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第53話

「本当にこんなのでいいの?」

「ええ、姫様。大将は本陣でしっかり構えるだけでよろしいのですよ。」

「暇ね。」

「ここは部下が優秀だと喜ぶべきところですよ。ははは。」

「そうですな、我々はここにいるだけで敵を返り討ちにした勲章をもらえるのですから。」

「ははは。そうですな。しかもここは姫様の近衛たちに守られている鉄壁の陣営。我々に危険が及ぶことはないでしょうな。」

サンテリアを上座に置いて机を囲んでいる貴族たちが愉快そうに話している。

(これが戦争の実態ね。貴族が王に自分が討ち取ったように報告するけど実際は一般の兵士が血を流している。わかってはいたけど実際見ていると気持ちが悪くなるわね。)

何人かの貴族は渋い顔をしているけど止める気配はない。

「アリアナ、まだ近衛騎士が出るような場面はないの?」

「はい。我々の軍は反撃に出るという事で士気が上がっており次々に朗報を伝えに来ています。」

そう、ディンペンド軍は強くはないけどその士気の高さで敵を次々と追い返していた。

そのためサンテリアが連れてきた近衛騎士たちは出る幕がなく姫の護衛のみをしていた。近衛騎士15名とサンテリアの要望でそこに加わっている2名が本陣とした巨大馬車の周りを護衛している。

「彼らは大人しい?」

「はい、今は副隊長の俊とともに行動させています。」

「あの2人だけでも前線に送るのは?」

「残念ながら今回の依頼は護衛となっています。それにあんな冒険者に頼るぐらいなら近衛騎士たちを動かした方が確実です。」

「近衛騎士たちを動かそうとすると、あの脂ぎった貴族たちがうるさいのよ。自分たちが少しでも危険な状態になるのがよっぽど嫌なのね。気持ち悪い。」

魔法で空調管理されているはずの馬車で汗だくになっている貴族たち。サンテリアの他に7人の貴族がいる。そのうち4人が気持ち悪い顔でお互いにニヤニヤしながら話している。汗だくになっているのはこの4人だ。他の3人は武人上がりなのか引き締まった体で姿勢がいい。

他の貴族に気付かれないようにアリアナとしゃべっていると急に馬車が止まった。

「何が起きた!!」

サンテリアが反応するより早く脂ぎった貴族の1人が大声をあげる。

「敵が回り込んでこの馬車を狙いに来ています!」

「ならさっさと始末しろ!!この馬車にはサンテリア姫が居られるんだぞ!」

自分の部下でもない近衛騎士に血走った目で命令する。一瞬、近衛騎士がサンテリアに目をやって小さくうなずいたのを確認してからすぐに引き返して馬車の扉から出ていく。

「見苦しいところをお見せしました。」

まるで自分の仕事を終わらせたかのように気持ち悪い笑顔をサンテリアに向ける。

「全くね。私の近衛騎士はあなたの命令がないと動けない鈍間じゃないのよ。勘違いしないようにね。」

それをサンテリアは鼻で笑う。さっきも近衛騎士との目配せは、

「この貴族気に入らないから適当に恥をかかせてほしい。」

という意思を受け止めていた。

「それに彼らは私の部下よ。あなたが命令する権利は本来ないのよ。覚えておきなさい。」

サンテリアが冷たい目をしているのに対してその貴族は顔を赤くしてサンテリアを睨む。サンテリアが睨み返すとすぐに目を逸らして席に座る。周りの貴族たちはにやけ顔の貴族と静かに頷く貴族に別れた。

外で争う音は馬車の中には入ってこない。魔法で完全防音の状態の馬車は中の音は外に、外の音は中に伝わらない。

「時間の無駄だからさっさと話を進めましょう。今、私たちは国境のここにいるのよね?」

「はい、我々の軍は今敵の本陣へ進軍をしています。」

「本陣がどこか確認はとれてる?」

「はい。密偵をこまめに送り本陣が移動していないことも確認しています。」

「それが張りぼての可能性は?」

「密偵が見ている間にも何人もの兵士が出入りしているのを確認しています。張りぼての可能性は極めて低いかと。」

脂ぎった貴族ではなく、武人上がりの貴族たちにサンテリアが確認を取る。途中からアリアナも加わってサンテリアの穴を埋めていく。

「この戦いを短期で終わらせるにはどうするべき?」

「な!敵国を侵略しないのですか?!」

サンテリアの疑問に脂ぎった方の貴族が立ち上がって反論する。

「我々は今まで幾度もジュリカ国から攻撃を受け、少なくない犠牲を払ってきました。国民がそれで納得するわけがないです!」

「そうやって自分たちの私腹を肥やす大義名分がほしいの?自分の国民を心配するならその不満を国民から取り除くことぐらいできるわよね?それに、今この大陸のバランスを崩すわけにはいかないのよ。無理に攻め込んで私たちの力が落ちるのもしかり、ジュリカ国で内乱でも起きて崩壊されるわけにはいかないのよ。ただでさえ周辺の国がジュリカ国のせいで兵力の強化に力を入れてるのよ。それにジュリカ国に攻め込んでそっちの国民に恨みを買う必要はないわ。」

貴族はサンテリアに言われて不満そうな顔を隠さないで偉そうに座る。

サンテリアの横でアリアナが渋い顔をしているのにサンテリアが気付いてそれについて質問する。

「いえ、姫様が随分ご立派なことをおっしゃるので少し違和感を感じました。」

「それって普段私がアホみたいってこと?これでも城でいろいろ教育は受けているのよ。あまりバカにしないで。というより、今の普通に不敬罪よ?」

そしてまた馬車が動き出したのを感じて一同はため息をつく。貴族たちは近衛騎士たちが敵を返り討ちにできたことに、サンテリアとアリアナは待ちくたびれたかのように。

「それで、どうするの?」

「今回は、本陣を最短でつぶしに行くのが定石かと。この国境の周りには水源など食糧には困らない場所です。そのため兵俵攻めや井戸に毒を入れるなどは意味を成しません。それに戦後のことを考えると兵力でゴリ押しより少数精鋭で敵の大将を捕獲しに行く方が得策でしょう。」

「それなら私の近衛隊で十分よ。」

「・・・・そうですか。それでしたら、数人の近衛を残し他の近衛隊には大将の捕獲に回ってもらいましょう。一般の兵士からも数人援護に回ってもらいます。姫様が連れてこられた冒険者の方は?」

「あの冒険者は姫様の護衛を依頼している。それを考えて近衛隊を1人余分に大将の方に回しておいてくれ。」

アリアナが少し棘のある言い方で話す。貴族は素直に了承の旨を告げて馬車から出ていく。

「アリアナ、そんなにあの冒険者が嫌い?」

「嫌いとかではなく、姫様にあの偉そうな口調を聞くのが許せないだけです。」

「仕方ないわよ、冒険者なんてそんなものでしょ?」

未だ、不満な顔をしているアリアナを残して次々と貴族たちが馬車から出ていく。

「今回は私の初陣よ。失敗するわけにはいかないのよ。」

サンテリアが真面目な顔でアリアナを見返して告げる。

「わかりました。私はあなたの剣です。あなたに従います。」

「まだ、それ覚えていたのね。」

「はい、あの時から私は変わりませんよ。」

「確かに、あなたの頑固なところも全然わかってないのよね。」

そういって、2人はさっきまでの真面目な雰囲気を見せないで軽口を叩きながら馬車から消えて行った。


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