表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

第24話:『聖女』を求める、白き教団の使者

それは、夜明けと共に訪れた「沈黙の侵略」だった。


 離宮の窓を開けた瞬間、私の視界を埋め尽くしたのは、地平線まで続く「白」の波だった。

 真っ白な巡礼服を纏い、手に手に聖火を掲げた数万の群衆。

 彼らは叫ぶことも、暴れることもなく、ただ一糸乱れぬ動きで膝をつき、祈りの歌を捧げている。


「……気持ち悪いな」


 背後から、低く、険のある声が響いた。

 ジークヴァルト様が、寝間着の上に重厚な上着を羽織り、不機嫌そうに私の腰を抱き寄せる。

 彼の指先が、私の肌を確かめるように強く食い込んだ。


「ジークヴァルト様……彼らは一体?」


「『白き教団』。世界の均衡を守ると嘯く、歴史の裏側にいた狂信者どもだ。……ラピスの言った通り、システムが直接手を出せないと分かって、今度は人心を使い始めたらしい」


 離宮の正門へと、一人の使者が歩み寄ってくるのが見えた。

 彼は武器を持たず、ただ一枚の純白の羊皮紙を掲げている。


 ジークヴァルト様は、私を絶対に離さないという意思を示すように抱きかかえたまま、テラスから階下を見下ろした。

 その視線は、獲物を屠る寸前の獅子そのものだった。


「――何の用だ。私の安眠を妨げた罪は、祈り程度では許さんぞ」


 ジークヴァルト様の覇気に気圧されることなく、使者の男は深く頭を下げた。


「偉大なる第二王子殿下。我らは、失われた『世界の楔』……すなわち、そこにいらっしゃるエルセ・フォン・アルメット様をお迎えに参りました」


「お迎えだと?」


「左様です。彼女の振るう銀のペンは、もはや人の身に余る神の権能。

 それを一人の男の私欲のために使わせることは、世界の崩壊を招く大罪でございます」


 使者の男は、恍惚とした表情で私を見上げた。

 その瞳には、一人の女性としての私ではなく、ただ崇めるべき「偶像」への渇望だけが宿っている。


「エルセ様。貴女は清らかなる聖域にて、世界の平穏だけを記すべきお方。

 さあ、その汚れた『愛』という名の呪縛から解き放たれ、我らと共に天の座へ戻りましょう」


 汚れた愛。

 その言葉が発せられた瞬間、ジークヴァルト様の周囲の空気が、パキパキと凍りついた。


「……汚れた、だと?」


 ジークヴァルト様が、静かに笑った。

 それは、この世で最も冷酷な破滅の合図だ。


「貴様らのような、意志を持たぬ操り人形どもが、私と彼女の絆を語るな。

 エルセが神だというなら、私はその神を奪い、私だけのものにすると決めた男だ。

 ……世界の崩壊? それがどうした。彼女の隣に居られない世界など、私にとっては最初から塵ほどの価値もない」


 ジークヴァルト様が片手を掲げると、離宮の屋根に据えられた古代兵器が一斉に起動し、使者の足元を正確に撃ち抜いた。


「ひ……っ!?」


「次の一撃は、その『清らかなる』心臓に突き刺す。……失せろ。

 私の女を『楔』だの『道具』だのと呼ぶ奴バラは、たとえ世界中の人間が味方でも、一人残らず叩き潰してやる」


 ジークヴァルト様の圧倒的な拒絶に、数万の信徒たちの祈りの歌が、一瞬だけ止まった。

 けれど、彼らは怯えるどころか、さらに深く額を地面に擦り付けた。


「……ああ、なんと嘆かわしい。女神様が、悪魔の毒に侵されている」


 使者は、悲しげに首を振った。


「ならば、力ずくでお救いするしかありません。

 ――行け、『白き巫女』。貴女の『写し身』を、あるべき場所へ」


 信徒の列が割れ、奥からゆっくりと一人の女性が歩み出てきた。

 彼女が顔を上げた瞬間、私は息を呑んだ。


 白いベールに包まれたその顔。

 その瞳。

 その銀髪。


 鏡を見ているようだった。

 けれど、彼女には「心」がない。

 システムが私の予備として作り上げた、感情を持たない管理者の複製――。


「……エルセ。私の、不完全な半分」


 複製が、私の声で呟いた。

 その瞬間、私の手の中にある銀のペンが、これまでになく激しく熱を帯び、私の手のひらを焼き始めた。


「……っ、あ……あああっ!!」


「エルセ!? おい、どうした!!」


 ジークヴァルト様が慌てて私の手を包み込むが、銀の光は彼の魔力さえも弾き飛ばす。


 手帳が勝手に開き、私の意志とは無関係に文字が刻まれ始めた。


『――事象の統合。管理権限を、白き巫女へと譲渡する』


「ダメ……書かないで……! 私のペン……止まって!!」


 私の叫びも虚しく、銀のペンは、私の幸せの記録を消し去るかのように、ガリガリとページを抉り取っていく。

 世界が、私から「私であること」を奪おうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「善意」という名の最悪な侵略者、白き教団……。

そしてついに現れた、エルセと瓜二つの「白き巫女」。

ジーク様がどんなに物理で圧倒しても、システムの根幹からの「権限譲渡」という攻め方に、エルセ様が最大のピンチを迎えています!


「ジーク様のブチギレ具合が最高に頼もしい!」「偽エルセが不気味すぎる……」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、自分自身を奪われかけているエルセの「意志」を繋ぎ止める力になります。


次回、第25話は「神話の続きは、愛の記録から」。

第2章完結! エルセが「システム」が用意した完璧な自分を否定し、

「不完全で、ジーク様を愛する自分」を真実として刻み込みます。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ