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第68話

準備運動が終わったものからそれぞれ自由に訓練が始まると手元にある個人情報と照らし合わせながら一人ずつ面談をしていく。当然、いろいろ質問されることがあったけど、集は適当に答えてどんどん進めていく。

「次は、キリアナ=シエスタ、来い!」

組手の怒声や魔法の着弾音に負けない良く聞こえる声が響くと、キリアナはすぐに魔法を使うのをやめて集に近づいてくる。

「はい。」

やってきたキリアナに今までの生徒と同じ質問を聞いていく。質問を終えても動く気配のないキリアナが逆に質問を返してきた。

「集教官は薫さんと幼馴染というのは本当ですか?」

「そうだが?」

質問の意図を読みかねて答えを疑問系で返してしまう。

「いえ、聞いていたのと随分と雰囲気が違うと思いまして。」

一瞬、集は驚いて表情が呆けそうになったが気付かれる前にすぐに教師の顔に戻るとそうか、と素っ気なく答えてキリアナを訓練に返す。

(かなり順調にクラスに馴染んでるみたいだけどいきなり俺の話が伝わっているのは意外だった。)

薫のコミュ力と適応力に舌を巻きながら次の生徒を呼ぶとそれはちょうどラッセルだった。

「教官、あなたとの手合せはできますか?」

質問が終わった時に聞かれたその言葉に訓練場の全員が動きを止めて耳を傾ける。集は、一瞬注意して活動させようとしたが逆にそれを利用することにした。

「毎授業で1回は挑戦権を与えるつもりだ。俺はその手合せをして君たちに助言をする。俺の方から助言をするのはこの手合せの時だけだ。しかし、かなり辛口で言うつもりだから耐えられないやつは俺と手合せをする必要はない。基本的に助言は手合せ以外には聞きに来ない限りするつもりはない。」

「教官に勝ったら何か褒美のようなものはありますか?」

この言葉にほとんどの生徒が息を呑む。他の生徒は何を言っているのか理解ができないような顔をしてラッセルに視線が集まる。1人だけ呆れて額に手を翳していた。

「当然、俺に勝てたらそれ以降この授業に出る必要はないし冒険者のBランクを俺の推薦で即刻渡してやるよ。」

その言葉に獰猛な表情をする生徒、何かを夢見るような表情の生徒、すでに勝った気でいて将来設計をし始める生徒、とほとんどが喉を鳴らして自分がいい方向に行くように考えていた。

「それでは、面談が終わったら即手合せをお願いしてもいいですか?」

その言葉に周りの生徒は嫉妬の視線を送るが、次の瞬間には2人から目を逸らしていた。

「いいだろう。少し俺のことを舐めている生徒が多いみたいだからな。身の程をわきまえさせてやるよ。」

少しの威圧で生徒が目を逸らしたのを集は内心ため息をつきながら見ていた。

正直、生徒たちは教官の集を舐めきっていた。特に貴族の人間にとっては自分たちと同年の平民がAランクにいることが理解できなかった。そしてすぐにAランクというものを自分の物差しで測って自分がその上にいると勘違いしていた。

集にとって、ここにいる生徒たちのプライドを折る機会を生徒たちの方からもたらされたのは大きかった。わざわざ全員に説明する手間は省けてさらに今は1人に対して威圧しているため他の人間には威圧が少ししか影響していない。

(いい感じで折れるといいけどね。)

折り方を間違えると下手したら再起不能になるかもしれないため、力加減が面倒だと集は感じた。

「それじゃあ、一番最初にお願いしますね。」

最後にもう一度集に釘を刺してその場を離れていく。小さくため息をついて最後の生徒を呼ぶ。本人もわかっていたのかラッセルが席を外した時点でこっちに向かっていた。

「集、久しぶり。」

「そうだね。」

数週間ぶりの挨拶を手短にして集は他の生徒たちと同じように次々と質問していく。他の生徒と差が生まれないように教師の顔で対応する集を怯えながら目を合わせないようにしていた。

「怒ってる?」

恐る恐る聞いても集に取りつく暇がなく薫はどんどん暗くなっていく。さすがに見かねた集は答えることにした。

「怒ってはいないよ。ただ面倒だなって思っただけだよ。」

一瞬だけ口調を元に戻して薫に答えるとすぐに機嫌を良くして素振りに戻っていった。

(俺がフォローするって読まれた?)

薫の変わり身の早さに一瞬、してやられたと感じたが機嫌が良くなっただけよかったと前向きに捕らえた。

「それじゃあ、ラッセルやろうか。」

その一言に自然と生徒たちはラッセルから離れていき、ラッセルは真ん中に向かう。集もすぐに真ん中に向かってラッセルと対峙する形で止まる。

「勝負はなんでもあり。先に負けを認めさせるか気絶させた方が勝ちだ。」

「殺したら負け・・というものはないんですか?」

「少なくとも俺がお前らを殺しに行かない限り死人が出ることはない。」

憮然と言った集の言葉に生徒たちは納得のいかない表情になるがラッセルは気にした様子がなかった。

「それじゃあ、行きます!」

掛け声と共に一気に地面を蹴って加速するラッセルに対して集は自然体で立ってラッセルが近づいても動く気配がない。

(なめられているのか?!)

そのまま最高速にまで持っていきラッセルはその手にもつショートソードを集に向かって叩きつける。

「なっ?!」

眼前までしまっていたラッセルに集が取った行動は微動だにしないことだった。しかしその剣は集に届く前に停止している。ラッセルは驚いて剣を引くこともしないで呆けてしまった。

「はッ!!」

すぐに正気に戻ったラッセルは剣を引き、自分が出せる最高速度で剣を集に向かって振るいまくる。そのすべてが集の手前で何かに止められているかのようにラッセルの剣をはじく。

円を描いてその2人を囲んでいた生徒たちには何がラッセルの剣を弾いているのか全く分からなかった。しかし、目の前で相対しているラッセルには剣が弾かれるたびに発する金属音と黒い影のようなものを見つけていた。

「鉄?か?」

「まあ、その一種みたいなものだ。これは砂鉄だ。」

埒が明かないことに気付いたラッセルは素早く身を引いて体制を立て直す。

「攻撃をしないんですか?」

「しばらくは好きに攻撃するといい。」

安い挑発だとラッセルも気が付いていたがラッセルはその挑発に当然のように乗る。

「なら、本気で行かせてもらいます。」

「最初から本気でない時点でいろいろとおかしいがそれは今後修正してやる。来るなら来い。」

未だ、自然体のままで戦う姿勢を見せない集に向かってラッセルは再度突撃をかましに行った。


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