第47話
剣王というスキルはもともとはただの称号だった。
はるか昔に剣を極めた王がそう呼ばれていた。常に前線で戦い国民からは多大な支持を得ていた。
ある日、王が辺境の村が魔物に滅ぼされたことを聞いた剣王はすぐに兵をまとめて魔物の討伐に向かった。それが嘘の情報とも知らずに・・・。
村についてなんの異変もないことに気付いた王はそこでようやく罠にはまったことに気が付いた。王は疲れている兵を置いて1人で王都へと戻っていった。兵も必死に王を追いかけたが少しずつ脱落者が増えていって最後には王の近衛隊10人しか残らなかった。
王が王都に戻って見たのは自分が愛した国が他国に焼かれ愛した国民が次々と殺されていくところだった。王はすぐに近衛隊に国民の保護を命令した。近衛隊はすぐに動き出して的確にそして冷静にそして敵には最大の憎悪を持って国民を助けて行った。命令を発した王は王城へと走っていった。そこは城下町と大差ないほどの惨劇だった。
そこまで来て王は内通者がいたことを確信した。そして王は最愛の妻と2人の娘のところまで一直線に行った。道中遭遇した敵兵はすべて武器を抜かずに殺していって。抜く間も惜しいと言わんばかりに慣れた廊下を走った。
自室についてそこで見たのは体を白濁の液体で汚し服が無残に破られ白目をむいて首を切られている妻子だった。
その瞬間、王は頭が真っ白になった。頭には疑問ばかり浮かんでくる。
なぜ私の国が滅ぼされないといけないのか。なぜ私の国民が殺されないといけないのか。なぜ私の家族が穢され殺されないといけないのか。なぜ・・・。なぜ・・・。なぜ・・・。
王が自問をしていると外から声が聞こえてくる。王はその声から自分の近衛が無事に国民を逃がしそして国民を守るために死んだことを知った。
部下が役目を果たしたことを知った王はすぐに体中に力をみなぎらせた。そして王は気付いた。自分の娘が1人いないことに。王はすぐに自分の妻と娘が体を張って逃がしたことに気が付いた。そこからの王はもう止まらなかった。
腰に差しておいた剣を抜き、壁ごと向こう側にいる敵兵を切った。王は死んだ家族に向かって火の魔法を唱える。もう誰にもこの姿の家族を見せくなかった。
王城にいた敵兵をすべて斬り伏せてから王は城を出て王都を出た。すぐに避難民に合流しともに村に行っていた兵たちを集めた。そして1つの仮の集落をつくり国民を集めた。その時の王の言葉は今でも紡がれている。
「許すな。我々の国を滅ぼしたものを許すな。我々の誇りを貶したものを許すな。我々の家族を殺したことを絶対に許すな。だが、私は君たちに復讐をさせたくない。復讐は復讐を呼ぶ。だから君たちの憎しみをすべて私に預けてほしい。そして君たちは一から全てやり直してほしい。君たちはまだ生きている。恋人を、夫を、妻を、親を、子供を殺されただろう。でも君たちは生きないといけない。それが生き残ってしまった我々の責任だ。だが、そうすると君たちの憎しみはどこに行けばいい。行き場のない憎しみは人を狂わせる。だから私にその憎しみを預けてほしい。私は王になって初めての責任放棄をする。私は憎しみを持ってこれから敵国を滅ぼしに行く。だが!!君たちはついて来てはいけない。これが最後の王の命令だ。だから君たちの憎しみを預けてほしい。君たちの憎しみで私に力を与えてほしい。君たちに憎しみは似合わない。いつも笑って私に手を振ってくれた君たちには憎しみは必要ない。力がないなら隣人を頼れ。頼られた隣人は全力で助けろ。そして君たちは繋がりたまえ。そこに私は必要ない。最後に一つだけ。・・・私の国民でいてくれてありがとう。」
国民は王がただ単に演説をしているのではないと気が付いていた。王の目には悲しみ、怒り、後悔、たくさんの負の感情が渦巻いていることに気が付いた。これが王の最後の望みで最初のわがままであると気が付いた。恋人を目の前で殺された女性は怒りで今にも敵国に攻め入りそうだったがいつのまにか怒りが消えていた。親に庇われて生き残った子供たちは今までに感じたことのない悲しみに生気を失っていたが王の言葉を聞いてその眼には強い光が灯った。すべての国民が王の言葉を信じて自分の感情を王に預けた。それは完全に無意識であったが国民はそれを疑問に思わなかった。この王が王だから自分たちは明日を笑って迎えられるのだと感じた。
国民から負の感情が消えたことを確認した王は兵に他の村への移送の準備をさせて1人敵国へと足を向けた。
王を動かしているのは憎しみのみ。そこに生への執着などなかった。王は本当の意味で国民の負の感情を背負っていた。そこに神が介入していたがそれがなくても王は背負っていただろう。
王は自分の愛馬に乗ってひたすら走る。舗装されていないけもの道も、魔物の巣窟の森もどんな障害があっても止まることはなかった。出てきた魔物もすべて倒してひたすら進む。
そして王は敵国に着いた。
王は敵兵を見て剣を握りしめた。その剣は王が王になった時に愛した妻が国民に頼んで作ったものだった。王はそれを迷いなく振って兵を切り伏せていく。王を止められる兵などいなかった。魔法を放っても切り捨てられ、砲弾を撃っても斬り伏せられる。兵たちは逃げる暇さえ与えられずに次々に死んでいった。王の歩みは止まらない。王はほとんどの兵を殺して敵の王がいる場所まで来た。そこにいたのは敵国の近衛兵と敵国の王の家族。逃げる準備すらできずにその場にいた。この時スキルを確認する術があれば敵国の王は逃げていただろう。年の弊害と長旅による疲れがその動きを鈍くさせているのにいい気になった敵国の王は近衛兵に迎え撃つように命じた。運命の分かれ目はそこだった。王は自分の力が限界に達していることに気が付いていた。だから王は自分の残りの力を、命すらも力に変えてその一撃を放った。スキル剣王。そのスキルを持って初めて繰り出した歴史に残る1撃。のちにこの一撃はこう呼ばれている。剣王断罪。盾であった近衛兵だけじゃなく城そのものを2つに切るほどの1撃を王は放った。王は冷めた目で城が崩れていくのを見ていた。
「生き残ってしまったか。だが、あの1撃で私の寿命のほとんどを消費してしまった。最後は生き残った娘の顔を見ながら死にたいものだ。」
復讐を果たした王は小さくつぶやいて姿を消していった。王は小さな村で娘と会いその余生を静かに燃え尽きたかのように暮らした。
スキル剣王とは神ですら予測できなかった王の進化でもあった。そしてその剣が憎しみに満たされていたとしてもその太刀筋は美しいものだった。剣王はたった1本の剣だけで1国の兵力以上の力を持っていることを示している。
その1撃は城を断ち、その剣技は防ぐ術がない。
王は死んだあと神に気に入られ、神界に呼ばれた。そして1つの願いとともに神になって世界を見守ることを約束した。王はその願いを自分の家族とともにいられるように頼み今も神界で家族とともに世界を見守っている。
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「剣王断罪。」
その言霊を聞いた集は一瞬の判断で武器を盾にして捨て、全力で回避に移った。その判断の速さのおかげでその一撃を避けることに成功した。
「兄さん、容赦なさすぎ!!」
自分が立っていた場所が断崖になれ果てているのを見て集は抗議をする。
「時間がないんだ。本気で殺しに行くぞ。」
パッシブでありアクティブでもあるチートスキル。もともと剣王のスキルを得るほどの剣技をパッシブスキルで上昇させてアクティブスキルで倍増させる。そして剣王断罪は一日に3本も打てない技。剣王のアクティブスキルを発動すると俊ですら1時間持たない。剣王断罪を打つたびに持続可能時間が大幅に減るといってもよい。
ここにきて初めて俊と集の力が拮抗する。片や全力を出すと1時間もせずに限界が来る俊。片や無手で相手の攻撃を捌く集。傍から見たら集が不利なように見えるが実際、集は武器を使うより素手の方が強い。刹那の間に幾度も振るわれる剣を集は避けて、受け流し、たまに反撃を繰り出す。
「はあ!!」
隙を見つけては攻撃してくる薫と葵の攻撃は風で壁を作って阻む。完全にその戦いは停滞した。
(完全に殺気が漏れて殺しに来てるよ。)
集は俊に当て身をして距離を取らせる。
「はあ、はあ、はあ。」
スキルのせいか肩で息をして俊は睨んでいる。
それの視線を受けて集は腰を落として構える。