第29話
「来ないで!来たら自分でのどを切るわよ!」
「どうぞ。」
(中も女か。俺こっちに来てから女にしか会ってなくね?)
あまりに素っ気なく返された言葉に驚く貴族っぽい女子。
「え?いいの?私を生け捕りにしないといけないんじゃないの?」
「いや、俺それとは無関係だから。死にたいなら死ねばいいよ。」
「え、ちょっと待って。あなたは騎士たちの仲間なんじゃないの?」
「騎士ってあそこで土下座してる根性なしのことか?」
集の言葉で外のことが気になり始めた貴族っぽい女子は集のことを警戒しながら少しずつドアの方に、今は集のいる方向にじりじりとにじり寄っていく。それをじれったく思った集は身を引いて貴族っぽい女子の出るスペースを作る。
「ッ!これはっ!」
貴族っぽい女子の目に映ったのは鎮火したばかりの森と土下座している騎士と遠くで気絶して放置されている騎士。
(これって、もしかしてこの人がやったのかな。もしそうだとすれば私凄い勘違いをしてる!)
状況を見てこれをやったのが集だと気付いて命の恩人に対する今までの態度と勘違いによる羞恥心で赤面する。
「理解できたみたいならそれでよかったよ。それでその短剣はどうするつもり?」
ハッと気付いた様子で腰にあった鞘に丁寧にしまう光景を見て軽く安堵する集。
(もし本気でのどに刺していたら助けるのにかなり苦労しただろうな~。)
刺した時のことを想像しながらそれでも助けられるといえる自信はこの1年の山籠もりの成果でもあった。
「この度ありがとうございました。私はジュリカ国の第3王女フェン=G=ジュリカと言います。只今、手持ちがありませんのでまた後日報酬の方を用意させていただきますね。」
「あ、いや報酬はもうもらっているよ。」
顎でレイナの方を示す。フェンは集の言っていることが理解できなかった。
「つまり、あいつは俺に協力を頼む報酬に自分を差し出したんだよ。」
今度こそ理解したフェンは驚いた表情をした後に集を強く睨みつける。
「お嬢様、それは私から提示した報酬です。ご主人様に非はありません。」
処理を終わらせたレイナが集たちに合流してフェンの怒りを鎮める。
「そんな。これも私のせいなの?」
フェンのこぼした言葉に違和感を感じた集は少しだけ首を突っ込んでみることにした。
「事情を聞いても大丈夫か?」
「え?・・問題ありません。」
チラッとフェンのことを見てレイナが迷いながら説明を始める。
曰く、ジュリカ国はまた戦争をしているらしい。そして相手はディンペンド国。
もともとフェンは戦争は嫌いだったらしい。それでも現国王は野心家でいろいろな国にケンカ売って少しずつ周りの国を圧迫しているらしい。
そして今回ディンペンド国を相手に奮闘するがなかなか勝てないでいた。そこで勇者召喚をすることにしたらしい。何百年も研究されていたそれはほとんど完成されていてあとは実践するだけという状態まで言っていたらしい。
当然、現ジュリカ国王はためらいもなく勇者召喚をするように命令した。そこでさすがに我慢できなくなったフェンが直談判をしに行った。結果的には、無視された。それだけじゃなく、無理やり他国のブサイク王子に婚約をさせられて逃げ出してきたらしい。その時に手助けをしてくれたのがレイナだった。城から逃げ出すときにはフェンの母、つまりは国王の妾である女性に手助けしてもらって逃げ出した。当然、政略的に利用価値のある娘を国王が逃がすわけもなくしつこく追い回せれて行た。ディンペンド国にジュリカ国の内情を教える代わりに身の安全を保障してもらおうとしていた。そのため、危険なティカトスの森の道を通っていた。2人はその動きを読まれてついに追いつかれてしまった。そして今に至った。
「なるほどね。それなら手っ取り早いのでフェンが死んだことにすればいいよ。」
「え?どういうこと。」
「この騎士たちと一緒に死んだことにする。」
「死体の数が合わないんじゃないの?」
「ここには強力な魔物がいるんだよ。そいつらのせいにすればいい。」
フェンは少し納得した顔をするがレイナが未だ眉に皺を寄せている。
「どうやってその話を相手に信じ込ませるのですか?」
「噂を流せばいい。」
「噂?」
「ああ、適当にジュリカ国の騎士の鎧を着た男たちが金髪の女性を襲っていて途中に出てきた魔物に食われていた。こんな感じの噂だよ。」
フェンは何を問題視しているのかわかっていないようだ。さっきからぼうっとしている。
「どうやって、その話をジュリカ国にまで届けるんですか?もしかして、もう一度戻ってからその噂を広めるのですか?」
「別に戦争中でも商人は行き来してるだろ?それに俺が噂を流しに行ってもいいよ。」
「いえ、ご主人様にそんなことさせるわけにはいきません。」
「ま~、すぐにやりに行くわけじゃないから。俺は、ディンペンドに行くけどついてくる?」
問題の先送りに少し不満気味な顔をして頷くレイナとそれを見て頷くフェン。
(結局、大した暇つぶしにならなかったな。まあ、この馬車に乗れば少しは移動時間をつぶせるだろう。)
集は、退屈しのぎにもならなかった騎士たちをチラッと見て馬車に乗った。
学校の用事で遅れました!
すいません!