第65話
先週はテストがあったので休ませていただきました。
これからも読んでいってください
元々、集がする仕事は放課後の自由講義だけのはずが必修講義2つと選択講義1つがプラスされた。本来なら学校が始まると同時に新しい講師は顔見せをするのだが、甘く見ていた集は面倒事を引き受けることになってしまった。
「メンド臭い。」
明日から始まるその講義のために必要な資料を取りに集は学園の図書館で本を漁ってた。
全知を使って簡単に済ませるわけにもいかずに集は1人1人の顔に加えて、性格、スキル、成績、を記憶して更にそこから向いている訓練方法と戦闘方法を考えないといけない。しかも受け持つ必修講義の1つが高等部の1年、つまり18歳になる若者(集と同年代)の相手をしないといけない。資料の中に見知った顔を見つけて集は大きなため息をつく。
「なんか、納得いかないな。」
そういって、読み終わった資料をまとめてまた違う資料を広げる。次がもう1つの必修講義、高等部2年、つまり19歳で集にとって年上の相手をすることになる。集の感情はもちろん複雑なものだし、講義を受ける生徒たちの反応が手に取るように集にはわかってしまう。
「年下に教わるなんて嫌だろうな。しかも、もともとプライドが高そうな顔つきばっかりだし。」
その日、初めて集の顔に薄い笑みが現れる。しかし、それは嗜虐性を多めに含んだものだった。
(最初にプライドをズタズタにしてやったら後々、楽になるかな。)
薫と葵を残らせるためにやった裏仕事、俊からもたらされた護衛任務の後の調節、それからもちょくちょく強引に訪れてくる王女、アイテールの演技の手伝い、そして依頼内容にそぐわない突如の依頼の上乗せで溜め込んでいたストレスが少しだけ表に顔を出した瞬間だった。
「最初の訓練でこれぐらい追い込んでも大丈夫だろう、それから各自にこうして・・。」
集はその黒い笑みを浮かべた表情のまま次々と訓練内容を決めて紙に書きだしていく。その姿の異質さに近くにいた図書館の利用者が次々と離れていって集の使っている机には誰も残らなかった。
集がその表情を改めたのはその図書館が閉館するときだった。
「終わった~~。」
図書館の外で集が体をほぐしながら歩いていく。開いている宿を探して町を歩き回っている。新学期が始まるせいか、親御さんなどで宿が埋まっていてなかなか見つからない。寮生活をする生徒が多いため、門限が理由で町に生徒のような年頃の人は集だけだった。
「遅くまで開いている図書館で本当によかった。ある程度の講義予定も組み終わったし、生徒の個人情報も覚えた。あとは、講義中に調整できる。」
典型的な仕事を持ち帰らない性格な集はさわやかな気分のまま見つけた宿に入って体を休めた。
(パンドラの箱が本格的に活動を開始するまでしばらく時間がかかるか。)
部屋に入ってベットに横になった集の頭によぎったのは午前中に話していた内容だった。
(同調率が75%まで上昇したか。でも、これからが長いんだよな~。)
全知の封印を一時的に解除して進行状況を確認する。
「活動までにどれだけこの世界は対策を立てることができるかな?」
再び、無意識に黒い笑みを浮かべてしまい、知らず知らずのうちに乗り気になっていた自分を自覚する。
「それにしても、予想以上に混乱が生じてないな。俺が、事前に教えてたせいかな?それとも、優秀な王様でもいたっけ?」
集はその独り言を最後に自分の意識を体から切り離した。
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「状況はどんな感じ?」
神界に入った集はテレビのようなものを見ているアイテールと月詠に質問する。
「ああ、魔王もなかなか苦労しているみたいだぞ。」
月詠がそれから目を離さずに集に答える。集はそのままいつも通りの椅子に座っていつも通りに机の上に置いてある菓子をつまんで口に運んで遠くからその2人の様子を見る。
(もともと、最高神が娯楽に飢えていることは知っているけどまさか月詠までが鑑賞に参加してくるなんて意外だな~)
ちょうど場面が変わって視点が魔王を映す場面になる。それと同時に音声が流れてきてそれまでの静寂を破る。
『これで、俺を認めたか?』
『・・・・・、確かに力はそれなりに付けたみたいだな。ならば次の試練へと移ろう。』
『まだ、あるのか!?』
『あと少しだ、我慢しろ。』
そこに移っているのは魔王と最高神の1人。地皇は魔王の強化に買って出てずっと魔王の相手をしている。
「調子は良さそうじゃん。」
「ああ、これなら仕事を任せられるかもしれないな。」
「替えを準備する手間が減ってこの青年には感謝したいの~。」
3人が一様に頷くと再びその画面に目を戻す。
1度、世界に絶望したその魔王は神の暇つぶしの傀儡として2度目の人生を歩むことになった。
「正直、地皇がこれだけノリノリでやってくれてるから何とか最低基準は満たしているけど才能無さ過ぎじゃないか?」
「俺も月詠に賛成だな。もっとまともなの連れてこいよ。」
「ちょうどいいぐらいに条件に当てはまっていたのがこれしかいなかったのじゃよ。ま~、これで、儂たちが転移させた者たちの報酬を得る目標を与えることになるの~。」
アイテールの言葉には誰も反応を返さずに各々の頭の中でどれぐらいの報酬に該当するか計算を始めていた。