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1章 買い手

「いらっしゃいませー。」


ドアを開けて1人の男が店内に入ってくる。

その男に向けて店長が笑顔で挨拶をする。


私はその男にまなざしを送った。

無論、私を買ってくれるようにだ。


男は飾ってある私たちを一通り見た後、何かを考えるように手を顎にやった。


「どんなものを探してるんですか?」


店長が男に話しかける。

男は振り返って答えた。


「いや、ただ見てるだけなんだ。特にこれと言って探してるモノはない。」


「そうでしたか、ちなみに今後買う予定はお有りで?」


「まぁ、そうだな、欲しい。」


その言葉を聞いて私はいっそう男に視線をぶつけた。

喋れないのが辛い。

私は喋れないように口がふさがれている。

それに無駄に喋るのは品質を落とす。


そうしているうちに男と目があった。

視線が合うと、私は必死に目で訴えた。

私だ!私を買え!私は良いぞ!

すると男は視線を店長に向けた。


「すいません、こいつの詳細教えてくれますか?」


「えぇ、もちろんです。」


店長が笑顔で男に説明をした。

聞いた話では、私は年齢16歳、胸の大きさはDで新品で処女、髪の毛は若干茶色が入ったセミロング。顔立ちは中の上らしい。


値段が安いのは四肢の切断に若干失敗したらしく切り口が汚い事。

そして小さいこと。


「なるほど。12万か…。」


「どうなさいますか?」


「よし、買おう。こいつはなかなかいい目をしているし胸もでかいし処女だ。それに小さいから入れた時に締まってて気持ちよさそうだ。」



(やった!)

私は喜んだ。

他の皆をチラリと見たが、なんでそんなに嬉しいの?という顔をしている。

嬉しいに決まってる、やった存在意義を持てたんだから。


店長が飾ってある壁から私を下ろす。

私は店長に抱えられながらビニール袋に包まれる。

その際に酸欠にならないようにボンベも一緒に入れる。

ビニール袋の出口管が通される。

その後でさらにダンボールへ入れられる。


「ありがとうございましたー!」


私は暗闇の中、揺れながらどこかへ運ばれていく。

ドシンとどこかに落とされる。

そして、ブロロロロという音が鳴ったかと思うと、さらに落とされた場所が動かされている。


そういえば、私は外の世界と言うものを見たことが無かった。

ということは買われるということは外の世界も見られるということではないか!

暗闇の中私は嬉しさのあまりほほ笑んだ。



あまりにも暗闇が長かったし、揺れもなんか気持ちよかったので眠ってしまった。

だから気づいた時にはすでに男の家に到着していたらしい。

私が目を覚ましたのは丁度男がダンボールを開けた時だ。

光で目が覚めたんだと思う。


男が虚ろな私を抱え上げ丁寧に床に鎮座させる。

見を開けて見まわしてみると、なにやら金属でできた物が壁にずらりと並んでいる。



…。



とりあえず、私のボキャブラリーでは言い表せない物がいっぱいあった。


ただ少し不気味さを感じた。

それは部屋が錆びと、鉄と、血の様な赤で整っていることだ。



「さて、こんにちは。」


ビリビリと口に張られていたテープをはがされる。


「っぷはぁ。」


口で呼吸をしてみる。

胸一杯に空気を吸う。

あぁ、外の世界だ。


「お前は俺の性欲処理の為に買われた。」


「はい。」


「お前は俺の言うことにはなんでも聞き、なんでも従う。」


「はい。」


「違う。」


「え?」


一瞬よくわからなかった。

この男は何を言いたいのだろう。

私は性欲処理だけに使われれば良いのに、何が違うの?


「お前はここで、死ぬ。」


「…え?」


男は何を言っているのだろう。

男は部屋の隅に行くと何やら針がついてる道具を片手に戻ってきた。


なんだかそれはとても恐ろしいモノに見えた。

私には手足が無い、抵抗ができない。

男は片手で私の体を押さえつけると、私の喉に静かにその針を刺してきた。


「あぐっ!?」


私は思わず悲鳴を上げた、痛い。

これも性欲の一種なのだろうか?

ならば耐えなければいけない。


首の中に針を通じて何かが入ってくるのを感じた。


男が針のついた瓶の中を空にするまで何かを押しだすと、その針を抜いた。


一体何を入れられたんだ?


するとその瞬間からだんだんに私の意識が薄れていった。

体が痺れるし、熱い。

なんなんだろう、辛い、苦しい。


そうして私は意識を失った。




意識を失っている間私は夢を見ていた。


なんと私に手足がある夢だ。

でもその手足の使い方が分からなくて、私はとてもイライラした。

こんなものあっても邪魔なだけだ、と。



だから私が目覚めた時、驚いた。






私に手足がある…。


「起きたか。」


「!?」


男がたばこを吸いながら椅子に座っている。

一方私は錆びと鉄と血の台に横になっていた。


「10時間前のお前は死んだ。」


「…?」


「お前を性欲処理なんかに使わない。」


「どうして?」


不思議だった。

私に手足があるのもそうだが、男の発言がもっと不思議だった。

男は私を性欲処理の為に買ったのではないの?

じゃぁなんの為に買われたの?


「お前は幼いころ、商品になるため奴らに四肢を切断された。今この国では女性は所詮肉便器でしかない。だから四肢を切断し逃げられないように、役目だけをこなせるように自由を奪った。年齢は最小で6歳から最大で40歳。それ以下とそれ以上は規制で使えない。特に上は処分される。私は生粋の元我が国の血を受け継いでいる。俺も昔から手足が無い女しか見たことが無かった。でもな、違うんだよ。女はそんな為に生きてるんじゃねぇ。今の女どもはそれが当たり前だと錯覚しているが、俺はそんなこと断じて思ってない。お前の意思は知らないが、俺はこの腐った国に下剋上する。その協力をお前に頼みたい。そのためにまずお前に手足を付けた、自由に動けるようにな。」


男は一気に喋り終えるとタバコを吸った。

私は混乱する頭をなんとか鎮めようと思考を働かせた。

私は自分の股を見下ろす。

男と同じように『足』がついてる。

動かそうとして見るけど、上手く動かない。

続いて右を見る、左も。

『腕』がついている。やはり上手く動かせない。


「ちなみにお前の腕と足はカスタマイズによっては武装できる。奴らに対抗するための術だ。」


「私はなんで生きてるの?」


「は?」


「私は性欲処理だけに使われれば良いのに。なんでこんな事するの!?」


私は思わず叫んだ。

日々見た夢をこいつにぶち壊されたからだ。


「うるさいな、お前の持ち主は俺なんだぞ?そんな悲しい事言うじゃないよ。」


男はハァーと長い息を吐いた。

やれやれといったように首を振る。


「お前の眼はそういうことか。勘違いだったかなぁ。」


「はやく使ってよ。早く入れてよ。早く。」


「…そうだな、お前がまず俺の言うことを聞いてくれたらな。それまでは絶対に抱かない。」


違う、これはあらかじめこの男が用意していた言葉だ。

でも確かな言葉で、この男は絶対私を抱かない。


「仕方ないわね、あなたに協力してあげるわ。その代わり約束果たしたら絶対に抱いてよね。」



「よし、約束。契約成立。お前の値段プラスその手足の値段。妥当な仕事をしてくれよ。」



男は私のまだ動かない手を握り、もう片方の手で頭をポンポンと叩いた。


男と私のこの国に対する下剋上が始まる。



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