~ふかふかベッドともじゃもじゃ屋敷~
「……ねえ。ちょっと休まない? 私ずっと歩いていたから疲れちゃった」
「屋敷までもう少しだ。ちんたらしてたら日が暮れる。それにこの辺の土面は石が多いから堅くて眠れたもんじゃないぞ」
そう言うと、ギッポは森の奥へずんずん歩いて行ってしまったから、私は仕方なく付いていくしかなかった。
「まだぁ……ギッポぉ?」
「もうそろそろだ」
「おやギッポさん。お帰りなさい。旅はもういいんで?」
「ドモグラ。久しぶりだな。それといつも言っているが、旅じゃなくて『冒険』に行ってるんだからな」
突然土の中から現れたのは、私達よりふたまわり程大きな体のおばけモグラだった。私は最初その姿が少し恐かったけれど、体の割に瞳はつぶらでかわいらしかったし、優しい声の持ち主で不思議と安心できた。
「そちらのお嬢さんは?」
「迷子さんだ」
「そうですか。大丈夫ですよお嬢さん。ギッポさんもこないだ冒険に行ったっきり一ヶ月も森の中さまよってましたから」
「なあんだ。ギッポも迷ってたのか」
「馬鹿者! それは隣のそれまた隣の森の話だ。ここは自分の庭だから迷うわけないだろう。……おいドモグラ。それよりこの子を一晩泊めてほしいんだが」
「ええ。いいですよ。湿度も丁度よい具合です」
ドモグラは自分が入っていた腐葉土のお布団をがばっと開いて見せてくれた。寝床にはダンゴムシやミミズも一緒に寝ていた。
「わ、私は遠慮しておきます」
「そうですか。ギッポさんの家は広いんですから泊めてあげればいいじゃないですか」
「結局俺の家か。やれやれ……」
私達はドモグラさんと別れ、更に森の奥にあるギッポの家へと向かった。進むにつれ視界は次第に明るくなると、木々が減り、少し開けたところに出た。するとそこにはぶくぶくと膨らんだ幹と、上へ横へとせりだす無数の枝が生えた御神木のような大樹がたたずんでいた。
「ただいま~」
「お、おじゃまします」
私はギッポの後をくっつきながら、大樹の凹んだ幹のところから樹の中に入った。
入った瞬間、ここは不思議な場所だと感じた。木の中心は無いし、天からは光が降り注いでいたからだ。私は中に入って初めて知った。最初からここに一本の大木なんて無かったんだ。この場所はたくさんの木と木がより集まって複雑に絡んで、円を組んでいるような木の塊なのだった。
「ギッポぉ……ここって……」
「どうだ凄いだろ。ここが俺の家だ。外を見ただろう。周りの木達はこの家に近づかたがらないんだ。この木が森の主みたいなものだからな」
「なんかわからないけど。うん凄いね」
「疲れたろ? 適当にくつろいでてくれ。喉が渇いたら、この辺りの色違いの根っこを引っこ抜いてくれ。先っちょから水が出るから。俺はなんか食い物獲ってくるからさ」
「うん、わかった」
私はそう言うと、そのまま横になった。今日は歩きっぱなしでへとへとに疲れていたので、自然とまぶたが重くなる。眠りに就く前、私の目にうっすらと映ったギッポの後ろ姿が心をほっとさせた。