心的な店であり、盗賊などから流された奴隷はいない。
「いやいや、親の借金の代わりに私が売られたんだよ。」
以外にディープなことをさらっと言ってのけるリリーにアラジンが失敗したと言わんばかりに表情を歪ませるとリリーは全然気にしていることじゃないといった。
「実際、売るように持ちかけたのは私なんだよ。親は反対してたけど兄弟が他にもいたからね。いろいろ走り回っていい奴隷商を探してくれたんだよ。」
にこやかに言うリリーにアラジンは罪悪感を感じないですむ。
基本的にお互いの奴隷になった理由を聞かないのが奴隷の暗黙の了解なのでアラジンは思ったことを口にしやすいことを反省して胸を撫で下ろす。
「ふ~、お互い自己紹介が終わったことだし明日からの仕事頑張ろうね!」
気まずい空気がなくなって安心したリリーが元気よく言うと周りは空気を重くする?
「わ、私、変な事言った?」
「さっき、レイナさんに説明されたこと覚えてる?」
「お、覚えてるよそれぐらい。」
「朝に訓練、昼に座学、夜は見回りのハードスケジュールですよぉ?」
「え?それぐらい普通じゃないの?」
冒険者なら野営するときなど1日中歩いてからの夜1日中起きていないといけない時などしょっちゅうあった。その感覚が抜けていないリリーにとって大差ないことに感じていた。
「そっか、冒険者はそういう事があるのね。」
リリーの話を聞いて納得したような表情でカーリーが頷く。
「だけど、今日はもう寝よう。レイナさん曰く、明日から辛いらしいから素直にもう休もう。」
カーリーの言葉に3人は頷いて各自服装を着替えてベットに横になろうとするとカーリーがあることを提案する。
「女子はこっちでベット並べて寝ない?」
「ん?どうしたの?」
「どうしたんですかぁ?」
「いや、1人だと僕は寂しいな~って思って。ダメ?」
さりげなく、上目遣いで2人を見るとあっさりと了承して4人でベットを3つ並べると、必然的に壁際に3人のベットが並び、反対の壁にアラジンのベットが1つだけある状態になる。
それを見て少しアラジンも寂しく感じるがそれを頭を振ることで振り払い静かにベットに横になる。反対の壁から女子の仲良さげな声が少しだけ聞こえてくるけど、無視を決め込んですぐに意識を手放した。
アラジンが寝静まってしばらくしても女子たちの会話は終わらない。
「そっか、カーリーさんは元々スラムだったんだね。」
「うん、お母さんが病気で死んじゃったから奴隷商に行ったんだよ。」
「シンクは?」
「私はぁ、物心ついた時には奴隷でしたからよくわからないですぅ。」
「そうなんだ。」
その後も、近況を話していくうちに3人はどんどん仲良くなって眠りに落ちた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちょうど、その頃のジュリカ国の王の執務室で王と勇者教育を任された公爵が密談をしている。
「あの勇者たちの出来はどうだ?」
「まだ、息はありますし心も折れてはいないようですね。」
「ふん、瞬殺された割にはしぶといな。」
「ええ、この方法はかなり良さそうですね。できれば、あの女勇者たちにもやらせたかったですね。」
「仕方がないだろう。すでに、他国の学園で立場を確立していては奪い返しにくい。」
いま、ジュリカ国の勇者たちがやっているの蠱毒というもので無理やり力の底上げをしている。
「これならディンペンドの氷姫にもそうそう遅れを取らないでしょう。」
「そうだな。あの女を食い止められるのは大きい。だが、あの国には不安材料がもう1つある。」
「・・・シュン・タチガワですか。」
「そうだ、あれは実力の底が知れない。だから、今度あるパンドラの調査に不慮の事故で前線からは引いてもらう事にするか。」
「闇ギルドに依頼をするのですか?」
「それも指折りのやつに依頼する予定だ。」
それ以上は何も言わずに公爵は一礼をして執務室を後にしたときの2人の表情は愉快に歪めれていていた。