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第75話

「とりあえず、最初に言っとくが次回からは自分の武器を持っているなら持ってくるように。今後の講義ではその武器でやるから準備しとけ。それじゃあ、キリアナ!」

「はい!」

呼ばれるとその長い金髪を風に流しながら集の前まで来る。

「来い。」

集の声が掛かるとキリアナは一気に距離を取る。風魔法で体を後退させながら次の魔法の詠唱を始める。

「え?!」

集が距離を詰めるわけでもなくキリアナと同じく距離を取っていることに一瞬思考が停止する。

「ボケッとしてると死ぬぞ。」

「なっ?!」

集の周りに浮かぶ大量の風が槍の形を成してキリアナに向けられる。キリアナは詠唱を中止して回避する。

「そんな避け方だとすぐに終わるぞ。」

「きゃ!」

何かに足元を掬われるとバランスを崩す。次の瞬間、集が目の前に現れて手刀を首に添えられる。

「終了だ。」

動きが最初しかわからなかった。

(格が違いすぎる。)

当然、ラッセルとの試合は見ていたがキリアナからは何をやっているのかがまったくわからずに対策すら組めない状態で最大限の警戒で戦いに赴いたが、結果は瞬殺。キリアナは自分の結果が特別講義が確定したことを覚悟した。

「それじゃあ、結果を言うぞ。最初はある程度相手の動きを予想して広い視野を持とうとしてたのはいいぞ。しかし、それが相手を近接の相手であると完全に仮定しての行動だっただろう。だから、俺が距離を取った時に焦ったんだ。それに、焦った時にお前は思考を止めただろう?普段なら、あの瞬間に死ぬぞ。その他にも魔法の詠唱をしないで無詠唱で出来るようにならないと魔法を察知されたすぐに避けられるぞ。それに順番に魔法を詠唱するのは遅すぎる。多重詠唱ができるようになれ。」

「は、はい。」

「まあ、今回は事前に戦いの予測を付けられて更に出だしに動きが良かったから特別講義はなしだ。よかったな。」

「はい。」

それを聞いた無条件に特別講義組の3人は羨ましそうな表情で見る。

「次に、キングス。」

「は、はい。」

呼ばれて緊張した趣になる。クラスにいる全員で掛かって傷すら付けられなかった相手に1人で相手するのだから当然といってもよかった。

「それじゃあ、来い。」

変わらず構えを取らずにキングスの相手をする。

(初撃さえ、当たれば!)

キングスは最初から2撃目のことを考えないようにして初太刀にすべてをかけるつもりで剣を上に掲げる。

「いい判断だ。」

集もそれを見抜いて視線でキングスの動きを制限するように威圧する。

(やはり、格が違うな。隙がまったく見えないどころか、動きを封じられた。)

集に動きを封じられたのを察知できたのもその上段の構えで攻撃にのみ意識を向けているからだった。一瞬、隙のようなものが集に生まれたようにキングスは感じてそこに突っ込んでいく。

「ふっ!!!」

ただ全力でその剣を振り下げて集の頭を狙う。それを集は半身になって回避をする。

(かかった!)

次の瞬間にはスキルの補正が掛かって自分の太刀筋に補正が掛かることを予見したキングスはそのまま全力で振り切る。キングスのスキルを理解しているはずの集が何の動きを見せないことに対して疑問に感じてもそれを振りきる。

「なっ!!」

スキルの補正が掛からずにそのまま振り切られる自分の剣に振り回された姿勢で集の横に剣が刺さる。

「終わりだ。」

その姿勢のまま首に手を添えられてキングスは何が起きたのかが理解できないまま終了の合図でキングスは柄にもなく尻餅をつく。

「それじゃあ、結果を伝えるから立ちな。」

「はい。」

言われてようやく呆然とした状態から立ち直って立ち上がると集が目の前に立っていて一瞬キングスは怯む。

(目の前にいるだけで怯むとか、どんだけ怖いんだよ。俺って。)

キングスが怯んだのに気が付いた集は内心でため息をつく。

「最初の上段の構えを選択したのはいい判断だったな。自分の持っているスキルで1番確実性の高いものを考慮しての攻撃だったな。それに俺の誘いの隙に強引に来たのは悪い選択ではなかった。あれ以上引き延ばしても意味がないからな。だが、その後がひどいぞ。もう少し自分のスキルをしっかりと把握しろ。俺に回避されたのがどうしてかわからないんだろ?それに、しっかり把握していない割にはスキルに頼りすぎだ。更に、あの攻撃でスキルが発動しなかった程度でその後の行動が何もできなくなるなんで最悪だ。常に失敗を考慮しろ。そうすれば、最後の場面でもすぐに行動を再開できただろう。今回のお前の失敗はスキルの過信につきる。初回だからかなり甘めに採点しているから今回は特別講義はなしでいいぞ。」

特別講義が無しという事でほっと息を吐きたくなったが甘めの採点に頬が引き攣る思いがした。

「よし、今日はこれでいいぞ。」

集がそういうとキングスには下がらせてシアナを呼ぶ。

「よ、よろしくお願いします。」

シアナも緊張した表情で集の前まで移動すると集が口を開く。

「シアナは誰かに師事したことはあるのか?」

「い、いえ。すべて我流です。」

「なるほど、だからか。」

納得顔の集にシアナは小首を傾げる。集はそれに対してなんでもないと伝えるとすぐに開始の合図をする。

シアナにとって地獄のようなしごきが始まるだなんてこの時は想像もしていなかった全員はその後のシアナの状態に悲鳴をあげていった。

「ぐっ」

集の肘鉄を喰らって顎を打ち上げられて鳩尾を膝に狙われてそれを辛うじて防御して吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先にあった壁にぶつかってようやく地面に足が付く。

「なんか今までの中で一番厳しくない?」

「ああ。」

キリアナの質問にしっかりと答えられずに集の怒涛の攻撃に全員が呆気にとられているうちに更に集は踏み込んでシアナに襲い掛かる。

「くっ」

(冗談抜きで死ぬわよ!)

シアナは内心で悪態をつくけど、そんな余裕があれば動けと言わんばかりに回避を続ける。最初の方と違って確実に体力が削れて回避する余裕が無くなって防御する頻度が増えていく。遂に体力だ切れて足を滑らせると頭上を集の右手の裏拳が通る。それを感じると同時に自分の脳に大きな衝撃を受けて立ち上がれなくなった。

視界すら歪んで目の焦点が合わない状態で自分の頭に誰かが触れるのを感じると急速にその歪みと衝撃が抜けていく。

「よし、採点をしようか。」

ようやくまともに前が見えるようになったときに最初に見えたのが集の笑みが入ってきた。

集の手を借りて立ち上がると自分の立ち位置が最初よりもかなり移動していることに気が付いた。

「よし、少し離れた過ぎたから移動してから発表をしようか。」

集の言うとおりに後ろからシアナは付いていく。それでも体の節々が痛いのか腕をさすったり頭にコブができていないか確認をしながら歩く。集はそれを気付かないフリをしながら他の6人のところまで歩く。薫たちも2人の方へ歩いて来て全員がシアナを心配して声をかける。

「シアナ先輩、大丈夫でしたか?」

「派手に飛んで行ったな。」

「大丈夫よ、教官が怪我とかは全部直してくれたから。」

両方が合流して早々にシアナはキングス、ラッセル、キリアナに囲まれて口々に声をかけられる。一通り声をかけ終わったようで全員が集に目を向ける。

「よし、じゃあ結果を発表しようか。」

「その前に、今のは前のに比べてかなり厳しいように見えたんだけど?」

「ああ、アレは今後のこの講義の標準だからしっかりとわかっていないといやだろ?」

その言葉に全員が顔を青くする。あんなものを毎回受けていたら身が持たないだろう。しかも、ここにいる全員がすでに申請を出しているので基本的に取り下げることができない。誰もが、自分の身に起きることを考えて絶望する。

「結果発表をするぞ。かなり一方的に見えただろうがシアナはなかなかいい反応を返していたと思うぞ。今までにない俺の動きに追いつけない代わりに少しは対応ができていた。特に攻撃が当たる瞬間に自分から後ろに跳んで勢いを殺そうとしたのは良かった。だけど、予想以上に吹き飛んだことのフォローともろもろの踏みこみや隙をつかなかったこととかいろいろ減点する所は多かったな。」

「しかし、教官。誘いの隙に自ら突っ込むのはよろしくないのでは?」

シアナの反論に周りが勇者を見るような目で見る。それを視界の端で捕らえている集はやりすぎたかもしれないと少し反省する。あくまで少しだが。

「キングスの時にも似たようなことがあったが、ただでさえ手詰まりの状況なんだからそれが誘いの隙でも突っ込むべきだ。それに今回は誘いだと気付いていたんだからその後の対応も素早くできるだろう。続けるぞ。他にも、お前はスキルを全く利用できていない。これに関して言えば、この中で一番下手だろうな。まあ、総合的に当然特別講義行きだな。」

自分の中でもスキルの使い方が今一つ思い浮かんでいないのかシアナは静かに集の判定を受け入れる。

「よし、それじゃあ今回の講義はここまでにしようか。少し特別講義用に時間を長めにとりたいからな。特別講義がないやつは帰っていいぞ。今回指摘したところをよく考えて来週に臨めよ。」

集の掛け声でキリアナとキングスは顔を見合わせてからその場を離れて行った。


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