第56話
「わざわざ、俺が起きてる時に呼び出したんだからそれなりに理由あるよな?」
目の前に見たくもない髭の爺が現れてあからさまに集が不機嫌になる。
「相変わらず、儂のことは嫌いなんじゃな~。」
「当然だろ?異世界に放り込んで、神になったと思ったら神殺しの獣と戦わせて、身内に手を出そうとしていた敵を生き返らせて、次は何をするんだ?」
「なんじゃ、今回はゼウスに新しく異世界に人を送り込んでほしいと思っているだけじゃよ。というか、本当に性格変わるやつじゃな。そんなに儂が嫌いか?」
「ヤダ、メンドイ、興味ない。」
「そんな連れないことを言うでない。せっかく勇者がいるんじゃ、魔王を作っても問題ないじゃろ。」
「・・・何をしようとしているのかと思えば、物語でも作るつもりか?」
集の目が嫌なものを見るものから胡散臭いものを見るものに変わった。
「別に戦わせたいというわけではない、ただあったら見栄えが良いと思ったからじゃ。」
「なら一々俺のじゃなくて他の神に新しい転生者作らせろよ。」
「それがの~、他の神に頼んだがアフロディーテは儂がお願いしても聞き入れてくれないのだ。代わりに、ゼウスが説得してくれんか?」
「別にいいけど結果は変わらないと思うぞ?」
「(アフロディーテも大変じゃな。)」
「なんか、言ったか?」
なんでもない。とアイテールが答えて集は気にせずにアフロディーテに連絡を取る。すぐに連絡は帰ってきてOKする代わりにデートをする約束をしてその会話は終わった。
「アフロディーテとデートに行くのと新しい人を送り込むのとではどっちの方が面倒臭いか考えたら完璧に前者だな。」
「アフロディーテとのデエトコオスはどこに行くんじゃ?」
「異世界渡り歩いていろいろ見て回ってみたいんだとさ。そろそろ俺は帰るぞ。二度とこんなくだらない理由で呼ぶなよ。」
「ふぉふぉふぉ、儂にはなかなかに重要なことだったのじゃ。それじゃあ、またの。」
そうして集は意識を神界から体に戻す。
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ふ、と集は周りを見渡して状況を把握する。
「野営か。」
「お目覚めにならないので心配しましたよ。」
目を開けるとすぐそこにそこそこある胸とレイナの顔があった。
集は自分の頭の下の感触を確認して再びレイナに目を向ける。
「わざわざ膝枕してくれたんだ。すぐに退くよ。」
「いえ、 大丈夫ですよ。気にしないでください。」
(いや、周りからの視線が半端ない。)
起きた瞬間から向けられている軽蔑と嫉妬の視線に乗せられた殺意に辟易とする。
集とレイナは主従の関係にあると周りも理解しているが、それを膝枕という形で表現されると周りの騎士たちは平常心ではいられないだろう。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「かなり心配だが副隊長の知り合いらしいからな、しかもさっきの戦いで敵を斧で真っ二つにしてただろ。」
「そうだ!あれって魔法を使ってやったんじゃないのか?」
「いや、魔力を使ったそぶりはなかった。それにいくら魔力で強化しても限度がある。あんな細腕で鎧を着た人間をきれいに真っ二つにできるとは思えない。」
「警備をしろ。」
「は、はい。第三席は?」
「俺は交代だ。」
ロナルドが集を見て陰口をたたいていた騎士たちを散らせる。
それを横目に見て頭の感触を堪能する集にロナルドは静かに近づく。
「悪かったな、嫌な思いをしたか?」
「いいや、してないから気にしなくていいよ。正直、俺にいい感情持ってないでしょ?」
「当然だな。俺たちはサンテリア王女のことに忠誠を誓っている。あの人もたまに変な事をし始めるけど尊敬できる人だ。唯一の例外が副隊長だな。・・・・・・そんなことより、サンテリア王女が連れてきたとはいえ、冒険者がダラダラしているとこちらも陰口1つや2つ叩きたくなるさ。」
ロナルドの答えに集は肩を竦めるしかできなかった。
集も正直やりたい仕事ではない。けれど、約束してしまっただけに報酬分は働かないといけなくなった。
(通常よりサンテリア王女の近衛騎士たちが少ないのは人望の薄さってことでいいのかな?)
「他に用があったりする?」
「いや、少し文句を言いに来ただけだ。」
「それならよかった。他に仕事が増えるのかと思ったよ。」
ロナルドは眉に皺を寄せて集たちから離れていく。集はレイナから頭を離して自分たちのテントの準備をする。
準備ができたところでレイナに休むように告げてからテントに入って眠る。