第54話
「暇だな~。」
「仕方ありません。この大所帯に魔物は強いものでない限り近づきませんし、敵兵ははるか前方の前線にいます。ここまで敵がここまで来るとは思えません。」
(敵が迂回して来ることは考えてないのかな?)
「ふぁ~、報酬のわりに楽な仕事になるといいんだけどな~。」
あくびを隠すような動作もなく集は馬を進める。隣でレイナがいる。また今回もレンはお留守番を言い渡された。
「ご主人様はもう少し周りの目を気にするべきです。この周りには騎士様たちがいらっしゃるんですから。」
「レイナが本気で直してほしいって言うなら直すよ。」
「それでしたら、お願いします。」
レイナの言葉を聞いて馬にほとんど体を任せた状態から姿勢を直してしっかりとした姿勢になる。
「ありがとうございます。」
「いいって。」
(今ここでレイナの期限を損ねて飯抜きにされるのはつらい。)
集はなんでもなさそうに言いながら内心レイナの不満を買わないように心掛けていた。
「おい。あの冒険者、自分の侍女に尻に引かれてるな。」
「ああ、情けない男だ。」
周りの騎士たちからそんな言葉がレイナの耳に入ってきていたが集が気にしていないのを確認して無視することに決めた。
(彼らもあの時のようなご主人様を見れば納得するでしょう。)
レイナは今でも瞼の裏にこびりついている集と会った場面を思い出せる。軽く振った一振りのその太刀筋は完璧で、その場にいる自分が仕留めきれなかった騎士たちを1人残して葬っていた。
(今でもあの時の電撃を受けたような衝撃を忘れられない。フェンは惨状の収束後しか見ていないから信じないでしょうけど、この場にいる騎士たちに見せる機会があれば見直すでしょうね。)
それを思ったら少し誇らしくなってレイナが機嫌がよくなった。
(なんか、さっきから機嫌が悪くなったり良くなったり、俺の心臓にあまりよろしくないね。
っと!敵のお出ましか。)
「兄さん、警戒態勢。近衛騎士で馬車を囲むようにして配置して。」
「わかった。反撃はお前たちだけでやるのか?」
「うん、正直レイナだけでどうにかなる相手だと思うけど報酬分は働くよ。」
そういって俊が他の近衛騎士たちに指示している間にレイナに話しかける。
「気付いてる?」
「ここまで気配を隠すのが下手だったら丸わかりです。」
「そっか、やる?」
「はい。ご主人様に頂いた新しいこの武器を試したいと思います。」
そういってレイナはメイド服に隠れた太腿を叩いた。
最初はレイナが付いてくるなんて考えていなかった集は、レイナが同行する意思を示した時に急いで新しい武器を作った。フェンを連れてくるのにほとんどの武器をなくして、まだ武器が補充しきれていないレイナの武器の代わりに渡したのは2丁の拳銃だった。レイナの太腿にはその2丁の拳銃がホルダーとともにくくりつけられている。時間がないせいか集は鍛冶で作るのではなく、鉄分子を電子結合とかイオン結合とかで形を作り上げてそこのグリップに魔力を込める魔法陣を書き込み、引き金を引くと弾丸が出るようになっている。
「使い方はもう大丈夫だよね?」
集の問いに静かに頷くレイナ。いくら作った時間が短くてもレイナが自分で訓練する時間はあまりなかった。家の管理にレンとの訓練、そしてフェンの教育。さらにそこに銃の訓練も混ざっている。非常に忙しい数日をレイナは味わっていた。
「いつ動きますか?」
「とりあえず、あの騎士の報告を待とう。」
俊の命令を受けて偵察に3人の騎士たちが偵察に分かれた。
しばらく待っていると偵察に行っていた騎士たちが戻ってきて敵がいることを報告する。
そこからすぐさま近衛騎士たちは馬を馬車たちを守る位置に移動して緊張感を高める。
「じゃ、行こうか。」
「はい。」
集とレイナはその流れに逆らって馬を走らせて敵に近づいていく。敵は森に隠れるのではなく、道のど真ん中に構えていた。
「こいつらバカか?」
「さあ、どうでしょう?それなりに実力のある人たちが集まっているようですし、真正面から勝てると思っているのでは?」
めんどくさそうにため息をついて背にある武器の布を取る。
「戦斧ですか。大丈夫ですか?」
「鋳造のものだけど十分だと思うよ。」
本当は使えるのか聞きたかったのだが、集が的外れだけどレイナは使えると読み取った
「貴様ら、ぐぺ!」
敵の近くまで来たらレイナがしゃべろうとしていた隊長らしき人の頭に拳銃を向けて吹き飛ばしていた。それを見た周りの兵士たちが次々と困惑しながら集たちに襲い掛かる。それを合図に2人対50人の勝負が始まった。