第46話
百花繚乱はもともと身体の大幅な強化だ。それを使えば子供が大男を殴り飛ばせるほど強化される。だけど異世界召喚によって薫が得た百花繚乱はそれをさらに上回った。元来の強化の上に魔力を変換して筋力の強化をしていた。完全に薫のオリジナルになっていた。
しかし、それを片手で防がれて薫は呆然とする。
「兄さん並の攻撃力っておかしいよ。」
薫が女であることを差し引いても俊と同程度、さらに集の片手分しかないことに無意識に奥歯をかみしめる。
開いた空間にケルベロスが入る。
『ガアアアアアアアアアアア。』
仕返しとばかりに3つの頭は風、炎、氷のブレスを放つ。
「間に合え!」
それにいち早く気付いた俊が特大の結界を使って前衛の薫ごと防御する。
「これなら!!」
結界に守られた場所から葵が再び強力な魔法の準備を終えて放つ。
≪トールハンマー!!≫
「甘い!」
完全にケルベロスの攻撃で察知できていなかった攻撃にも集は反応する。何もない場所から落ちてくる極大の雷に対してポッケにあった電気を纏った砂鉄を避雷針代わりに遠くに投げて雷を逸らす。
ちなみにこの時の台詞は言ってみたかった台詞トップ10の台詞だった。
「俺に風と雷が効かないことぐらいわかるだろ?」
その一言で魔法を使う俊と葵の戦い方は絞られてくる。
「早くしないと時間が来るよ?」
俊は周りに大量の剣を作り出して中に浮かせる。そして1本の大剣を作って薫に渡す。
「これは?」
「薫なら片手ずつで扱えるだろ?」
俊の半ば決めつけるような言葉に静かに頷く。後ろで葵がさらに魔法を唱えていく。
ここで初めてケルベロスが自分から攻撃をし始める。さっきの魔法で危険性を学んだ賢い番犬は葵に集中して攻撃するが結界のせいで全く攻撃が通らない。
「ここからは方針を変える。最初にあのうるさい駄犬を黙らせよう。そしたら集までは障害がなくなる。」
俊の提案に2人は異論を唱えずに武器を構える。
「行くぞ!!」
結界が解けて中にケルベロスが入ってくる。3人は一気に散らばってケルベロスを囲む。
それでも戸惑わずに一直線に葵に突っ込んでいく。
「グロォおおおお」
狙いが葵だと気付いた2人が回り込んで足止めを足止めをしようとするが躊躇わないで葵に突っ込む。
「グッ!!」
俊が真正面からケルベロスの突進を受け止める。そこでようやく止まった。
「今度はこっちの番‼‼」
裏から薫が飛び上がって大剣2本を背中に叩きつける。
怯んだケルベロスは一度引こうとするが俊が張り付いてなかなか振り払えない。
「逃がさないぞ。」
斬撃は通らないが衝撃は伝わる。武器を持った2人は力任せに剣を叩きつけて攻撃を与える。
ケルベロスが葵を狙って2人が庇ってその間に魔法を組み立ててそれをケルベロスが避けてまた葵を狙う。それがいつまでの続くように見えていたが2時間したらその均衡も破られた。
「これでどうだ‼‼」
薫の渾身の一撃がケルベロスの首に入って骨の嫌な音が鳴る。ケルベロスは白目をむいて倒れる。その後そこを支配していたのは静寂だった。
(2時間か。予想より早いかな。)
集の予想を外さした原因は俊だった。事前に今回の勝負の理由を伝えていたからもう少し手を抜くかと思えばそれなりに本気で戦っていた。
集が3人から目を逸らさないで思考を巡らせていると静寂を破って後ろから向かってくる音を拾った。
「ッ!!」
とっさにハルバードを回転させて後ろからの攻撃を防ぐ。
「これも防御できるとか集っておかしいんじゃないの?」
「これでも最高神だからね。いくら手を抜いてると言ってもこの程度の奇襲ぐらい躱せるよ。」
なぜか後ろに回り込んでいた薫が集と鍔迫り合いを繰り広げる。背後では俊がこちらに近づいてくる気配と葵の魔法の唱える声が伝わってくる。
すぐ様に薫を弾き飛ばして俊を迎撃するために体の向きを変えると今まさに剣で叩き斬ろうとしている俊がいた。
「これならどうだ?」
俊が今まで禁止していたスキルを発動しようとしているのに気付いて集は迎撃を諦めて回避に移る。
「剣王断罪。」
静かにでもはっきりと俊はスキルを発動させた。