第34話
動物の悲鳴を聞いてレンが周りに注意を向ける。
「今のはいったい?」
レイナが馬車の中から顔を出してレンに質問する。
「・・・・害はありません。」
レンが最小限の言葉で返すとレイナは静かに顔を引っ込める。二人とも必要以上にしゃべらないことが原因だ。そのせいで、気まずい空気が流れる。
そもそも今のレンにとっては動物の鳴き声もレイナの対応もどうでもよかった。
(せっかく集に会えたのに!すぐにどこか行っちゃうし、あった日もすぐに寝ちゃって会話してないし最悪。久々に甘えてもいいかもしれないのに~。はっ!私は今甘えるとか言ってダメだ!それよりも、集が帰ってきたらあんなことしたりそんなことしたり・・・・。)
という風に頭の中でひたすら集との今後について考えていた。
「まったく、だから私はブツブツ・・・。」
皆、不満を抱きながらひたすら馬車を進める。
レンが鼻を動かす。
「来た。」
レンが呟いた瞬間に馬車の近くに3つの気配が出現した。
「兄さん、あれどうするの?」
「し、知るか!お前が変なこと言うのがいけない!」
「変なことじゃないよ、事実だよ。」
『私でもあんなことできませんよ。この兄弟は異常です。』
「「そんなに褒めるなよ。」」
『褒めてません!』
朱雀はそのまま逃げるようにレンの隣へと飛んでいく。
「で、問題はなかったか?」
俊が業務的な質問をしてレンに確認を取る。レンは静かに頷いて手綱を握る。
「何があったのですか?」
フェンが顔を出して確認を取ってくる。
「いやー、いろいろあったんだよ。いろいろとね・・・。」
集がにやけた顔をして俊に目配せをする。俊は目を逸らしながら話を進めようとする。
「前に話した通りにこのまま首都に戻ってサンテリア王女と合流してそのまま保護をできるように手続きをするという流れでよろしいでしょうか?」
俊が敬語でしゃべることに笑いそうになるのを堪えながら集は馬車の上に昇る。
フェンとの確認が終わった俊がレンの代わりに手綱を握る。レンもそのまま集について行って馬車の上に行く。そのまま黙ったままで5人と1匹は黙ったままで次々と町を移動していった。
夜になってもひたすら移動して少しでも距離を詰めていく。
少し異常な状態に違和感を感じた集以外の人たちは意を決して事情を聞くことにした。
「なんでそこまで急でいるのですか?」
代表してフェンが質問をする。
「ああ、ちょっと予定外すぎることが起きましたから。」
全力で集を睨みつける俊。
「協力するって言ってるだろ?」
適当にあしらっているようにも見えるが集も他人事ではないので少なからず焦っていた。
(最悪だな。往復するだけで時間を浪費してるし、お守りで移動時間が延びてる。)
俊も集も可能な限り表情に出さないように取り繕っていた。
俊と集の変な雰囲気に周りの人たちにも真剣な空気が流れてそれ以上言及することはなくなった。
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結局ディンペンド国の首都に着いたのは2週間後だった。
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「ここが首都ですか。」
首都の門を見て感動したような声でしゃべる。
「馬車はここで廃棄しますね。」
「わかっています。いくら大人しめな馬車であっても目立ちますからね。」
正直、集はあまりにも遅い馬車の廃棄のタイミングに少なからず不満を持っていた。しかし、俊に王族が安い馬車で長距離を移動できないと説得されて大人しく下がった。
「じゃあ、俺の仕事はここまでだな。」
「待ってください!!」
さっさと目立っているフェンたちから離れようとした集とレンをレイナが引き留める。メンドくさそうに眼だけを軽く向ける。
「報酬はどうするんですか?」
「また今度受け取りに行く。それまでに別れの挨拶を終わらせときな。」
レイナはあくまで自分のことを報酬として扱う。それは自分が決断して、元主であるフェンを守るという結果に繋がったのだから後悔はなかった。
「集、俺の準備が終わったらすぐに行くからそのつもりでいろよ。」
リョ~カイと覇気のない返事をしてフェンたちから離れて正門から首都へと入っていった。
「私たちも動き出しましょう。」
そういって俊が先頭に立って王族や貴族そして騎士たちが通るような副門を通って首都へと入っていった。