~私と少年と森の恵み~
私は何度も頭を下げていた。ギッポは「もういいよ」って言ってくれたけど、自分の気持ちが収まらなくて止めずにはいられなかった。
昨夜のことは今思い出しても恥ずかしい。ギッポのことが心配なあまり木の家を飛びだしたはいいけれど、闇夜に怖くなった私は獣と勘違いしてギッポを殴り倒してしまった。その場にあった石を咄嗟に使ったのだけれど、よく覚えていない。その石は普段の私なら持ち上げられないような重いものだった。勘違いしたのもそうだけど、あんな馬鹿力で男の子を伸してしまったことが恥ずかしかった。
ギッポは気絶したまま中々目を覚まさなかったけど、今朝起き上がれるようになってからはケロッとしていて、平謝りするばかりの私に照れ臭くなったのかどこかに飛んで行ってしまった。ドモグラさんが言うには「いつもの調子に戻ってるから大丈夫」と、教えてくれたので一安心することにした。
夕方にはフラッとギッポが帰ってきた。どこからこんなに採ってきたのか、両手いっぱいに木の実を抱えていた。どれも私が見たことないようなものばかりだ。このつぶつぶが連なった実は何だろうと指で摘まみ上げて眺めているとギッポが「お前、野苺を見たことがないのか?」と言われた。私が食べてきた苺はこれほど一粒一粒がおおきくなんかなかった。
一口頬張るとやわらかい粒がほろりほろりとほどけていき、仄かな酸味はやさしく、まろやかな甘味が口いっぱい満たしてくれる。
不思議と誰に教わるわけではなかったのに、この苺の味はギッポの森の土と水と風に育まれてできたものだと感じた。
私がぼぅーっとしながら木の実を口の中でもごもごさせていると不意にギッポが話しかけてきた。
「明日は大事な用があるから、お前今日は早く寝てしっかり体を休ませておけよ。いいな」
そういうとギッポはまたぷいとあっちの方へ向いて、むしゃむしゃ木の実にかぶりつき始めた。
私はギッポの一言に何だか胸がドキドキしていた。