第55話
第3席・ロナルド フェクタルは目の前で起きていることが信じられなかった。
自分の主であるサンテリアが連れてきた冒険者とその侍女がいた。今、敵と交戦しているのは彼らだった。
(なんだ、あれは?)
レイナが手に持っているのは小さい鉄の塊の様なものでレイナが指を動かすとその塊を向けられていた敵の頭が吹き飛んでいるからだ。
(新しい魔法か?いや、武器か?)
周りを見るとほとんどの騎士たちも戸惑った困惑した表情をしている。ただ一人だけ眉間に皺を寄せてその銃を睨んでいる男がいた。
「副隊長、あの武器をご存知ですか?」
「あ?ああ、アレは銃という武器で遠距離で敵を攻撃するものだ。あれはその中でも拳銃というものの部類で比較的攻撃距離が短いものだ。」
「弓・・・、とはまた違うものですね。」
「そうだな。そんなものより、さらに強力で扱いやすいものだ。あんなものを作るなんて・・。この世界の基準を壊すつもりか?」
ロナルドには後半は聞こえていなかった。さらに信じられないものを見てしまったからだ。
レイナの主人である集がその戦斧で敵を鎧ごと横に叩き斬ったからだ。
(見た感じでは完成された筋肉のように素晴らしい体を作ってはいるが鎧を壊すほどの力があるとは思えない。魔法で強化したような動きも見られなかったし・・。)
ロナルドは夢を見ている気分だった。レイナは見たこともない武器を使い、その主は見た目では考えられない力で次々と侍女が撃ち漏らした敵兵を殺していく。
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レイナは新しい武器に自然と笑みを浮かべていた。
(最小の魔力、遠距離でのこの正確さ、そしてこの威力。このようなもの見たこともなかったけれど素晴らしい使い心地です。)
1人で50人の相手をしていて恐怖の欠片もまるで感じていなかった。しかしそこに戦いにおける高揚などなかった。相手を蹂躙する優越感が沸々と湧き上がる。
視界の端に数人の兵士たちが弾幕を抜けて接近してくる。
「魔法使いばかりを狙いすぎましたか。」
すぐにその敵に銃を向けようとするが、目の前を影が通り過ぎて敵の一人が横に薙ぎ払われた。
「レイナはそこから敵をひたすら打って。撃ち漏らしは俺がつぶすよ。」
「・・・かしこまりました。」
普通は主人の打ち漏らしを従者がするべきなのだが本人が気にしていならしいのでレイナも気にしないことにした。
戦い?は10分しないで終わった。今は騎士たちが死んだ兵士たちの後始末をしている。
「まさか、拳銃を作ってくるなんて思ってもいなかったぞ。」
「レイナに合いそうな武器がそれしか思いつかなかったんだよ。」
指示をし終わった俊が集の隣まで来る。さっきまで隣にいたレイナは俊が来たときに下がって馬を取りに行った。
「技術ハゾードが起きるぞ。大丈夫か?」
「門外不出にするよ。それにあれは構造的には拳銃だけど別にあれの設計図があるわけでもないし、問題ないよ。」
「じゃあ、どうやって作ったんだ?」
「元々、構造は頭の中にあったからそれを電子結合とかで部品を作って組み立てただけ。」
俊は眉を顰めて集を見る。
「新しいスキルか?」
「いや、雷の力を全知の力を並行して使えば電子結合とかなら余裕にできるよ。」
「は~~~。」
物凄い呆れた顔をして集の元から離れていく。片付けを終えた騎士に馬車の方へと走らせて自分の馬に跨る。
「にしても、アイテールも変な事やるね。まさか、わざわざ俺が殺したあのできそこない共を生き返らせて新しいスキルまで与えるなんて。何がしたいんだ?」
アイテールができそこないの勇者に与えたスキルは勇者。相手が自分より強い時に実力が少しだけ上昇する効果がある。
「準備が整ったようです。」
「よし、行こうか。」
レイナが連れてきた馬に跨って馬の背に体を預ける。
「仕事したからしばらく見逃しますけどまた後でしっかりしてくださいね。あっ!」
完全だらけモードに入った集は馬の上で眠り始めて、傾き始めた体をレイナが急いで支える。
「仕方のない人ですね。」
レイナはそんな集をうれしそうな顔をして甲斐甲斐しく倒れないように世話をする。
周りの騎士たちが怠け者だの侍女の腰巾着だの言っているが今回はレイナも気付かずにひたすら集の世話をしていた。