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~迷える森の腕白少年~

 私はコゥシア。ワシュの心の中にいるわ。彼女は気づいていないけどね。今、ワシュはマトリーニおばあさんの昔話を聞いているんだけど、頭の中ではもう彼女はお話の世界に飛んでいってしまっているわ。だから、お話の中の女の子はマトリーニさんでもあるし、ワシュでもあるの。興奮している彼女は私でも止められないの。笑っちゃうけどね────。




「いたい……いたいよぅ…………」

 頭がふらふらする。目が覚めたら、身体中痛くて洋服は葉っぱまみれだった。まだはっきりしない記憶の中で私は目の前が真っ暗なまま何度もでんぐり返しをしていた気がする。

 そうだ、思い出した。家族とピクニックに来ていた私は、皆がランチをしている最中、一人で綺麗な景色を眺めながらぼぅーっと歩いてた。いつの間にか崖の近くまで来てしまっていた私は、ぽんっとぶつかるように風に押され崖から足を踏み外してしまったんだった。

 どうしよう。歩けども歩けども森の外には出れない。落っこちてきた崖も見当たらない。見上げた空も所々しか覗けない暗い森の中で迷子になってしまった。不安と空腹とまだ微かに残る体の痛みに私の心の中まで真っ暗になっていく。


「ぷぴぃ……──」


 気のせいか、何か音が聞こえた。

「ぷぴぃぴぃ~~……」

 気のせいじゃない。誰か下手くそな草笛を吹いているんだ。そう思った瞬間、私はすでに音のする方へ駆け出していた。


 そこには薄汚れた少年が草笛を吹きながら苔の生えた石に腰かけていた。手にはそこら辺に落ちてそうな木の枝を持って、笛の音に合わせて指揮棒のようにぷんぷんと振っている。土にまみれた顔と瞳が真っ黒なだけに白い眼球がとても綺麗に見えた。


「あなたは誰?私、ピクニックしていたら崖から転げ落ちて……気づいたらこの森に迷い込んでいたの。ここがどこかわかる?」

 思わず話かけてしまった。

「俺……?俺はゴゴンガ・ギッポ。ここは俺が生まれた場所で、俺の家で、俺が死に行く場所さ。ま、死なないけどな」

 驚く素振りもなく平然と答えてくれた。



「……ねえ、さっきからずっと歩いてるけど、どこに行くの?できればあなたに帰り道を教えてほしいんだけど」

「おまえが落っこちてきた場所がわからん。どこの崖か、崖の名前を言ってもらわんと。それに他の奴にでも聞けばよいではないか。では俺は行く……すたすたすた」

「ちょっと待ってよ!この森にあなたと私以外誰もいないわ。どうしろっていうの?」

「何を言う。その辺にいるコテクタムシや日陰草さんにでも聞けばいい。そうそうさっきなんか、物知りで有名なガン木じいさんの前を通り過ぎたしな」

「私……草木や虫の言葉は知らないの」

「…………まったく。世話のかかる奴かおまえは?」



「そういえばおまえの名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

「私は××××××××っ!」

「むむむ。なんだか今聞き取り辛かったぞ。マトリーニなのか、ワシュなのかはっきりしてくれ。まあいい。おまえはおまえだ」

「ところで、ゴゴンガ・ギッポさんはどこに向かっているの」

「ギッポでいい。俺の家だ。いや、いいか──」


 『とんとん』とギッポは足で地面を踏み示す。


「ここも、あそこも、ずーっとずっと向こうのあそこも俺の家なんだが、寝たり食ったりする“家”というのがちゃんと別にあるんだ。人間でいうところのお屋敷だ。で、この辺はお屋敷の敷地内だ」

 えらくたいそうにギッポは言った。

「ふうん。ところでギッポさんは人間じゃないの?」

「むむむ。この風貌を見てそう思うか?」

「…………お風呂には入った方がいいわね」

「もう言葉にもできん」

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