第42話
「ただいま戻りました。」
俊は2週間ぶりにサンテリアの執務室に入って挨拶を済ませる。
「おかえりなさい。」
しかしそこにいたのはサンテリア1人だった。いつもサンテリアを見張る?アリアナは姿が見えない。
「隊長はどちらに?」
「知らない。少し私用で抜けてるわ。」
「そうですか。今日から私も復帰いたします。改めてよろしくお願いします。」
「ええ、よろしくね。」
俊はサンテリアがちゃんと仕事をしているか確認を取った後に他の近衛騎士の詰めどころに顔を出し復帰を部下たちに知らせてから自分の机の上に山になっている書類がないことに気が付いた。
「なあ、俺の仕事はなしでいいのか?」
「あ、はい。第3席が処理をしていました。」
自分が来るまで副隊長の座についていた男のことを思い浮かべて苦笑をする。
(酒でも持って行って労うのも上司の仕事かな。)
俊が入隊する前から苦労しているであろう男を労うために町に出ようと今入ったばかりの扉に向けて歩き出す。
「あ、副隊長はどちらに?」
「仕事がないならいる必要はないだろ?」
「いえ、それが隊長が・・・。」
隊員が何か言おうとしたがそれは俊の耳には届かなかった。
「俊、帰っていたのか。」
「ただいま戻りました。私用はもうよろしいのですか?」
「ああ、実家が少しうるさかったから黙らせてきただけだ。」
「そうですか。それより第3席が仕事を終わらせてくれたようなので早退します。」
隊員は何か言おうとしたのを止めてアリアナに敬礼した。サンテリアのお守りを頼もうとしていたなど自分の隊長の前では言えなかった。
俊の言葉を聞いて敬礼を返していたアリアナが俊を睨む。
「・・・・。忙しいのか?」
「ええ、いろいろと立て込んでいまして。」
「そうか、別にいいぞ。第3席が書類仕事を終わらせているようだしな。それよりフェン元王女を護衛していた冒険者をしっかりと連れてくるんだぞ。」
「はっ!」
それだけのやり取りで俊は詰め所を離れた。
場所は変わり宿の1室。
「で、いつ帰りたい?時間を巻き戻すわけにはいかないけどまだ1ヶ月だからどうにか誘拐だけで済ませられるよ?」
集はいかにもさっさと帰ってほしいと言わんばかりに同じ話を続けている。
(こいつらがいる状態でレンを迎えに行くわけにはいかないしな~。)
そう、今までレンがいなかったのはフェンとレイナの護衛を任せていたからだ。今のレンが隠密を使えば並の冒険者がどんなに頑張っても認識することはないだろうからだ。
「ねえ、私たちに帰ってもらわないと都合の悪いことでもあるの?」
「何か隠してる?」
どう考えても2人が集が元奴隷を連れていることをよく思わないだろうからだ。
「隠してないよ。それより2人は家族が心配してるから絶対に返さないといけない。俺たちだけじゃなく葵までいなくなったら父さんと母さんの精神がやばいことになるから。」
「それなら集たちも!」
「もう向こうで死んでいるのにどうやって行くんだ?地球はこの世界よりもっと情報が統制されてるんだよ。無理だよ。」
「・・・。」
薫は悔しそうな顔をする。
「という事で、兄さんと別れが済んだらすぐに返すんでいい?」
進まない話に集が終止符を打とうとする。しかし世の中そんなにうまくいかなかった。
「私は残る。」
「・・・・・・・・・・・は?」
葵の発言に集は反応が遅れる。集は親を心配したのは本音だし、今いる世界は法があるとしてもたいして機能していなくて危険が多い。すぐにでも送り返したかった。だからだろう、集は今までにないぐらい頭に血が上ってしまったのは仕方がないことでもあった。
「そんなこと許すわけがないだろう!!」
集は今までに家族に対して本気で怒鳴ったことなんてなかった。それでも今の発言は躊躇わずに怒鳴れるほどだった。
「どうした!」
いつの間にか宿に来ていた俊が飛び込んでくる。そして体中から力を滲み出させている集を見て一瞬ひるんでしまう。
「俊兄、私はこの世界に残りたい。いいよね?」
震えながらも葵は俊に助けを求める。涙目になって上目遣いな妹の頼みを俊は断ることはできなかった。
「ああ、いていいよ。そのための場所も確保するよ。」
「兄さん、俺は力づくでも2人をもとの場所へと戻す!」
両方とも家族を大切に思うが故の行動だった。集は体を、俊は意思を守ろうとしていた。
大泉 薫
17歳
ランクB
人間(異世界)
女
スキル 縮地 百花繚乱 天才