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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第23話:ラピスの大発見:銀のペンの『裏側』

「……っ、来るな……!」


 鏡から這い出し、空気を腐らせるような黒いノイズを撒き散らす「何か」。

 かつての婚約者、ジュリアンの面影を残しながらも、その輪郭は絶えず乱れ、人の形を維持できていない。


 私は震える指で銀のペンを突き出し、空中に『消滅』の文字を刻もうとした。

 けれど、ペン先が空を切るたび、走るはずの銀のインクは虚空へと霧散していく。


「嘘……どうして……!」


 これまで、私の記したことは絶対の『真実』だった。

 大地を癒やし、軍隊をパスタに変え、皇帝をカラスへと堕とした。

 なのに、この目の前の不気味な影だけは、私の記録を嘲笑うようにそこに立ち続けている。


『……ムダ……ダ……エル……セ……。オレ……ハ……セカイ……ノ……セ……イ……カイ……』


 黒い泥のような手が、私の喉元に触れようとした瞬間。


「――私の愛しい人に、その汚い指先で触れるなと言ったはずだ」


 爆風と共に、寝室の扉が粉砕された。

 黄金の閃光が室内を駆け抜け、鏡から伸びていた黒い腕を根こそぎ叩き切る。


「ジークヴァルト様……!」


「下がっていろ、エルセ。こいつは……生き物ですらない」


 ジークヴァルト様が私の前に立ち、抜いたばかりの剣を構える。

 斬り飛ばされた黒い腕は、床に落ちた瞬間にノイズとなって弾け、再び鏡の中へと吸い込まれていった。


 ジークヴァルト様の瞳は、猛る獅子のように鋭く黄金に燃えている。

 けれど、その視線はどこか訝しげだった。


「……奇妙だな。私の剣で斬った感触がない。まるで、虚空を撫でたようだ」


「ふふ……ふふふ! それは当然ですわ、殿下! だってそれは『実体』ではなく、世界の『記述ミス』そのものですもの!」


 部屋の隅、いつの間にか侵入していたラピス様が、巨大なレンズのような魔導具を覗き込みながら、狂喜の声を上げた。


「ラピス! いつからそこにいた!」


「そんなことはどうでもいいのです! 見てください、エルセ様!

 貴女のペンが効かなかった理由。そして、この『ゴミ虫の再起動版』が消えない理由が分かりましたわ!」


 ラピス様はレンズを私に向け、流れるような手つきで空中に数式を展開していく。


「エルセ様の銀のペンは『書き込む(ライト)』権能。

 対して、この再起動されたジュリアンは、システムが設定した『消せない原本(読み取り専用・リードオンリー)』なのです!

 どれだけ上から文字を書いても、紙そのものが『変更不可』にロックされている状態……それが今の状況ですわ!」


「……変更不可? そんなことが……」


「ええ。銀のペンの『表側』の力――事象の固定だけでは、もう太刀打ちできません。

 世界がエルセ様を『不適切』だと判断した以上、貴女の権限は、この世界のシステムによって制限ロックされ始めています」


 ラピス様の言葉に、背筋が凍る。

 私が守りたかったこの世界が、私から「言葉」を奪おうとしている。


 鏡の中のジュリアンが、再びニチャリと歪んだ。

 彼の存在そのものが、私に対する「拒絶反応」として、この部屋を侵食し始める。


「……権限だと? そんなくだらない理屈で、エルセの自由を奪えると思うな」


 ジークヴァルト様が、低い、地響きのような声で吐き捨てた。

 彼は剣を鞘に収めると、私の手を強く、壊れそうなほど力強く握った。


「ラピス。ロックされているなら、ぶち壊す方法があるはずだ。

 私の魔力を使え。エルセのペンが届かないなら、私の黄金で道をこじ開けてやる」


「……さすがは殿下、脳筋な解決策ですが正解ですわ。

 エルセ様、銀のペンには、貴女さえも知らない『裏側バックサイド』の機能があるはずです。

 それは『書き換え』ではなく……世界の根源的なルールそのものを『破棄スクラップ』する力」


 ラピス様が真剣な表情で、私の銀のペンを指差した。


「ですが、それを使えば、エルセ様の魂の一部も摩耗します。

 ……それでも、この『過去の亡霊』を消し去りたいですか?」


 私は、ジークヴァルト様の顔を見た。

 彼は何も言わず、ただ真っ直ぐに私を見つめている。

 その瞳は、「君が何を望んでも、俺がその代償を肩代わりしてやる」と語っていた。


「……消します。私が、ジークヴァルト様と幸せになるために。

 誰にも、私たちの愛を『ロック』なんてさせない」


 私は再び、ペンを握り直した。

 ジークヴァルト様の黄金の魔力が、私の手を通じて銀のペンへと流れ込む。

 銀と黄金が混ざり合い、ペンが熱く、脈動を始めた。


「――壊れなさい、偽りの原本」


 私が放った一突きは、文字を記すことさえしなかった。

 ただ、ペンの先から放たれた白金の閃光が、鏡を、そして中に潜むノイズの怪物を、概念ごと「粉砕」した。


『……ア……ガ……ァァァッ……!?』


 ジュリアンの絶叫が、ノイズと共に消滅する。

 鏡は粉々に砕け散り、部屋に満ちていた重苦しい圧迫感が霧散していった。


 静寂が戻る。

 私は力尽き、ジークヴァルト様の腕の中に倒れ込んだ。


「……よくやった、エルセ。やはり君は、私にとって唯一の神だ」


 ジークヴァルト様が私の額に口づけを落とす。

 けれど、ラピス様の呟きが、私の胸に不気味なトゲを残した。


「……今のは単なる『一時的な削除』に過ぎません。

 システムがエルセ様を敵だと認識した以上、次はもっと大きな『修正』が来ますわよ。

 ……例えば、エルセ様を神格化してジークヴァルト殿下から引き離そうとする、『白き教団』のような勢力を使って、ね」


 離宮の窓の外。

 夜の王都を、見たこともないほど清らかな、そして不気味なほど白い光を放つ巡礼者たちの列が、静かに行進し始めていた――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「書き換え」が効かないなら「物理(概念破壊)」でぶち壊す!

ジーク様の脳筋……もとい、圧倒的な愛のサポートによる強引な解決回でした。

そしてラピス様の解説によって、銀のペンの「裏側」の恐ろしい代償も明らかに。


「ジュリアンのノイズがホラーすぎて怖かった……」「ジーク様の『夫としてのマナー』がカッコいい!」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、修正者の波を押し返すエルセの勇気になります。


次回、第24話は「『聖女』を求める、白き教団の使者」。

世界のシステムが送り込んできたのは、暴力ではなく「信仰」という名の執着!?

ジーク様、今度は「神」を相手に嫉妬の炎を燃やすことになりそうです。お楽しみに!

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