~ホウンスと昼下がりの午後~
ガチャ、ガチャっとドアノブが回される音。あの子が帰ってきた。まだ小さい彼女の手の力では、ノブを何度もいじらないとドアを開けられない。
「おかえり」
声を掛けるがやはり気付かない。私は仕方なくいつものように振り子を揺らし続ける。
彼女は木片が飛び出して蓋が半開きになっているピクニックバスケットをそこに置いた。あまりに重たかったのか床板は悲鳴をあげた。そんな彼を気にする素振りもなく彼女はキッチンへ行ってしまった。彼女が丁度居間を出たところで私の長い針がコトンと振れた。
しばらくすると、彼女はキッチンからそおっとそおっと歩いて帰ってきた。その両腕には、紅茶で満たされて火照ったティーポットとふんわりと焼かれたクロックムッシュをのせたお盆が優しく抱えられていた。時刻は遅めの昼御飯、ちょっと早めのおやつの時間といったところだ。彼女は食卓に着くと、クロックムッシュを口一杯に頬ばった。彼女はいつも、卵とほんの少しの生クリームを溶いた物をたっぷりとパンに浸して焼いている。そのパンの甘い匂いとティブの葉の爽やかな香りが部屋を包んでいた。
椅子に座っていた彼女はちらりと私を見ると、ふわっと微笑んだ。まだ日が沈むまでに時間があることを確認してほっとしていたようだった。ここのところ彼女は暇があれば庭の手入れにいそしんでいた。山のように雑草を摘んでは土まみれになって部屋に戻ってくる。庭の一角は耕され、肥料を混ぜられていた。畑でも作る気なのだろう。食事を済ませた彼女は慌ただしく動きだした。