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第72話

時が少し遡り、場所は首都の集邸。

「ふぅ~。」

小さくないため息をついて食卓の椅子に座って体を休める。珍しくその顔に疲労の色を出して体をほぐしていく。

「まさか、ご主人様のいない時に賊が侵入して来るだなんて。しかも、それに自分を慰めているときに気が付くだなんて。」

レイナはそういって立ち上がって家の片づけを次々にやっていく。捕縛するときに使用した縄から投擲したナイフまで次々と自分のスキル暗器の中にしまっていく。このスキルなら生身のどこからでも道具を取り出すことができる簡易な亜空間を持つスキルだ。まさに暗殺には打ってつけである

「レイナ、どうしたの?」

まだ、眠そうな表情で起きてきたフェンにいつも通りの朝食の準備をしてもらうために厨房に行くように言う。途中で集がいないことを思い出して1人分減らすのを忘れないようにと注意する。フェンが居なくなるとまた今回のことで頭を悩ませて思考に耽る。

「これは本格的に警備に力を回す必要がありますね。しかし、信用における人など早々いませんし・・。」

「それなら、奴隷でも買えば?」

存外、長い間考え込んでしまったのかフェンが食事を持って食卓に並べていく。フェンの提案にレイナはため息をついてその案に否定的な言葉を述べる。

「確かに、奴隷ならば首輪で縛ることもできるし長期的に冒険者もしくは傭兵を雇うより安いかもしれません。けど、その場合1から教育しなおさないといけないか、危ない者を買うことになりますね。何より、警備は1人でなんかできないから同時に4~5人買うことになります。それだけの資金と時間を考えると・・。」

「ま、それはご主人様が考えることなんじゃないの?」

また、思考の溝に落ちそうになったレイナを引き上げて一旦話を切る。

「そうですね。なら、朝食が冷める前に食べきってしまいましょう。」

レイナはこれ以上は自分の考えることじゃないと割り切って頭の隅にそれを追いやると普段通りに戻った。

再び集の学園での個室で未だに薫に手を払われたことについて頭を悩ませていた。すでに、どうして薫がそうなったのか正しい結論には至っていたが解決策が思いつかなかった。そうしているうちに次の選択講義の時間が来ていた。気が付いた時にはすでに時間ぎりぎりで急いで集は訓練場に向かう。この選択講義は毎授業好きな講義を選ぶことができてさらに全学年が混同して講義を受けることになる。

当然、最初の講義から多くの生徒が集まるわけがない。集もそのつもりで訓練場に向かう。第1から第10まである訓練所のうち集に明け渡されたのは集の個室がある第3訓練所だった。そこを覗くと予想以上に生徒がいることに集は目を見開く。

何人かの生徒が集を見つけるとすぐにそれが伝染してだらけていたのが整列をして集を来るのを待つ姿勢になる。

「ふ~、お前たちはこの授業がどんなものかしっかり理解してここにいるよな?」

集が多少きつめの言葉で全員に向かって問いかけると、何人かは力強くそしてほとんどが周りと小さい声で話し合っている。集は全員に聞こえるようにため息をついてから講義の説明をする。

「この講義では本格的な戦闘訓練をする。まあ、端的に言うとひたすらに戦い続ける講義だ。戦いに必要な知識も技も基本的に他の講義で教わることができる。ここでは経験のみを積む。ついて来れない奴はすぐに抜けてかまわない。というか、覚悟のないやつは今のうちに帰った方が身のためだぞ。」

キツイしゃべり方と軽い脅しで次々と訓練場を出ていく生徒が続出する。内心ではこのまま全員が居なくなることを不可能とわかっていても軽く望んでしまう。

残ったのはちょうど10人。その中には高等部だけじゃない、中等部の生徒の顔も見える。

(ていうか、レンと葵じゃん。)

「よし、それじゃあ今日はこの10人でやるか。ほとんどの講義は基本的に試合をやり続ける。最初に全員対俺の試合をした後に個別に試合をしてその中で指摘、矯正していく。」

「はい、質問よろしいですか?」

「いいぞ、シアナ。」

手を挙げて質問してきたのは前の講義にいたシアナだった。というよりも、そこにいる生徒はレンと葵を除けば集の必修講義を受けた生徒しかいなかった。

「なぜ、毎回全員対教官の試合をするんですか?」

「そうだな。ここにいる奴らならわかると思うが、集団戦と個人戦では全く動きが違うものになる。多対多ならまだ個人戦になる場面は多いだろうが、多対少の場合でさらに相手が圧倒的に実力が上の場合、綿密な作戦としっかりとしたコンタクト方法を確立しないと勝負にならない場合が多い。」

「火力で押し切る選択ではいけないんですか?」

「それでもいいが、すぐにジリ貧になるし逆にその火力を封じられたら一気に窮地に陥ることになる。あまり薦めないな。」

「教官ならどういう方法を取りますか?」

「俺か?俺は基本的に圧倒的な強者にいるのがほとんどだが、そうだな。たとえばだ、お前たちは俺と勝負するとき取り囲むと反対側にいる仲間に当てるかもしれないという不安のせいで思いっきり攻撃できないかもしれない。しかし、それを事前の作戦と一瞬のコンタクトで常に全力で全方位から攻撃できる体勢にするかな。」

などなど、次々とくる生徒たちの質問は途絶えることをせずに講義の4分の3の時間は消費することになった。さすがにこれ以上はまずいと思った集は質問を受け付けない旨を伝えると生徒たちも武器を取りに壁際に行く。

「それじゃあ、時間がないから今日は1組だけ試合をする。レン、前に来い。」

「うん。」

高等部の生徒たちは中等部のレンが呼ばれたことに驚きの表情を隠さずに、そして落ち込んだ雰囲気で武器を戻していく。それとは別にレンは真面目な表情で集の前に立つ。

「レン、本気を出して戦っていいよ。それなりに俺からも攻めていくから。」

その言葉に少し驚いた表情をするけどすぐに頷いて目を閉じて集中を始めた。すぐにその効果が表れ始めた。左手の甲に刺青のようなものが浮かび上がって体に風を纏い始める。

「いいよ。」

「よし、なら・・・来い。」

瞬間、レンの動きを見れたのはいない。ギリギリ、初動を感知できたのは高等部の1年は薫を除いて誰もいず、2年でもキングスとシアナ、それとさらに中等部の葵しか見れなかった。

気が付いた時にはすでにナイフ形の木刀は集の首まで迫っていた。集は慌てることなく手の甲でナイフを弾き、その手でレンを殴る。それをレンは空を蹴って回避をする。

「お。」

レンのやった初めての動きに少し驚いた表情で集はその手を休めない。レンが攻撃をするタイミングに合わせて毎回カウンターを狙いに行く。それでもレンは時には体を捻って、そして空を蹴ったりしてそれを避ける。

「ねえ、さっきからあの子空中で方向転換してない?」

「そ、そうよね。」

普段は体に纏ってスピードを上げることにしか使っていなかった風をさらに足場にすることでさらに攻撃する方法を増やしている。

それでもレンの顔色は優れない。

「そろそろ限界か?」

ただでさえ、体外に魔力を放出するのが苦手な獣人でそれを集の血で克服していたとしても纏う風と空中で足場になるほど固められた空気と集のカウンターを回避するための動きに精神と集中力をどんどん削られていく。さらに慣れないより3次元的な動きでレンの体は確実に限界に到達しようとしていた。

「はっ!」

自分でもそれを感じていたのか、残った力を全てつぎ込んだ1撃を集に入れようとして、

「ふっ」

集のコンパクトに振った掌底に顎を撃ち抜かれて平衡感覚をなくし、地面に沈んだ。

「もう少し慣れてからじゃないと実践じゃあ使えないな。」

そのまま集はレンに少し休むように伝えてから他の生徒たちのところまで行く。

「とまあ、こんな風にやっていくことになる。次回からもこれに耐える自信のあるやつが来るように。それじゃあ、解散!」

集の号令で今にも挫けそうな表情の生徒と何かを得ようと意気込むものに分かれて次々と訓練場から出ていく。残ったのは疲れ切っているレンと集、そして葵とその後ろに隠れようとしている薫だけだった。

「きなよ。お茶ぐらいは出せるよ。」

そういって3人を自分の個室へと招待してお茶を振る舞い、集の昔話に華を咲かせた。

途中で薫が拒絶したことについて薫が謝罪し集は猛省した。その結果、薫をより優遇するようになったのは葵とレンが拗ねたことも考えるといいことだが、悪いことだが・・・。


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