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第77話

カランカラン。

「本日は当店にご来店くださいましてありがとうございます。」

「ああ、よろしく頼むよ。」

「本日はどのような奴隷をお求めでしょうか?」

「ああ、比較的に若い奴隷を探しに来た。」

「性別にご注文はございますか?」

「いや、気にしない。五体満足で頼む。」

「かしこまりました。」

奴隷商に訪れているのは集とレイナの2人。朱雀とフェンはまたしても留守番であった。留守番を言いつける時に朱雀がものすごく粘ったが集が説得してどうにか置いてきた。

「本当に若いのでいいの?」

応接間に通されて周りに部屋から相手が出ていくと集が後ろに立っているレイナに確認を取る。

「はい。これは私の師のような人の言葉ですが、仕事を覚えさせるのに老若は関係ありません。それを考えた場合、生い先が長い若い奴隷を買った方が得ですし御しやすいです。」

「最後の言葉には少し同意しかねるね。」

集がそういって苦笑するとさっきの商人が近づいてくる気配を感じてすぐに外向けの顔つきになる。

「どうぞ、準備ができましたのでこちらへ。」

軽く頷いて商人の後をついていくとまた違う部屋に案内される。その部屋に入ると大広間のような場所におおよそ13歳から20歳までの奴隷が男女関わらずに数列になって並んでいた。

「選別に時間がかかりそうだから席を外してていいぞ。」

暗にいなくなれと、集が言うと商人は頭を下げてすぐに部屋を出ていく。慣れたその様子から吟味するときはそうして下がらせるのが礼儀として認識されているのだろう。

「レイナ、大まかな選別を手伝ってもらっていい?」

「かしこまりました。」

多くの奴隷はこの集の発言に目を丸くして驚く。侍女などを従えているほどの裕福な人間なら選別などほとんどをその者にやらせている。集のように最初から選別に参加するのは珍しい証拠だった。何より、今の集の言葉で頭のいい奴隷は集が【当たり】の主人であることが瞬時に分かった。

そして、集は奴隷のその反応を見分けてより集の真意に気付いていそうな奴隷を選んでいく。レイナにも事前に打ち合わせて同じように選別をしてもらう。

しばらく、集たちは無言で奴隷たちを吟味していく。2周か3周したところでメモに奴隷たちについていた番号札の番号を書きだして商人を呼ぶ。

「この番号以外の奴隷たちは外してくれ。それから厳選をする。」

「かしこまりました。」

集たちに選ばれなかった奴隷たちは商人の先導のもとに次々と出ていく。数人の奴隷が気落ちした表情になっているのを気付いた集とレイナはそのまま流れていくのを見送る。残った奴隷たちをまた違う部屋を借りて面談をしていく。マニュアル通りのような質問に答えてもらい流れるように捌いていく。


「ふ~、疲れたね。」

「あれほどの奴隷を同時に買っても大丈夫ですか?」

今日、集が買った奴隷の数は4人。もともとは3人の予定だったけど予定外のことが起きて4人になった。4人分の若い奴隷の値段は集の家を1回り大きくできるほどのものだった。

「ああ、一度怖い思いをしたからそれ以来かなりの余裕を常に持ってるよ。」

その怖い思いがレイナが一度の買い物で集の財産の半分を使い切るという悪夢を受けて集は常に一定以上の余裕を持つようにしていた。それをレイナが知る由もないが・・。

「明日から忙しくなりそうだね。」

「その前に、奴隷たちの服など準備するものはいろいろありますよ。」

「あ~、そうだったね。」

レイナの指摘に疲れたようにベットに倒れ込む。それにレイナが服に皺ができて行儀が悪いと注意をするが集はそれに対して手を振るだけで姿勢は直さない。

しばらく集が考え込むとおもむろに立ち上がるとレイナに指示を出し始める。

「適当に奴隷たちの生活用品で必要そうなものを買って来てくれ。」

「私にはどれぐらい必要かあまり想像できませんけど。」

「フェンも連れていくといい。夕飯の買い出しもついでに済ませてくると楽だろうな。といっても、買ってくるものなんて普段着ぐらいだろうね。」

「仕事着はよろしいのですか?」

「それは、俺が作るよ。」

「っ。・・・これと同じものをですか?」

「そんなわけがないじゃん。そんな立派なものは作らないよ。普通のより少し頑丈にして武器とかを持つ部分を増やすためだよ。」

レイナが驚いた表情で自分の服のスカートを摘まむと集は苦笑いした表情で言う。実際、レイナの服はとんでもなく手間暇かけて作られている。集にしては、自分のスキルを『慣らす』ために作ったものの一つでそれをレイナに渡しただけなのだが、レイナは大層大事そうに毎日使用している。

「かしこまりました。行って参ります。」

「うん、これで支払ってくるといいよ。」

奴隷の代金を払った残りが入っている財布をレイナに投げ渡す。

「はい。」

短く答えると中身の確認もしないでレイナはフェンを呼びに行く。中身を見てもどれだけあれば足りるかわからないレイナにとっては意味がないと割り切っている集は小さくため息をつく。

「奴隷たちの教育と一緒にレイナにも教養を身に着けさせるべきかな?」

同じ教育される側にレイナが居ては舐められるだろう、という結論が集の中で出るとすぐに頭を切り替える。そして、寝室を出て工房へと向かっていく。

「さてと、本気を出したら1週間で全員分の仕事着ができるかな?」

作業工程を頭に浮かべながら歩いていると朱雀がちょうど出かけ先から帰ってくるところだった。

「朱雀、腹は膨れた?」

『主様に会うのが久しぶりに感じますね。』

「実際、お前のことは放置していたからな。それで、どうだった?」

『腹は十分に膨れましたし、久々にいい運動ができましたね。これで、しばらく飲まず食わずでも問題ありません。ただ、』

「ん?どうした?」

朱雀の歯切れ悪そうな感じに集が怪訝な表情を作ると朱雀は慌てて弁解をする。

『べ、別に不満があったわけではなくてですね。なぜか、侵入できない場所がありまして。』

「ああ、それたぶんパンドラだな。」

『パンドラ?』

聞きなれない言葉に朱雀が首を傾げる動作がおかしく感じたのか集が苦笑すると、説明を始めた。

『そうでしたか。ならば、いつ解放されるのですか?』

「明日の予定だよ。」

「マジかよ!」

『何者!』

まさかの第三者からの声に朱雀が驚くとそちらを向くと俊が凄い勢いで廊下を歩いてくるところだった。

「兄さん、普通に不法侵入しないでよ。」

「いや、レイナさんが普通に入れてくれたぞ。そんなことより、パンドラの箱に侵入できるようになるのが明日なのか?!」

「さっきも、そういったじゃん。」

『そんなことより、主に一言も言わずに人を招き入れていいものなのか?』

朱雀の小さなツッコミに誰も反応してもらえず拗ねた朱雀はそそくさと自分の寝床に引っ込んでいく。

「パンドラが解放されて一気に中にいる新しい何かが解放されるなんてことはないよな?」

俊の心配はそこだ。もしも、一気に何かしらの魔物などが解放された時、その話を嗅ぎ付けたサンテリアが暴走しないように先手を打つ必要がある。俊は2度と自分から問題の種をサンテリアに教えないと前のことで学んだのだ。

「それはないよ。魔王を降ろすのはまだ後だからから。」

「魔王?」

聞き捨てならない集の言った単語に俊が嫌そうな顔になると集は面白そうに笑う。

「ははは、勇者がいるなら魔王が居てもいいだろうっていうアイテールの考えだよ。」

面白そうに笑っている集を見る俊の心境はとんでもなく荒れていた。

(集が何の動きも見せてないという事は今のところ薫や葵に被害が及ぶ可能性は低いか。だけど、俺はどうなんだ?俺は第1王女の近衛騎士の副隊長であり、元Aランカーだ。それにディンペンド国はかなりの大国だ。必ずといっていいほど調査が俺たちに回ってくる可能性は高い。第1王女という事で政治的な駒としても重要なものだ。その近衛隊の宣伝の一環で仕事が回ってくるか。そのことを集が考えていないわけがないという事は俺に対する脅威はそこまで大きくないという事か?)

「兄さん、いろいろ考えているみたいだけどそこまで深く考えなくても大丈夫だよ。十中八九、兄さんは調査に駆り出されるよ。」

「わかってて行ったのか?!」

「それはそうだよ。ディンペンド国ほどの大国が小さな兵力しか調査に出さないのは他国に示しがつかないよ。それに、最近は王女さんを前線に出して勉強をさせようとしているみたいだから高確率で近衛隊が出動することになるよ。」

「そうだよな・・。」

「それで、用があったんじゃないの?」

「いや、学校での葵がどんなのか聞きに来ただけだ。そんなことよりも重要な内容を聞いてそれどころじゃなくなった。」

「そっか、一応言っとくけど。葵は俺たちのせいで塞ぎ気味になったからあまり友達はできていないよ。そこ等辺はレンにフォローするように伝えてあるよ。何気にあの2人仲良さげだからね。」

「は~、治らないかね?昔みたいに。」

「俺たちの近くにいれば次第に治るとは思うけど時間はかかるよ。俺は可能な限り学園に用があるときは葵を顔を合わせるようにして会わない時はたまに全知でチェックするよ。」

集の言葉に当然のごとく頷く俊。突然の失踪による葵のショックに対して責任を感じるのはいいのだが、そのせいで2人が(特に俊が)重度のシスコンになっている。

「それじゃあ、俺この後忙しいからもう行っていい?」

「ああ、何をするんだ?」

「メイド服と執事服と戦闘服を作る。」

最後の単語に俊は首を傾げたのを尻目に集は工房までの廊下を再び歩き出す。


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