第49話
「これはどういうこと?!」
薫が般若も逃げ出す勢いで工房へやってきた。
「は~、疲れてるからまた明日にしてくれない?」
ここ2,3日集は工房に籠って作業を続けていた。最初は食事も工房で取ろうとしていたけどレイナの逆鱗に触れて渋々ダイニングテーブルまで戻っている。曰く、こんな部屋で食べることは許さない、らしい。
「そんなことどうでもいいのよ。どうして私が学園に行かないといけないのよ!!」
学園に通わせる事、それが集が俊に約束させていたことだった。もしも、自分が負けた時のための保険だった。
「何って、そのままだよ。どうせジュリカ国にいた時は闘う方法しか教えられてないだろ。」
「う、」
怯む薫、
「このままここにいるなら当然勉強ができてないといけないよね。当然、自分の身一つで冒険者をやって生活するなんて考えてないよね。」
「そんなことは、・・・ははは・・・。」
目を逸らして乾いた笑いで誤魔化す薫、
「当然、俺とか兄さんに養ってもらおうなんて考えてないよね?」
「え?!いいじゃない!俊さんは騎士で安定した職に就いてるし、集なんてAランクの冒険者でしょ!」
「最終手段としてはいいけど、ギリギリのギリギリまでそれは許さないよ。」
最終的には許してしまうのが集の身内への甘さかも知れない。
「それに、」
「それに、何よ?」
集が何かを言おうとすると薫は少し怯え気味に聞く。
「友達を作るなら学校が一番だろ?」
集が優しい目をして薫に語る。
「薫たちはこれからここで生活するなら支えてくれる友達と張り合える友達が必要になってくるよ。俺たちと違ってね。」
最後は苦笑をしながら締める。
「わかった。」
最後の言葉が効いたのか薫はすぐに了承した。
「うん、一応学校の説明をしとこうか。薫たちが行くのはこのディンペンド国の首都の近くにある学都のイスワニア学園に行ってもらうよ。馬車で3日の位置にあるからそれほど苦労しないよ。12歳から14歳の3年間が初等部、15歳から17歳までが中等部、18歳から20歳が高等部になってて、だいたい初等部からいるのは貴族とかで、商人の息子とかは中等部から、高等部からはコースで別れるようになって騎士とかになりたい平民とかが編入する。今回は、薫は高等部に行ってもらうよ。当然、葵にもその紙行ってるはずだけど葵は中等部からになるよ。まー、貴族とかとコネクションを作るのもいいし、商人と仲良くなっといて冒険者になった時に指名してもらえるようになるのも一つの道だよ。」
後は好きにやればいい、とばかりに集は作業に戻る。
「わかった。そうする。・・・・・・・・・・・そういえば何を作ってるの?」
「剣だよ。」
「へ~、うまくいってる?」
「全然だよ。まだ腕試しに作ってる状態だけどナマクラもいいところだよ。」
「見た感じなかなかいい感じだと思うけど?」
「匠のスキルがあるのにこんなのしかできてないのがいけないんだよ。」
「それってどんなスキル?」
「ま~、鍛冶とかのスキルかな。」
「私の分の剣を作ってくれたりとかは~ないかな?」
「・・・・・、そのうちね。」
「約束だよ。」
「うん、とりあえず学園の準備をしてきなよ。後、2ヶ月で学校が始まるんだから。」
「まだまだじゃない。」
「・・・・・。」
集は制服などの準備に時間がかかることを教えようとしたけど、あとで困る姿を想像して何も言わずに作業に戻ろうとした。
「何、ニヤニヤして作業に戻ろうとしてんのよ。」
「ちょ、痛いって。引っ張るな。」
薫が服を引っ張って集は転びそうになる。
「ふん!そうやって高みからの見物ができるのは終わりよ!目にものを見せてやるからね!」
「いや、俺って神だからね。」
集の呟きは薫が足をドスドス鳴らしながら出て行って聞こえていなかった。
ため息をついて集は剣を作る作業に戻っていった。
・
余談だが、集が納得できる剣を作ったのはそれから1周間後だった。鍛冶師が10年以上かけて習得する技術を集はチートで1週間と少しの間に取得した。