第27話
「はあ、はあ、はあ。」
「いい加減あきらめたらどうだ?今降参すれば命だけは取らない。」
「お断りします。あなた方は攻めきれてないのによく言えますね。」
「言ってろ。我々の強さは個にあらず。現に貴様を追い詰めているだろう。」
「チッ!」
男に言うとおりだった。舌打ちをして苛立ちを隠せないほどに疲れ切ってしまった女性はできる限りの虚勢を張って応戦する。闘うことが本職でない彼女にとって猫の手でも借りたい状態だった。それでも、本職の騎士5人を相手に持ちこたえられるのは彼女の才能と生きてきた環境のおかげでもあった。
(皮肉ですけど、こんな風に役に立つ日が来るだなんて思ってもいませんでしたよ。)
そういってどこからかナイフを取り出して騎士たちに牽制する。女の使う武器は暗器。騎士たちはそのせいで踏み込むことができなかった。
幾度も騎士は特攻を仕掛けては、女の変幻自在な暗器に防がれてしまっている。
それを繰り返していくうちに暗器が無くなっていき、最後に残ったナイフで決死の覚悟で1人でも道連れしようとした時だった。視界の隅に影が映る。
「面白いな、暗器か。俺も一時期森の中で使ってたけど火力不足になる心配はあったけど、かなり使いやすいんだよ。」
『あれには、随分と翻弄されましたね。』
集と朱雀。朱雀はすでに鳥に戻っていて集の肩で6人を見ていた。集は女のことしか見ていなかった。それもそうだ、暗器に目を奪われていたが女のかっこうは地球では見れないものだったからだ。
(メイドだ!リアルメイドだ!男の浪漫だ!)
女は侍女の格好をしていて集はそれから目を離さなかった。
集と朱雀は6人が自分たちに気付いて動きを止めているのを理解していながらそれを無視して自分たちの世界に入っていった。
「朱雀、本物のメイドがいるぞ!すげー美人じゃん!」
『メイドとはなんですか?』
「あ~、侍女のことだよ。」
『そうですか。そんなに珍しいですかね?』
「俺の国では滅多に見ないよ。しかもあんな美人だと余計に見ることはないと思う。」
集たちはそのままメイドについて語っていった。
「いや、だからメイドの服装にもミニスカのやつと普通のやつがあってだな。王道は普通のロングなスカートを使うんだよ。」
『それでは、ミニスカというものはいつ使うのでしょうか?』
「それはあれだよ。一つの衣装として使われるんだと思う。」
終わらない集のメイド服に対する情報に少しずつ押される朱雀。そんな熱の籠った説明をしている集にたちを見て侍女はようやく考えを巡らせた。
(彼を味方につければこの状況は突破できるだろう。どうやったら味方につけられる?)
今、まさに追い込まれている侍女は交渉内容を思い浮かべる。
(彼は、冒険者だな。こんな道を1人で歩いているという事はかなりの実力者だろう。さっきから彼は私に興味を示しているのか?それならいざとなれば私を交渉材料にすればいいのではないか?ッ!)
ようやくできた敵からの攻撃の合間に考え事をしていたら我に返った騎士たちが一気にっ勝負を決めようと詰め寄ってくる。
意を決して侍女は叫び声のような感じで集に助けを求めることにした。
「少年、手助けをしてください。報酬は私自身です!」
最後の方は切羽詰って素の言葉になっていたが本人は気付いていない。
それを叫んだ瞬間侍女に掛かっていた威圧感がすべてきれいに無くなった。それだけじゃなく、攻撃がすべて止んでいた。
「え?」
「その言葉に嘘偽りはないよね?」
目の前に集の優しい笑みを見て侍女は目を見開く。
(いつの間に?)
「っ!騎士たちは!?」
「大丈夫、朱雀が相手をしているよ。それより嘘偽りはないか?」
「ありません。主の名に誓います。」
そういって、侍女は4人の騎士の方を見る。
(4人?1人足りない。)
騎士たちから目を外して残りの1人を探す。
遠くの方で兜を粉々にした状態で気絶していた。
「それじゃあ、依頼をこなしますか。彼らは殺しても大丈夫ですか?」
唐突な質問に慌てて頷いて侍女は集の背中を見送る。
「朱雀、いいところに力が試せる機会が来たからやるぞ。」
『・・・。仕方ありません。行きましょうか。』
集と言葉を交わした直後朱雀が騎士たちから距離を取って武器化をする。
武器化をした時点で集がかなりの実力者だと再確認した騎士たちは体を強張らせる。
「暇つぶしもできて刀の威力もわかる。一石二鳥だね!」
『殺して大丈夫ですか?』
「許可はもらったよ。それじゃ、まず試しに一発。しっ!」
掛け声と同時に集は朱雀で居合をした。
はい、チート。