第59話
最終的には集の言った通りにジュリカ国から使者がやってきて砦を明け渡すことを条件に停戦の条約が結ばれた。一層、アリアナの集に対する視線は厳しくなったがそれは集の態度も悪かったという事で自業自得だろう。
「ただいま~。」
アリアナの追及をのらりくらりと回避して自分の家まで帰ってきた。
「ちょっと、帰ってきたなら助けて!」
奥からフェンの悲鳴が聞こえてきて声の場所まで集はゆっくりとしたスピードで行く。
「急がなくていいんでしょうか?」
「いいよ。理由わかってるから。」
少し慌てた風のレイナを集が抑える。そのままの歩調で庭に繋がるドアを開ける。
「こ、これは。」
所々の草が燃えていて、フェンが走り回って消火にしている。朱雀が庭の中心を陣取ってそこから離れたところにレンが服が燃えて炭になった部分と肌は火傷を負っていた。
「2人ともそろそろ終わろうね。」
集が優しい声で声をかけても1人と1匹は聞こえないのか動き回って格闘している。朱雀が一方的にレンを追い詰めている。レイナも大声で制止するが止まらない。挙句の果てには集たちの方にも朱雀の火が迫ってきて、集がそれを消す。
「そこまでだ。」
抑揚のない静かな一言に朱雀、レンだけじゃなく消火をしていたフェンと集の後ろに隠れていたレイナも黙り動かなくなる。強者としての力を少し前面に出してしゃべるだけでこのざまだ。本人は普段からそれを抑えて可能な限り対等に接している。
「レンと朱雀は後でお仕置きするとして、まずはこの惨状をどうにかするか。」
集は小さく独り言のように呟いて、お仕置きの単語を聞いた最強の神獣は委縮して今まで出していた炎が嘘のように小さくなって消え去り、その様子を見ていた元奴隷の少女は言い知れぬ恐怖でナイフをうまくしまえなくなっている。
集は手を横に振って火をすべて消して、レンとフェンの火傷を直した後に朱雀とレンを並ばせる。さっきの威圧が後を引いているのか前にいる集に怯えた表情で直立する。
「じゃあ、お仕置きの内容を決める前に弁明を聞くよ。」
『この娘が最初にナイフを抜いたんです。』
「この焼き鳥が最初に突っついてきたんです。」
同時にしゃべり始めてお互いに睨み合う。仕方のないことでも集はため息をついて自分の方に顔を向けさせる。
「とりあえず、二人にはこの庭の手入れをしてもらうから。」
「普段、私がやっていますけど?」
「さすがにこんな惨状の庭を無関係のレイナに手入れさせるわけにはいかないよ。」
軽く周りを見渡して庭の草が炭になっているのを見る。今までレイナがきれいに手入れしていた面影は完全に無くなっていて、もとに戻すことを考えると頭が痛くなるほどだ。
『こんなもの私の≪再生の炎≫を使えばすぐにおわりm「あ、それ使うの禁止ね。」・・・。』
力を使う前に集が禁止すると朱雀だけじゃなくレンも心なし拗ねた顔をする。
「それと、朱雀はしばらく外出禁止ね。」
『気づいていらっしゃったんですか!』
「いや、普通に気付くだろ。家からでかい気配が出ていくんだから。」
『これでも気配を隠しているのに。』
「バレバレだ。・・それとレンにはレンは葵たちの編入に合わせて学校に編入ね。」
「ヤダ。」
「そう言うと思ったから罰として行かせるんだろ?」
「ヤダ。不公平。」
(久々に無口になってきたな。)
「なら、朱雀に罰を追加してしばらく俺の契約を無効にするか。」
集の台詞を聞いた朱雀の体が一気に小さくなる。その体の炎も小さく弱弱しくなった。
『それはどれくらいの期間になるんですか?』
「ん?とりあえず。レンが学校を卒業するまでだよ。」
『そ、それなら外出禁止を無しにしてくださいませんか?』
ここで朱雀がレンの入学を反対してくると思っていたせいか少し意外そうな顔をする。
「反対しないのか?」
『反対したらさらにお仕置きが増えそうだったので・・。』
「わかってたか。」
レンを加えずに話が進んでいくことが不満で少しずつ目つきが鋭くなっていく。集は視界の端でそれを見ながら内心ため息をつく。
(どんだけ、俺と離れるのが嫌なんだよ。久しぶりに会ってから放置気味だったけど、充分かまってたつもりだよ?)
そのままお仕置きという面目でレンを押し切って入学させることに了承させた。
さっそくレイナに頼んでレンを服屋に連れて行かせてフェンにお茶の準備をさせる。
「2人分、よろしく。」
「え?お客さんでも来るんですか?」
「ああ、面倒な客が来る予定だよ。」
フェンが奥に消えたのを確認してから玄関のドアを開けるとそこに一人の女性が5人の護衛を引き連れて立っていた。
「いらっしゃい、ちゃんとアポ取ってから来てほしいね。」
「来るのに気付いていた癖によく言うわね。」
サンテリアの長い金髪の奥にある瞳が興奮で染められながら堂々と家の中に入っていった。