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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第5話:『万象記す(アーカイバー)』――それは神の指先

ジークヴァルト様の領地、ローゼル辺境伯領。

 そこは「忘れ去られた地」と呼ばれていた。


 かつては緑豊かな土地だったというが、今では乾燥した土が広がり、痩せた作物が申し訳程度に頭を出している。

 王宮の魔導師たちは「魔力の流れが枯渇した、死にゆく土地だ」と切り捨てた場所。


 ジークヴァルト様は、私をその荒野の真ん中へと連れ出した。


「エルセ。ここを見て、君はどう思う?」


 彼の問いに、私は愛用の銀のペンを握りしめた。

 隣には、護衛として同行しているセラフィナ様が、沈痛な面持ちで立っている。


「……悲しいです。この土は、本当はもっと、冷たくて心地よい湿り気を知っているはずなのに」


「ああ、その通りだ。だが、世界はこの土地を『不毛』だと定義してしまった。一度決めつけられた事象は、並大抵の魔法では覆せない」


 ジークヴァルト様が、私の肩に手を置く。

 その体温が、不安に揺れる私の心を支えてくれる。


「だが、君なら塗り替えられる。君が『ここは豊穣の地だ』と記せば、世界はそれを思い出さざるを得ない」


「私の……記録で……」


 ゴクリ、と唾を呑み込む。

 これまでは、ただ言われるがままに、目の前の事実を書き留めてきた。

 でも、今は違う。

 私の望む未来を、私の手で「事実」にしようとしているのだ。


 私は、新しい手帳の真っ白なページを開いた。


 風が吹き抜け、私の銀髪を乱す。

 遠くで、痩せた牛を引く領民たちが、絶望に濁った瞳でこちらを見ていた。


 ――私は、彼らに笑ってほしい。

 ――ジークヴァルト様が見守るこの場所を、最高の楽園にしたい。


 ペン先を、紙に下ろす。

 私の魔力が、インクに混じって銀色の光を放ち始めた。


『三月二十日。ローゼル領の土壌は、深く豊かな魔力の源泉と繋がった』


 一文字。

 書くたびに、心臓が大きく跳ねる。


『大地は潤いを取り戻し、眠っていた種たちが一斉に芽吹く。ここは、呪われた地などではない』


 書き終えた瞬間。

 手帳から溢れ出した銀の光が、衝撃波となって荒野を駆け抜けた。


「……っ!?」


 セラフィナ様が驚愕に目を見開く。


 足元から、パチパチと音が響いた。

 ひび割れていた土が、見る間に黒々と湿り気を帯びていく。

 次の瞬間、地中から鮮やかな緑の芽が爆発するように噴き出した。


 それは、魔法というよりも「再生」だった。


 枯れていた井戸から水が溢れ出し、乾いた風が花の香りを運び始める。

 ほんの数秒前まで死んでいた大地が、今、私の書いた通りに「豊穣の地」へと作り変えられたのだ。


「おお……おおおっ……!」


 遠くで見ていた領民たちが、杖を放り出してへたり込んだ。

 彼らは震える手で青々と茂る草を撫で、涙を流しながら叫び声を上げる。


「奇跡だ! 女神様が降臨されたぞ!」


「水だ! 水が出たぞ! これで子供たちが死なずに済む!」


 押し寄せる歓喜の渦。

 私は、自分の成し遂げたことの大きさに、ペンを握る手を震わせた。


「エルセ。見たか、これが君の力だ」


 ジークヴァルト様が、背後から私を包み込むように抱きしめた。

 彼の胸の鼓動が、驚くほど速い。


「君が一行記すだけで、数万の民が救われる。……フフ、やはり君を王宮に置いておかなくて正解だったな。あんな腐った場所には、勿体なすぎる」


「……はい、ジークヴァルト様……っ」


 私は、初めて「生きていてよかった」と思った。

 誰かの役に立つ。それも、義務ではなく、自分の意志で。


 その傍らで、セラフィナ様が感極まった様子で跪いていた。


「エルセ様……! このセラフィナ、一生貴女様について参ります! 貴女様こそ、この国の、いや、世界の希望です!」


 ***


 その頃。

 王都、ジュリアン第一王子の執務室――。


「……どういうことだ。なぜ、王直轄領の麦がすべて立ち枯れている!?」


 ジュリアンが、震える手で報告書を叩きつけた。

 王宮の食糧倉庫は空になり、頼みの綱だった『聖女』メリーナの祈りも、全く効果を発揮していない。


「わ、わかりません……。昨日まで豊かだった土地が、突然『記憶を失った』かのように、砂漠化しているのです……」


「馬鹿な……! そんなことがあってまるか! おい、エルセを、あの無能を早く連れ戻してこい! あいつに書かせれば、すべて元通りになるはずだ!」


 ジュリアンはまだ、気づいていない。

 自分が「ゴミ」だと捨てたペンが、今やライバルであるジークヴァルトの領地を、史上最高の黄金郷へと変えつつあることを。


 そして、エルセがもう二度と、ジュリアンのためにその力を振るわないということを。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「エルセの奇跡、ついに発動!」

「領民たちの喜びの描写で泣きそうになった」

と思っていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、エルセの「筆」にさらなる魔力を与え、王宮側の「破滅」を決定的なものにします。


次回、第6話は「氷の王子の、溶けるような独占欲」。

奇跡を起こして疲れ果てたエルセを、ジークヴァルト様が甘やかし、とろかしてしまう糖度MAX回です。

また、二人の「過去の繋がり」についても少しだけ触れる予定ですので、お楽しみに!

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