第74話
自由講義。それは地球で言う部活のようなものだった。名前の通り自由参加であり、放課後に開かれるものだ。苦学生だったらその時間にギルドに出向き、金を集めている。何より、自由講義は講師にとっても何をやってもよかった。つまり、趣味全開の講義をやっても問題がない。当然、集はそんなことをするつもりはない。しかし、そういう講師がいるのも事実であるせいか生徒たちは慎重に講義を選ぶはずだ。・・・・・・・。
そのはずだった。
「本当にいいのか?」
「はい。教官が応募を締め切る前に一番最初に申請します。」
「俺がまともな講義をするとは限らないぞ?」
「いえ、そこは大丈夫です!」
意気揚々と語るのはラッセル。しかし、その場にはキリアナ、キングス、シアナもいる。集は頭が痛くなったような錯覚を感じる。
「少し、軽率だぞ。こんなに簡単に自由講義を申請するなんて。」
そう、自由講義は選択講義と違って途中で抜けることはできない。その講義に参加するかどうかは確かに自由だが、特殊な理由がない限りありえない。成績に影響はしないが、将来を見据える場合には重要なものでもあった。といっても、自由度は講師の方に傾いているが。
「で、葵と薫とレンも申請するのか?」
「うん。」
後ろから追いかけてきた3人の方を見ると、当たり前のような表情で言い切られた。
「ふ~。とりあえず。この講義の説明をしよう。この講義ではひたすらお前たちを減点する講義だ。」
「減点とは?」
やはりというべきか委員長風のキリアナが確認を取ってくる。
「ま~、簡単に言うと悪い点を指摘するってことだ。1日各100点が持ち点であり、それが0点になったら特別講義としてじご・・訓練をみっちりつけてやる。」
「今、地獄って言おうとしなかった?」
「そんなことないぞ?」
薫にジト目でにらまれながらもそれを流すと、シアナが手を挙げる。
「その特別講義はどのようなことをするんですか?」
「基本的にこの自由講義が終わった後に校門が閉まるギリギリまでやる。内容は個人個人によって変えていくから一概には言えない。」
「ちなみに、それはどれくらい厳しいんですか?」
この質問に集は考えるような素振りを見せる。生徒たちはその様子に固唾を呑む。集が考え抜いたあげく、一泊置いて、
「とりあえず、次の講義では死ぬ気になるほど厳しく行こうと思う。」
身構えたには少し普通すぎる答案にキングス、キリアナ、ラッセル、シアナが呆けた顔になる。其れとは対照的に顔を真っ青にした葵、薫、レンに疑問を感じた。
「ど、どうしたの?」
仲がいいキリアナが薫に聞くと、薫は首を横に振りながら口を動かす。
「あの人の死ぬ気は本当にギリギリまでやるから・・。」
やるからなんなのか、気になったけどその先は薫の表情を見て聞くことはできない。そもそも人間はそんな簡単に死ぬ気などにはなれない。それを簡単に限界点をきっちり見極めそこまで追い込むことができるのは本当に天才他ならないからだろう。
(こうすれば、いつも必死になるって前例があるからね。)
そういって内心で微笑む集の視線は周りと同様に3人に向けられていた。
「そ、それで、点数は何でつけるんですか?」
「そうだな。本当は個人で試合をしてから減点をしようと思っているが、採点できる奴は最初にやってしまおう。」
今、思いついたように語り始める集を見て生徒たち7人が固まる。
「まず、年下から行こうか。レン。」
呼ぶとレンが一歩前に出てくる。それを集が見てレンと目を合わせてから口を開いた。
「最初の出だしは良かった。だけど、初っ端から奥の手だった技を使うのは減点だな。しかも、動きが行き当たりばっかで途中から俺がレンの動きを誘導したぞ。それだけでもかなりの減点だけど、それに気づかなかったのはもっとひどいな。それに、攻撃するときは一々離れる必要はない。武器を打ち合わなければいいだけだから密着した状態でひたすら相手の攻撃を読めるようになれ。それに、まだ完成していない技を投入して更に手札がなくなってジリ貧になるのが早すぎる。という事で、特別講義確定だな。」
散々叩かれた後に特別講義の言葉を聞いてレンが絶望する。その表情を見た周りの6人がさらに顔を緊張で強張る。
「次に、葵なんだが。最初に言っとくが、葵と薫とレンは点数が良くても特別講義は確定な。」
「・・・は?」
葵は間抜けた声を出して、薫は予想していたのかやっぱりなみたいな表情をしていた。
「とりあえず、葵はもっと魔力を感知できるようになれ。そうじゃないと、すぐに魔力が切れるぞ。前は供給してくれるタンク見たいのがいたけど、常にいるわけじゃない。あと、もう少し近距離攻撃をできるようになれ。そうじゃないと、危なさ過ぎる。」
「・・・ん。」
言われたことに少し心当たりがあるのか納得した表情で大人しく引き下がった。
「じゃあ、次に薫。」
「う、うん。」
「2剣流を使いたいなら、もっと基礎を磨かないとだけだぞ。今まで散々でかい剣を振り回す力ばっかり訓練したせいで攻撃が力押ししすぎる。もっと、技術を学べ。それにスキルの使い方が下手だ。薫のスキルは常時発動より、一瞬だけ発動させてタイミングをずらさせる方がうまくいく。よく考えてから使うようにしな。レンと共通することだけど、近距離で戦うならもっと自分の戦いの流れを作れるようにならないとダメだ。俺みたいのと闘うとすぐに相手のペースに巻き込まれるぞ。」
「わ、わかってる。」
「実戦で動けるようになるまでしばらく2剣流は封印。もっとうまくなるまで禁止な。」
反論を試みようとしてすぐに撃沈した薫は落ち込んだ表情でまた集団の中に戻っていく。
「次にラッセル。」
「はい。」
「ラッセルは防御の方が得意なのになんで無駄に攻めるんだ?もっと自分の戦い方をよく考えろ。それに、武器ももっと防御に適したものを使え。少なくとも片手に盾ぐらいは持て。」
「し、しかし、守るように戦うなんて見栄えが良くないです。」
「は~、戦いに見栄えなんてあるはずがないだろう。あるのは勝つか負けるか。お前にはそこら辺からわからせる必要があるな。」
「うっ。」
集が呆れてラッセルを睨むと簡単に怯んですぐに下がっていく。集はそれを見て根本的に叩きなおさないといけないなと考えを少し改める。
「よし、とりあえず。現段階で評価できる人間は評価したから、次は個人の試合をしてから評価をする。キリアナ、シアナ、キングス。準備をしろ。」
「「「はい!!」」」
元気よく返事をする3人の表情はやる気と自分の評価に対する期待が込められている。先に評価をされた4人はそれを憐憫の目で見つめる。
そう。どう考えても、過去の記憶から評価を下すのと直前の試合から評価を下すのでは圧倒的に直前の方が評価が辛口になるのは目に見えている。それでも、向上心の高い3人は意気揚々とそれぞれの準備を始める。
1人は自分の使う刃を潰された武器を選び。
1人は念入りに柔軟を行う。
1人は自分の体に流れる魔力を操作して自分のコンディションを整える。
集はその状態からすでに3人別々に点数を付けていた