第25話
ギルドを出て宿に戻る道中、3人は一言もしゃべらなかった。理由は当然、集が1年間修業をしに行くといったことが原因である。主にレンが重い空気を発していることから自然に誰もしゃべらなくなってしまっている。
(どうすれば自分を連れていってもらえのだろうか。もし、自分が付いて行っても足手纏いになって危険に合わせてしまうかもしれない。・・・どうすればいいの?)
レンはどうしても付いていきたい一心と邪魔をしたくないという一心の衝突で考え込んでしまっている。
宿に着いて部屋に戻ってベットに腰かけたところで集が口を開いた。
「1年だ。本当に1年だけ待っていてくれ。その間は我慢してくれとしか言いようがない。レンを連れていって守りきる自信がないから・・・・。悪いと思ってるけど頼むよ。」
それを聞いても未だに踏ん切りを付けずにいるレンを見て俊が呆れながら提案をする。
「じゃあ、帰ってきたら1つお願いを聞くってことでいいじゃないか?」
「いいね、それで行こう!レン、そういうわけだからそれまで我慢してくれ。」
ようやく納得したようでうなずくレンを見て頭を撫でて今後の話を詰めていく。
「いつ出るんだ?」
「明日にでも出発するつもりだよ。」
「食料とかはどうする?」
「現地で調達する。」
「どうやって落ち合う?」
「俺のスキルがあれば問題ないだろう」。
「武器は?」
「素手でどうにかするつもりだよ。チートな体にチートな力。これ以上必要なものはないよ。」
「服は?」
「今ある服をどうにかもたせる。」
(かなり行き当たりになるだろうけど集なら問題はないだろう。)
1段落ついて集の方針にこれ以上口を出さずに息を吐く。
「わかった。とりあえず、お前のやり方はそれでいいだろう。ていうか、他人のことより自分のことだな。」
「そうだね。あっ!そうだ。レン、ちょっとおいで。」
何かを思い出したかのように今まで撫でていたレンを自分の目の前まで来させる。
カチリ
何かが外れるような音がしてレンの首から黒いものが取り除かれる。
「もうこれは必要ないだろう?」
「え?」
「いや、レンの右手に出ている眷族の印からしてお前はもう俺の奴隷じゃないよ。俺の大事な仲間だよ。って、え?どうした?」
レンが急に涙を流し始める。集はあまりにも急なことに対処に困っている。何より、集は女の涙に弱かった。
「べ、別にお前を見捨てるわけじゃないからな!安心しろよ!」
レンとしては奴隷ではなく人として見てもらえることが嬉しくて、そして集と肩を並べられるという意味のある仲間の単語に感極まってしまった。
「集、レンは喜んでいるんだ。今は泣かせてやれ。」
さりげなくレンの気持ちを察した俊が集に代わりに弁明する。それを聞いて安心した集はレンを抱きしめて背中を撫ぜてあげていた。
それからしばらくしてレンが落ち着いた頃を見計らって集が声をかける。
「落ち着いた?」
静かに頷いたのを確認して、離そうとするがレンがしがみついて話さないことに困惑し始める集。
「どうしたの?」
「今日1日だけ。」
意味わからず、俊に助けを求めると、
「今日1日だけそうやって甘えさせてほしいってことだろ。今日は疲れたから、もう寝るか?結構日が暮れてきているから寝てもいいだろう。」
ギルドの牢屋で起きたのがすでに昼過ぎだったらしく、ギルドを出たころにはもう日が暮れていた。
実際は大して疲れてもいないけれどレンのことを気遣ってすぐに寝ることを薦めた。
渋々、レンを抱えたまま横になり眠る準備をする。
(え?まさか、このまま寝るの?え?本気?)
最初に自分から甘えたという事もあって拒否することができなかった。
俊はそれを狙って今の話を切り出したが、集はまったくもって無自覚な状態でレンと一緒にベットに入っていった。
レンを抱いていて、さらに早い時間に寝始めたせいでなかなか寝付けなかった集は1時間がぐらいに寝付いて意識を手放した。
その間、レンは極度に緊張状態に陥って目を回して気絶してしまった。
その光景を俊は笑いを堪えながら見て眠りについた。