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第57話

「兵士たちは何をしているんだ!この程度の砦などさっさと攻略できんのか!」

「そうだ!!手を抜いてるんじゃないのか?!指揮官にもっと気を引き締めるように通達しろ!」

「全くです。早く気持ちの良い場所で休みたいものですね。それもこれも貴様らが遅いせいだぞ!」

3人の脂ぎった貴族たちがイライラした表情で報告に来た兵士に怒鳴り散らす。兵士は膝をついたまま歯を喰いしばってそれに耐える。サンテリアはそれを冷めた表情で見ている。

「そんなに言うならあなた達が指揮を執りなさいよ。すぐにでも落とせるような言いぐさじゃない。」

サンテリアが言った言葉に貴族たちは静かになった。その隙に兵士に下がるように命令してサンテリアは周りの貴族を見渡す。部屋に居る5人の貴族のうち3人はサンテリアから目を逸らして、2人は静かにサンテリアの言葉を待っている。

「前線に行ったオズウェル子爵からもいい報告は上がってきませんし、なかなかしぶといですね。」

「そうね。一時的にも士気が上がったから効果はあったと思うけどこれじゃあ、持久戦になるわね。」

サンテリアは報告をまとめた紙を見ながらアリアナと話し合う。

「道中、【不幸な事故】で豚が減ってくれたから少しはこの部屋の雰囲気も良くなったけどうるさい豚がいるのに変わりはないのよね。」

ため息をつきながらサンテリアは独り言を呟く。

「そろそろ、近衛騎士を動かすわよ。」

他に貴族に聞こえる大きめの声で宣言する。それに3人の貴族は取り乱す。

「それでは姫の警護がおろそかになってしまいます。」

「アリアナと俊がいれば十分よ。」

「あの程度の砦など兵士たちで充分です。」

「さっきまでその兵士に怒鳴り散らしてたじゃない。」

「ええと、それは兵士たちの指揮をあげるためにですね・・・。」

「あの冒険者を使えばいいんです!!」

その一言に部屋が凍りつく。

「貴様も【不幸な事故】にあいたいのか?」

「し、しかしあれほどの冒険者を利用しないのはこの先よろしくないのでは?」

「彼との契約内容は今後彼らにかかわらないこと。この条件を出してきた相手に何を報酬にしたら動かせるといえるのですか?」

「それは・・・お金で。」

「金額の問題なら最初から関係を断つような報酬を求めません。そもそも、相手はAランクの冒険者です。わざわざ金をせびらなくてもそれなりの貯蓄があるはずです。」

目を逸らしていた1人が告げるとアリアナが周りの人間を代表してその意見をつぶしていく。

「ならば、身内を人質にするのは?」

「それこそ、【不幸な事故】を引き起こす原因になりますよ。ワロス公爵がその侍女に無理やり手籠めにしようとしてどうなったか忘れられるわけがないですよね?」

その場にいる全員の頭の中ではその映像を思い出す。ワロスが自分の侍女に手を出そうとして強引に迫ったこと。そして契約違反である干渉しようとしたこと。その腹いせに起きた【不幸な事故】。

朝、サンテリアは慌てた近衛騎士にせかされて急いで外に出るとそこには顔中に青痣を作ってすでに原型をとどめていないワロスがいた。それを足元に転がした集はサンテリアに問う。

「契約違反と俺の身内に手を無理やり出そうとしたんだ。勝手に処刑してもよかったけど殺していいか?」

(殺すほどのことじゃないけど見せしめは必要とか、どこの魔王の考えることだよ。)

一瞬、目配せを受けた俊はこの状況になる前にすでに報告を受けていたから打ち合わせ通りに動いた。

「姫様。彼との契約違反の過剰の接触、及び、強制強制わいせつ罪、並びに、殺人未遂をワロス公爵は犯しています。死刑が妥当かと。」

本当は剣を抜いただけだがそこら辺は盛っていた。

その場にいた全員がサンテリアの采配を待って風の音だけがその場に流れた。

「許可するわ。今回は、事故によりワロス公爵がなくなった。それ以上でもそれ以外でもない。これでいいわよね?」

その答えに満足した表情をした集は頷いて足元のワロスに目を向けた。

「私は公爵ですぞ。そんな簡単に切り捨てられるわけが!」

「普通ならね。けど、今回はただの【不幸な事故】よ。気にする必要なないわ。」

その瞬間、その場にいる全員から音が消えて目の前に光が落ちた。雷。神の怒りと恐れられた自然現象が偶然にもワロス公爵に落ちた。

レイナに殺し方を聞いた時にため息と共に苦しまないように殺して欲しいと言われた。

(私はご主人様が自分のために怒ってくださっただけで従者としても女としても充分です。)

半殺しにされたワロスを見て過酷な環境で生きてきたレイナでさえ同情した。周りの騎士たちは目を逸らしていた。

死んだこともわからずに体中から煙を出して倒れたワロスを一瞥して集はサンテリアを見た。

「本当に事故が起きてしまったね。」

その場にいたほとんどが息を呑んでワロスから目を逸らす。本当に事故なのかサンテリアなどにはわからなかった。

(魔力は動いた気配がなかった。魔力とは違う力か、それとも本当に事故か。)

目を逸らさなかった数少ない一人のアリアナは集を睨みつけて考えていた。同じ思考が3周して気を取り直したアリアナは近衛騎士に命令して動き始めた。アリアナの命令でその場は終了となった。

「あなたが別に報酬を準備して依頼すればいいじゃない。私はこれ以上王家の顔に泥を塗るようなことはしないわ。」

ただでさえ一度契約違反を犯しているんだ。これ以上自分の評価を下げたくないのがサンテリアの本音だった。

「「「・・・・」」」

再び脂ぎった3人が目を逸らす。

「今日の会議もここまでね。時間の無駄よ。それじゃあ、解散。」

貴族たちは次々と一礼して出ていく。全員が出で行ってからサンテリアが口を開く。

「どうにかして近衛騎士を動かさなとね。」

「あの冒険者に頼むのが一番かと。」

「わかってるけど何を報酬にすればいいの?」

「こちらでどうにかしてみます。」

「できるなら、お願いね。」

「はっ!」

アリアナも敬礼して馬車から出ていく。1人取り残されたサンテリアは座る姿勢を崩して天井を見る。

「神様でも味方してさっさとこの戦いを終わらしてくれないかしら?」

サンテリアの独り言は誰の耳にも入らずに虚空に消えて行った。逸る気持ちを抑えて地図を睨みつける。

「砦を壊した後の筋書きはできてるのに、その前の一歩で止まっているなんてもどかしいわね。」

将として先を見据えることができてもその前の問題を解決できないでいる。後は時間の問題なのだがその時間が惜しくてたまらなくなってしまう。

「いっそのこと私も前に出ちゃう?」

無理なことが頭に浮かんでそれを振って振り払う。1人馬車に残って思考に明け暮れて行った。


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