~和朱の待ちわびた土曜日~
私は市場まで買い物に来ていた。市場に向かうには、街はずれにある私の家から細くいりくんだ小路を抜け、テレネスという大きな通りに出てから、長くまっすぐな道を延々と歩かないといけない。そして五つ目の曲がり角を左に曲がればそこが市場だ。この行き方は、お父さんに教えてもらったものだ。方向音痴な私は少し不安だったけれど、無事に辿り着けて一安心していた。
今日は週末ということもあり、ナーモリの市場は賑わいをなしていた。大通りにある雑貨屋達もこれを見計らって、わざわざ出店を出すほど。私がこれから向かうゴンズのおじさんのお店もそのひとつ。いつもは大通りからは離れた路地裏にひっそり佇む小さなお店なのだけれど、私が注文を頼んだ時に限って出店を出すというの。
初めて訪れた市場は本当に賑やかで、たくさんの買い物客が辺りを埋め尽くしていた。この混雑で五歳の小さな私の体は今にも押し潰されそうだったが、買い物かご代わりにいつも持ち歩いている大きなピクニックバスケットのおかげで大人達は私に気付いてくれた。雑踏を抜けた市場の隅っこの方におじさんの店はあった。
「おじさん。ゴンズおじさん。私が頼んだ物もう届いていますか?」
「いらっしゃい。ワシュ。約束の物はちゃんと今日届いているよ。君が言っていたとおりの木の板やプレートだよ。どうだい」
「ありがとう。これであってるわ。それとね、うちのは切らしていたから、その釘も欲しいの。お代はこれで足りるかしら」
「ああ十分だよ。いつもごひいきにしてもらっているからね。プレートの分のお代はまけておいたよ」
「よかった。おじさんありがとう。」
「まいどあり。気をつけて帰るんだよ」
買った品物を早速バスケットに詰め込むと、私は足早に家へ帰った。