第51話
「で、依頼は受けてくれるのか?」
「断らせてもらうよ。」
一刀両断。集は興味も見せない。
「やっぱり?」
「そもそもメリット無くね?」
「報酬が多い。」
「Aランクの報酬で十分だし。」
「王家とつながりができる。」
「必要ないし、てかこの前会ってるし。」
「そもそも姫さんはなんでそこまで戦果をあげたいわけ?」
「それには深いわけがあるんだよ。」
いろいろ提案していた俊の口がそこでようやく止まる。
「ならいいや。聞きたくない。」
「いや、聞いてくれよ。」
「てか、兄さんなんでそんなに必死なの?」
「俺が楽したいから。」
「それに巻き込まないでよ。」
集は気怠そうにして今すぐにでも話を切り上げたかった。どうしてか、ここ最近、集が好き勝手やってるせいでレイナに怒られることが増えて集が尻に敷かれかけているからだ。
(早く終わらないとまたレイナに作業中断させられて居間の方まで移動させられるじゃん。)
この家は庭で訓練ができるほど広くて屋敷と呼べるほど大きい。2階建てだけど人数が少ない集たちには十分大きい。だから、工房から居間に移動するのに集はめんどくさく感じていた。
「“人類最強”がいるんだから問題ないんじゃないの?」
「それを知ってるのはお前と俺だけだよ。」
「は~。」
「で、了承してくれるか?」
「わかったけど、これで葵と薫の学園の件の貸しは無しな。」
「あ~、アレな。そうだな。」
「なんか煮え切らないね。」
「この話は戦いが終わったら話すよ。」
「ほんと?」
「信じろ。」
少し疑わしげな目線を送った後に集は片づけを始める。
「これあげるよ。」
「いいのか?」
「どうせ試作品だよ。それでも兄さんの本気の素振りには2、3秒耐えられるはずだからいざというときに使いなよ。」
「それは助かる。そしたらわざわざ手を抜いたり創造魔法使わずに済む。」
(今の兄さんの剣技に耐えられるのは前剣王が使用していた剣だけであり、その剣は今では錆びついてしまって使い物にはならない・・・か。)
集は自分の知識の中になる剣王が最後まで手放さなかった人類最高にして最硬の剣の情報を引き出す。
俊は自分の剣技に耐えられる剣さえ手に入れたらそれだけで実力が10倍以上に跳ね上がる。本気で剣を振るえるのもあるが、何より、
「剣で戦いながら魔法を使った近接戦闘ができるのも近いかもな。」
期待した目で俊は集を見詰める。
「あんまり期待せれても困るよ。まだ初めて1週間ちょっとだよ?」
「それでこんな剣を作れるなら上等じゃないか。」
本当はスキル匠と全知のおかげだが集は褒められて悪い気はしていなかった。
「剣を振りながら創造魔法ですぐぼろぼろになる剣を復活させ続けるのも充分上等じゃない?」
俊は肩を竦める反応しかしない。
「兄さん、昼飯食べてく?」
集は時間を確認して提案する。
「いいのか?」
「たぶん大丈夫。レイナのことだから兄さんの分も作ってると思うよ。」
「随分、ハイスペックなメイド手に入れたな。」
「全くだ。掃除、洗濯、食事。それに戦闘能力も一級品だよ。どこのスーパーマンなんだか。」
(唯一、教養がないけどそれはいいか。)
「それだったらもうレイナさんに財布預けていいんじゃないのか?」
「それだけはダメ。1週間で金がなくなる。」
集は最近あった信じられない光景を思い出す。
(金貨1枚渡したらそれを使い切るまで食材やら物やらを買ってきたときは血の気が引いたよ。まさか計算ができないなんて。ま~、幼少期の生活を考えれば当然だけどあの完璧っぷりを見たら誰でも計算できると思うだろ。)
「そ、そうか。やっぱり完璧な人間なんていなんだな。」
俊は集の真面目な顔に引いてすぐに話を逸らそうとする。
「ま~、神でも完璧な奴なんていないんだ。で、食べてく?」
「ああ、お邪魔するよ。」