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 エレベーターを降りて、正面の壁に掲げられた、フロア案内図をカツキは見上げた。部署名が並ぶ一点で、カツキの『勘』に何かが触れた。心の警戒警報。カツキが指差した一枚のプレートを、リツキが平坦に読み上げる。

「……ファイナンシャル・プランニング・ルーム? 何するところだよ? 銀行ってさ、金庫があって受付が居て。あと、何やってるんだ……?」

 銀行にはまったく縁のない二人には、想像がつかない。

「さあ。人が多いみたいだね。一般の人も居るのかな?」

「居たって構わないぜ」

 気にも止めないリツキに、カツキは慌てた。

「だって、他の人たちに説明するのに困るだろ? その人だけ、呼び出せないかな……?」

「んなことやって、先に襲われたらどーすんだよ。

 一気に片付けるぜ」

「待ってよ。僕が先に行って、ターゲットを確認するよ。

 それで、うまく外に連れ出すから。……あんまり乱暴な真似しないでよ。その人、妙なものに狙われてるなんて、あんまり他人に知られたくないと思うし……」

 こういった事件の依頼者は、ほとんどが『極秘』にと願う。理解できない事件、理解できない二人の能力と同じに、たとえ当事者は何が起きたのか自覚していても、隠そうとする。それ以外の人には理解できないだろうから、知られたくない。

 外国人のことは、二人はよく知らないが、日本人は少なくとも『恥』を優先させる。カツキ自身、人の視線の冷たさをよく知っているから、その気持ちはわかる。

 リツキには無理かもしれない。リツキには恥じる必要はないから。リツキの自信は揺るぎがなく、絶対なのだ。

「……。甘いんだよ、お前は。

 フン。時間に余裕があったらそうしてやってもいいぜ?

 ……けどさ。マジでヤバイ気、すんだよな……」

 お前と違って、ただの直感だけど、と、リツキは言い継いだ。

「……言いたいこと、なんとなくわかるけど……」

 皮膚の上を弱い電流が走っているような。総毛立つ感覚。カツキは強く感じ始めていた。

 気配。二人の敵となる存在の。形をとろうと、それも苦しんでいる。震えながら。

 小刻みな波動が、カツキにも伝わる。現実の世界に産まれでようとする苦悶。カツキだけに。

 目を閉じた。こちらから、それにそっと呼び掛けようとした寸前。リツキに肩を揺さぶられ、深い瞑想が破られた。

「お前はセイジにここを伝えろ。あと、煩い邪魔者なんかが来ないよーに手配だ。俺は先に行くからな」

 掴んだ肩を押しやるように突き放し、リツキは廊下を駆け出していた。

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