【一話完結】違法建築だと思ってダンジョンを重機で更地にしてたら、世界を救った最強のS級探索者として崇められていた件〜ブラック社長は強制逮捕、俺は現場監督として無双する〜
■プロローグ:安全第一の精神と、理不尽な突貫工事
「おいジン! 山奥の現場に行って、あの悪趣味な石造りの違法建築を更地にしてこい! 明日の朝までに終わってなきゃ即刻クビだからな!」
耳が痛くなるような怒鳴り声が、型落ちのスマホから響き渡る。金曜日の午後五時、待ちに待った週末を前にして、ブラック解体会社のクソ社長が押し付けてきたのは、あまりにも理不尽な夜間突貫工事の命令だった。
俺——大河原ジン(32歳)は、十年間も安月給でこき使われながら、数々の過酷な現場をこなしてきた一級重機オペレーターだ。
「おいおい、また社長の無茶振りかよ……。残業代も出ないのによ」
俺は泥のついた作業着の袖で額の汗を拭い、深くため息をついた。ここで仕事を断れば、来月の家賃が払えない。俺は渋々、愛車である20トン級の油圧ショベル(ユンボ)を大型回送車に積み込み、指示された山奥の座標へと向かった。
現地に到着し、重機を降ろした俺は、現場用の黄色いヘルメットを押し上げて絶句した。
そこにあったのは、禍々しい紫色の不気味なオーラを放つ、地下へと続く巨大な石造りの大穴だった。
「なんだこれ。建築基準法を完全に無視した地下シェルターか? どんな反社会的勢力の秘密基地だよ」
周囲にはなぜか、自動小銃を構えた自衛隊の装甲車や、最高級のファンタジー鎧を纏った不審な集団が、青い顔をして大穴を取り囲んでいた。おそらく、この違法建築の撤去に反対している過激派の団体か何かだろう。
「よし、とにかく安全第一だ。さっさと壊して帰ってビールを飲もう」
俺は周囲の異様な視線など一瞥もくれず、ショベルカーの運転席に乗り込み、手慣れた動作でエンジンキーを回した。ブルルンッ! と、重厚なディーゼルエンジンの駆動音が夜の山に響き渡る。
——この時の俺は、1ミリも気づいていなかった。そこが、世界トップの探索者たちが全滅を覚悟している、人類最悪の『災害級ダンジョン・ラスト迷宮』だということに。
■1.【他者視点】S級探索者の絶望と、謎の鉄の獣
国内最強のS級探索者である剣聖・アリシアは、絶望の淵に立っていた。
突如として日本に出現した『ラスト迷宮』。その入り口を塞ぐ【神話の門】は、現代兵器はおろか、彼女たちの最上位魔法を何百発打ち込んでも傷一つ付かない『絶対不可侵の結界』だったからだ。
「……終わったわ。門すら突破できないなんて。このままでは今夜中に魔獣が溢れ出し、日本は滅亡する」
アリシアが血の滲む唇を噛み締めた、その時だった。
背後から、聞いたこともない「キャタピラの重低音」が鳴り響いた。
振り返ると、黄色い塗装が剥げかけた【巨大な鉄の獣】が、土煙を上げてダンジョンへと向かっていくではないか。
しかも、その鉄の獣を操縦しているのは、黄色いプラスチックの帽子を被り、首にタオルを巻いたジャージ姿の冴えない男だった。
「なっ!? 一般人!? 待ちなさい、そこは世界で一番危険な——!」
アリシアが制止の声を上げるより早く、ジャージの男は鉄の獣の『巨大な腕』を振り上げた。
そして、S級探索者たちが束になっても傷つけられなかった【神話の門】に向かって、無造作に鋼鉄のバケツ(バケット)を叩きつけたのだ。
ガガガガガガガッ!! ドガァァァンッ!!
「えっ……?」
アリシアは、自分の目を疑った。
絶対不可侵であるはずの神話の門が、まるでビスケットのように砕け散り、ただの瓦礫となって崩れ落ちたのだ。
『おいおい、外壁のコンクリート強度が全然足りてないぞ。手抜き工事もいいところだな!』
鉄の獣の窓から顔を出した男は、人類の脅威である門を「手抜き工事」と鼻で笑い、そのまま轟音と共に迷宮の奥深くへと突き進んでいった。
■2.解体現場:ラスト迷宮(※建築基準法違反)
「グルゥゥゥゥ……ッ!!」
暗闇の地下空洞を進む俺の前に、体長五メートルはある、三つの頭を持った巨大な黒犬が狂ったように吠えながら突進してきた。
「おいコラ! 進入禁止のカラーコーンが見えねえのか! 現場に犬を放すんじゃねえ!」
俺は激怒した。解体現場における最大のタブーは、不意の第三者や動物の乱入による人身事故だ。
俺は反射的にショベルカーのバケットを最速で振り抜き、油圧の爆発的なパワーを乗せて、迫りくる巨犬の脳天を正確にパコォンッ!! と叩き潰した。
「キャンッ!?」という間抜けな悲鳴と共に、地獄の番犬ケルベロスは一撃でミンチとなり、光の粒子となって消え去った。
「あ、危ねえ。最近の野良犬はサイズがおかしいな。狂犬病の注射は受けてるんだろうな」
俺は動物愛護団体に怒られないか少し心配しつつ、先を急ぐことにした。納期は明日の朝なのだ。
そして地下を進むこと一時間。
ついに到達した最深部の大広間には、禍々しい漆黒の玉座に座った、全身から闇の炎を放つ人型のバケモノが待ち構えていた。
『愚かな人間どもよ。我が復活したからには、この脆弱な世界はすべて——』
「あー、そこの不法占拠者のお兄さん。今からここ、行政代執行で取り壊すから。私物まとめて早く退去してね」
俺は重機の運転席から身を乗り出し、現場用の拡声器で冷静に退去勧告を告げた。しかし、バケモノは激昂し、両手から世界を焼き尽くすほどの暗黒物質の巨大な球体を放ってきた。
「お前、現場作業員に向かって火気を使用するな! 労働安全衛生法違反だぞ!!」
俺は舌打ちをすると、即座に重機のアタッチメント(先端部品)を、解体用の最強兵器【油圧ブレーカー(巨大な鉄の杭)】へと切り替えた。
十年間で身体の一部となったレバー操作。俺は迫りくる暗黒の魔弾ごと、バケモノの脳天に巨大な鉄の杭を突き立てた。
ダダダダダダダダダダダッ!!!
「ギャァァァァァァッ!?」
規格外の油圧振動を脳天にモロに喰らった『魔界の支配者・大魔王』は、何が起きたか分からないという絶望の顔のまま、跡形もなく粉砕された。
同時にダンジョンの最深部にあるコアが砕け散り、迷宮全体がガラガラと音を立てて崩落し始める。
「よし、解体完了! 即座に撤収だ!」
俺はショベルカーをバックさせ、崩れ落ちる巨大な瓦礫を神業的なレバーさばきで回避しながら、一気に地上へと脱出した。
■エピローグ:世界最高の現場監督
地上に出ると、そこには数千人の自衛隊とプロ探索者、そして総理大臣までが、呆然とした顔で立ち尽くしていた。
「……あ、大河原さん。お疲れ様です……。あの、中の『終末の魔王』はどうなりましたか?」
偉い人が、ガタガタと震えながら俺にマイクを向けてくる。
「ああ、あの不法占拠者のことですか? 退去勧告を無視して危険な火気を使って暴れたので、少し痛い目を見せて追い出しておきました。中の違法建築も、約束通り明日の朝までに綺麗さっぱり更地(解体)にしておきましたよ」
俺が爽やかに汗を拭いながら答えると、S級探索者のアリシアをはじめとする数千人の人間が、一斉に地鳴りのような歓声を上げて俺の前にひれ伏した。
「「「神オペレーター万歳ァァァァァッ!!!」」」
「えっ、何これ? 地元の祭りか何か?」
それから数日後。
俺が壊した「違法建築」は『ラストダンジョン』だったことが判明し、俺は世界を救った【伝説のSSS級探索者】として国から表彰されることになった。
国から支払われた特別報奨金は百億円。さらに世界中のダンジョン利権まで与えられ、俺は一生遊んで暮らせる大金を手に入れた。
ちなみに、俺に無茶振りを残業代ゼロで押し付けたクソ社長はというと。
「人類の救世主を奴隷のように酷使していたとは何事だ!」と激怒した国家権力(警察・国税局・労基署の合同チーム)によって会社を徹底的にガサ入れされ、数々の法令違反で一発で逮捕、ブラック会社は木っ端微塵に倒産したらしい。これぞ本当の強制解体である。
「よし、今日の現場の安全確認を始めるか」
現在、俺は国から設立された【国家公認・災害級ダンジョン解体専門組織】の最高責任者(総合現場監督)に就任していた。
新しく発生した危険度Sランクのダンジョン入り口で、俺は特注の白いヘルメットを被り、新米のプロ探索者たちに向かって指示を飛ばす。
「いいかお前ら、ダンジョン攻略で一番大事なのは何だ!?」
「「「安全第一! 建築基準法の厳守です、大河原監督!!!」」」
「よろしい。じゃあ、あそこのドラゴンを重機で吊るし上げて、速やかに迷宮を更地にするぞ!」
世界を救った最強の重機乗りは、今日も現場の安全と世界の平和を守るため、笑顔でレバーを握り続けるのだった。
(了)




