↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/46

第9話:『返せ』という傲慢な来訪者

静寂に包まれていた離宮の正門が、けたたましい音を立てて開かれた。


 現れたのは、王家の紋章が刻まれた、金ピカの馬車。

 泥だらけで手入れも行き届いていないその姿は、今の王宮の混乱を象徴しているようだった。


「エルセ! どこだ、エルセ! 出てこい!」


 馬車から飛び出してきたのは、第一王子ジュリアンだった。

 かつての端正な顔立ちは、焦りと苛立ちで見る影もなく歪んでいる。


 私は、ジークヴァルト様に促されるまま、離宮のテラスからその様子を見下ろした。

 隣には、不快そうに眉を寄せるジークヴァルト様と、今にも剣を抜きそうなセラフィナ様が控えている。


「あら……ジュリアン様。わざわざこのような辺境まで、何の御用でしょう?」


 私の声に、ジュリアンがバッと顔を上げた。


「エルセ! そこにいたか! ……ふん、ジークヴァルトのところに身を寄せていたとはな。

 まあいい、お前のその不遜な態度は、今回だけは不問にしてやる。さあ、今すぐ荷物をまとめて馬車に乗れ!」


 開いた口が塞がらない、とはこのことだろう。

 彼はあんなに酷い言葉で私を追い出しておきながら、一言の謝罪もなく「戻るのが当然だ」という顔をしている。


「……お断りしますと言ったはずですが。聞こえませんでしたか?」


「黙れ! これは王命だぞ!

 聖女メリーナが、お前の嫌がらせのせいで体調を崩し、魔法が使えなくなっているのだ!

 お前が城に戻り、以前のように『正常に機能している』と記録しさえすれば、すべて解決する!

 お前も、自分の『記録』が役に立って嬉しいだろう?」


(……ああ、この人は本当に、何も分かっていない)


 私を、ただの「魔法の電池」か何かだと思っている。

 私の心がどれほど傷つき、どれほど絶望したのか……その欠片も、彼の想像力には及ばないらしい。


 私が冷めた視線を送っていると、横から低く、地響きのような声が響いた。


「――お前のその汚い口を閉じろ、愚兄(ぐけい)」


 ジークヴァルト様が、一歩前へ出る。

 その瞬間、周囲の空気が一変した。

 物理的な圧迫感。氷のような冷気がジュリアンの足を止め、彼をその場に縫い付けた。


「ジ、ジークヴァルト……! 貴様、弟の分際で私に……っ」


「弟? 違うな。今の私は、エルセを『世界の至宝』として預かる、この領地の主だ。

 ……許可なく私の庭に踏み入り、私の『心臓』を侮辱した罪。その身に刻んでやろうか」


 ジークヴァルト様が指を鳴らす。

 すると、離宮の屋根や壁から、数体の古代兵器(アーティファクト)が姿を現した。


 それは、ラピス様の手引きで私が『正常に稼働している』と記録し、千年の眠りから目覚めた守護像たち。

 その巨大な銃口が、一斉にジュリアンへと向けられる。


「な、なんだこれは!? なぜ古代遺物が動いている!」


「エルセが望んだからだ。……ジュリアン、お前は彼女を『ゴミ』と呼んだな。

 ならば、そのゴミに救いを求めるお前は、それ以下の汚物だ」


 ジークヴァルト様の瞳が、冷酷な黄金色に輝く。


「……セラフィナ。この汚物を門の外まで掃き出せ。二度と、エルセの視界に一粒の塵も入れるな」


「御意!」


 セラフィナ様が、待ってましたと言わんばかりに跳躍した。

 彼女の放つ凄まじい威圧感に、ジュリアンは悲鳴を上げて腰を抜かし、泥の中に無様に転がった。


「ひっ、あ、あああ……っ! 待て、私は第一王子だぞ! エルセ! 助けてくれ、エルセぇ!!」


 泥まみれになり、無様に這いずりながら逃げていく元婚約者。

 かつて私が愛そうとした人の面影は、もうどこにもなかった。


「……エルセ、気分はどうか?」


 ジークヴァルト様が、私の視界を塞ぐように、優しく私を抱き寄せた。


「……すっきりしました。もう、あの人の声すら思い出せそうにありません」


「それでいい。あんな男に、一文字たりとも君の記憶を割く必要はない」


 彼は私の髪に、深く、深く口づけを落とした。


「君のペンは、私のためにだけある。……そうだろう?」


「……はい、ジークヴァルト様」


 遠くで、ジュリアンが衛兵に引きずられていく情けない声が聞こえる。

 王宮が、そして彼が、エルセという「世界の核」を失った代償を真に理解するのは、これからだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ジュリアンの無様な土下座(逃亡)、いかがでしたか?

「ゴミに救いを求める汚物」というジーク様のセリフ、書いていてミラもスカッとしました(笑)


「ジュリアンの没落がもっと見たい!」「ジーク様の独占欲がたまらない!」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いします!


あなたの評価が、ジュリアンの「泥沼」をさらに深く、エルセの「幸せ」をより確かなものにします。


次回、いよいよ第1章クライマックス!

第10話は「銀のペンは、私の運命を書き換える」。

エルセが完全に過去を断ち切り、ジークヴァルトと共に新たな「歴史」を刻み始める、感動の結末をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。