第67話
テストでしばらく出していませんでした。
終わったからまた再開します!
集は割り当てられた非常勤教師用の個室の片づけをしていた。集も予想外の最初の仕事だった。
「いくらなんでも最初の仕事が自室の掃除って・・・、レイナ連れて来ればよかったな。」
埃だけなら風で吹き飛ばせばいいんだが、それだけでは、取れない汚れのために集は机、地面、棚、壁と次々にきれいにしていく。
「ふ~、こんなものでいいだろう。」
気付けば、最初の授業まであと10分を切っていた。
「1時間早めに来たのが功を成したな。」
外に出て体を伸ばして学園の訓練場にそのまま向かう。個室が訓練場に隣接しているおかげで移動に5分もかからない。集は歩く速度を調整して時間ちょうどに訓練場に到着する。
既にそこには40名の生徒の顔を見渡す。生徒たちは集が訓練場の入り口から入ってきた時点で話すのをやめて目で追っていた。約1名ニヤニヤとした表情をしているのが集の視界に入ったが意識的にそっちを見ないようにする。
「今年度から実技教員をする集・橘川だ。一応、君たちとは同年代だがこれでもAランク10位の人間だ。君たちに教える程度には実力も経験もあるから基本的には従うように。」
一気に自分の自己紹介を終わらせて生徒たちの反応を窺う。ほとんどが疑わしげな視線を送ってくるのに対して薫だけが驚いた表情で呆然としている。
「す、すいません。質問いいですか?」
「君はラッセル=トゥンウェル君だね。学年で上位に入っているからこの学園での履歴を見させてもらったよ。」
「ど、どうも。」
まさか、初対面でフルネームを覚えられてさらに履歴を調べられているなんて意外だった。
「その10位ってどういうことですか?」
「あ、そうか。知らないんだったな。まー、そのまんまの意味だ。俺の実力がギルドの上から10番目にあるという事だ。」
急に生徒が色めき立つ。何人かは実力者が来たことを喜び、何人かは集の実力を疑うような発言がちらほら聞こえる。集は1人1人の言動を注意深く観察していく。そのまま、生徒たちを見渡していくと薫と目が合う。まるで詐欺師を見るような目に集は怒気を含めた顔を笑みを返すと、一瞬意味の分からないという顔をして思い当ることを思い出して顔を逸らした。
(誰のせいか後でじっくり話そうか。)
集の考えが伝わったのか薫は1人冷や汗を掻いて周りから心配されている。
集は、薫が顔を逸らすとすぐにまた生徒たちの反応を観察する。
「教官!授業の方針について説明をください。」
大きい声で先に進むよう言ったのは、まさしく委員長のようなロングのメガネの子だった(ただし金髪)。
「キリアナ=シエスタか。わかった、説明を続けよう。この授業では今までと大した差はないが基本的に戦士組は組手、魔術師組は魔法の練習とする。しかし、準備運動は全員統一する。」
「ちょ、待ってください。それは魔術師が戦士と同じくらい運動するという事ですか?」
どこからか非難のような声が上がるが集はその人物がさして重要じゃないことをいいことに視線も送らずに答える。それに乗じて他の生徒たちも声を挙げる
「当然だ。戦場でいきなり体力切れで動けません、何て笑えないからな。」
生徒たちは集が何を言いたいのか察したのかすぐに静かになる。生徒の中には当然貴族の子供たちがいる。親から聞いた逸話の中に体力のない貴族が行軍が遅れせるなどの話を聞いていてその子供たちは自分はそうはなるなと親に言われていた。
「それじゃあ、準備運動がてらにランニング20周行こうか。」
「ッ?!」
突然の発言に魔術師組が絶句する。体力がないものではそれだけで力尽きてしまうほど訓練場は大きい。
当然、何人かは文句を言おうとしたがその前に集が目線だけで黙殺した。
「その後は、さっき言った授業と変わりはないからそれぞれ組手や魔法の練習を開始。聞きたいことがある人間は聞きに来るといい。それと全員が走り終わったら順番に面談をするつもりだから早めに終わらせてくれよ。」
言い終えると集は手を打って走るように施す。最初に動き始めたのは体力に自信があってさっさと組手がしたい戦士組、その後に自信がない戦士組が続いた。薫は自信がない戦士組に混ざって適当に流している。その後、ぼちぼち魔術師組の動き始めて5分以内で集の目の前から全員が消えた。
通常の授業では組手や練習を自由にやらせてそれの監視&聞かれたら答えるのが仕事だったが集はそれに従う気持ちは微塵もなかった。
手持無沙汰になった集はそこから動かずに生徒たちの様子を窺う。基本的に先頭を走っている生徒は本気で走っている。そこからしばらく間があり、集団が走っている。ほとんどが戦士組で明らかに手を抜いているのが集の位置からでもわかった。その後に、戦士組でも体力のないものと魔術師組で体力のあるものが固まって走っていて、最後に体力のない魔術師組がいた。
(とりあえず、手を抜けない状況にするのが一番で早く着いたら褒美をあげるって言うのもいいかもね。)
集は、頭の中で思案しながらも昨日考えた方法が使えることを確認できてうれしそうな表情のまま走り続ける生徒を見守っていた。
そのうれしそうな表情から何か不穏なものを感じた薫は心なしか走る速度が上がっていき、逃げ出したい気持ちのまま20周をやり遂げた