第58話
アリアナは集を探して野営場を歩き回っていた。与えていたテントには姿がなく、そこにいたレイナに聞くと、
「お仕事に行かれました。」
と無表情で言われたので、ひたすら歩き回って探している。
(仕事って、姫様の護衛以外に何が他に依頼を受けていたのか?)
疑問を抱いたまま歩いていると俊のテントまで来ていた。中から2人の声がしてアリアナはここに集がいると確信した。
「俊、邪魔するぞ。そこに冒険者はいるか?」
一度声をかけてからアリアナがテントに入るとそこには思った通りに集と俊がいた。
「隊長、どうしました?」
俊はすぐに起立して質問する。
「いや、そこの冒険者を探していたんだ。少し借りていっていいか?」
アリアナがしゃべりながら集のことを指さすと集は嫌そうな顔をする。それを感じ取った俊はそこに介入する。
「もし、話の内容が砦を落とす作戦でしたら不必要になると思われます。」
「その根拠は?」
「この冒険者の情報ではジュリカ国から使者がそろそろ来て講和を提示してくるだろうからです。」
「その情報は信じられるのか?」
「これは経過による情報じゃない。どちらかというと、予知に似たようなものだ。予知と違って外れる可能性は0に近いけどね。」
アリアナが再び睨みつけてきたことに嫌そうな顔をして集は言葉を続ける。集の言っていることがわからずにアリアナは首を傾げる。それを見て集はため息をついて説明を始める。
「経過による情報とは、誰かが何か行動をし始めることによって生じる結果を推測することができるもののことで。今回のは、結果がすでに決まっているようなものでそれを俺は決定されている情報として提供しているだけだよ。」
ここまで来ても理解した様子を見せないアリアナに集は俊に助けを求める視線をやる。
それを苦笑しながら受け止めて代わりに俊が説明を続ける。
「結果とは原因から始まり経過を通してそこに至ることができます。普段、私たちが得ている情報とは経過の情報、即ち原因という点と経過という点をつないだものです。その点をつないで伸ばしたものの先にある結果を私たちは推測し対処しています。普通は、原因のみから結果を推測することができません。けれど、今回のは原因ではなく結果が確定されていることなので外れることはないんです。」
「つまり、どんな手を尽くしてもその結果は変わらないという事か?」
そこまで来て理解したアリアナに俊は笑みを向けて集はため息をついた。
「それは原因とみてもいいんじゃないのか?」
「原因は過去に起きたことで、結果とは未来の物です。そういう意味でこれは確定された結果なんです。」
納得した表情になったアリアナはそこで再び険しい顔になる。
「どうやって、それを知ったんだ?」
神だからとはいえず集は口を閉ざす。
「最初から怪しいやつだとは思っていたが、その体で軽々と鎧を叩き割る力にワロス公爵に落ちた雷。他にも怪しいところがあるが貴様はおかしすぎる。」
(確かにいろいろやってたけど適当に納得してほしいね。)
「魔法で強化したのと偶然だよ。」
アリアナは想定していた集の適当な答えに口を閉ざす。そんなことが聞きたいわけじゃにと言わんばかりに睨みつける。それを知らぬ顔で流す集。
「それに信じる必要はないよ。それは絶対起きることだから。あと2,3日したらジュリカ国から使者が来ると思うよ。・・・・・俺はそろそろ寝るから報告はに・・、俊、よろしくね。」
小さくあくびをして集がテントを出ようとしてその前をアリアナが塞ぐ。
「話は終わっていない。」
「俺から話すことはないよ。隊長さんの要件はわかってるけどすぐに解決されるから。」
スルッと躱してそのままテントを出ていく集はそのまま自分のテントに直行する。
「隊長、とりあえず姫様に報告をしに行きましょう。」
「この時間にか?」
「早い方がその使者を受け入れる余裕ができてその使者に力を示すことができます。行きましょう。」
強行気味に動く俊の後ろをアリアナが付いていく。アリアナがいる馬車まで無言で歩いていく。
「その情報とはなんなんだ?」
「魔王が生まれるそうです。」
「は?」
「細かい話は姫様のところで説明します。」
目の前まで来た場所のドアを力強く叩いてノックをする。
「入りなさい。」
「失礼します。俊です。」
「アリアナです。」
「少し、重要な話がありまして。」
重々しい雰囲気からサンテリアも口を閉ざす。
こうして夜が更けていった。