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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第21話:世界で一番甘い戴冠式(の裏側)

「……時間が、止まっている?」


 王都を埋め尽くしていた数万の民衆。

 その熱狂的な歓声が、まるで録音の途中で針が飛んだかのように、唐突に消えた。

 空を舞う祝祭の紙吹雪は空中に固定され、風さえもその流れを止めている。


 動いているのは、私とジークヴァルト様。

 そして――。


「……不適切な管理者エルセ・フォン・アルメット。および、その特異点ジークヴァルト・フォン・ローゼル」


 空の裂け目から降りてきた、真っ白な法衣を纏った集団。

 彼らの瞳には感情がなく、ただ精密な機械のように冷たい「効率」だけが宿っていた。


「貴殿らの行為は、世界の歴史ログに修復不能な歪みを生じさせた。

 よって、これより『事象の初期化リセット』を執行する」


 リーダーと思わしき男が、無機質な声で告げる。

 彼が指を鳴らした瞬間、私たちが再建したばかりの新聖王宮の壁が、さらさらと白い砂となって崩れ始めた。


「待ってください! 初期化だなんて……! ここにいる人たちはどうなるのですか!?」


「全ての命、全ての記憶は消失し、数千年前の『正しい時点』へと巻き戻される。

 それが、システムとしての世界の意思だ」


 消失。巻き戻し。

 せっかく手に入れたジークヴァルト様との日々も。

 私が守り抜いた民たちの命も。

 全部、なかったことにされるというの?


 私の指先が、恐怖で凍りつく。

 銀のペンを握る力が失われそうになった、その時――。


「――おい。無機物風情が、長々と喋るなと言ったはずだ」


 横から差し込まれたのは、氷よりも鋭く、太陽よりも熱い声。

 ジークヴァルト様が、私を背後に隠すようにして、一歩前へ出た。


 彼の纏う黄金の魔力が、止まっていた時間を無理やりこじ開けるように膨れ上がる。

 ジークヴァルト様の周囲だけが、時間の静止を拒絶し、猛烈な熱気に包まれていた。


「修正者だか何だか知らないが。……今日は、私のひとが世界で一番輝く戴冠式の日だぞ」


 ジークヴァルト様が、腰の剣をゆっくりと引き抜く。

 その刀身には、私の「記録」によって付与された、不滅の呪いが宿っている。


「式の邪魔をする不届き者は、たとえ神の使いだろうと……塵一つ残さず切り刻むのが、夫としてのマナーだ」


「理解不能。一個体の感情は、システムの正常な運行よりも優先されない。

 ――排除を開始する」


 白い法衣の集団が、一斉に光の手を掲げた。

 そこから放たれるのは、魔法ではない。「消去デリート」そのものの奔流。


「エルセ! 伏せていろ!」


「いいえ! 私も……私も戦いますわ!」


 私は、震える手で新しい手帳のページを捲った。

 真っ白な紙に、今日一番の決意を込めてペンを走らせる。


『三月二十五日。世界で最も美しい戴冠式は、いかなる「消去」によっても妨げられない』


 銀のインクが紙を突き抜け、私たちの周囲に「不変」のドームを形成した。

 白い光の奔流がドームに当たり、不気味な火花を散らすが、一ミリも中へは侵入できない。


「な……!? システムの直接干渉を……防ぐだと?」


 修正者たちの顔に、初めて「驚愕」というバグが生じた。


「言っただろう。彼女が記すことは、世界のシステムさえも凌駕する『真実』なんだよ」


 ジークヴァルト様が、不敵な笑みを浮かべて地を蹴った。

 黄金の閃光。

 一瞬にして修正者たちの懐に飛び込んだ彼は、神速の連撃で、白い法衣の集団を次々と「物理的」に両断していく。


 切られた修正者たちは、血を流す代わりにノイズを撒き散らし、消えていった。


「……信じられん。一個体が、世界の管理機構に牙を剥き、あまつさえ勝利するなど」


 最後の一人となったリーダーの男が、空中に浮遊しながら私を凝視した。


「エルセ・フォン・アルメット。貴女に問う。

 貴女がそのペンを振るい続ければ、世界は負荷に耐えかねて、本当に崩壊する。

 この男との『愛の記録』と引き換えに、数千万の人間を道連れにするというのか?」


 その言葉は、呪いのように私の胸に突き刺さった。


「私が……世界を、壊す……?」


「そうだ。貴女が記せば記すほど、世界のメモリは消費される。

 この男一人のために、世界を滅ぼす覚悟が……貴女にあるのか?」


 修正者の冷たい問い。

 私は、足元が崩れ落ちるような感覚に陥った。

 私が幸せになればなるほど、世界は死に向かう?

 そんなの……。


 絶望に飲み込まれそうになった私の耳に、ジークヴァルト様の低い声が届いた。


「エルセ。……そんな馬鹿げた脅しに、耳を貸すな」


 ジークヴァルト様が、返りノイズを拭いながら戻ってきて、私の頬を両手で挟んだ。

 彼の瞳は、揺らぎ一つない黄金のまま。


「世界が壊れるなら、私が支えてやる。

 世界が足りないというなら、私が新しい世界を創ってやる。

 ……君が書くのをやめる理由にはならない」


 ジークヴァルト様は、修正者のリーダーを睨みつけ、私の耳元で甘く囁いた。


「いいか、修正者。……このひとは、私の愛だけで動いているんじゃない。

 彼女自身が、自分自身の幸せを記すと決めたんだ。

 ――世界ごと滅びる覚悟か? あいにくだが、我々は最初からそのつもりだよ」


 ジークヴァルト様は、修正者の目の前で、私の頭に銀の王冠を乗せた。


「さあ、式の続きだ。

 神様を黙らせるほどの、最高に傲慢な愛の誓い(記録)を見せてやろう」


 修正者のリーダーは、その光景を無機質に見つめた後、スッと空の彼方へ消えていった。

 だが、その去り際に残した言葉は、不穏な予兆に満ちていた。


「……分かった。ならば、こちらも『最終プロトコル』に移行する。

 ――『オリジナル』の第一王子を、再起動リロードせよ」


 裂け目が閉じた瞬間。

 王宮の地下。すでに歴史から抹消されたはずの場所で、

 泥の塊の中から、真っ黒な魔力を纏った「何か」が、目を見開いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


新章、開幕です!

「世界を救うか、愛を貫くか」という究極の問いに対し、ジーク様は即座に「世界ごと滅びようぜ」と笑う……。

さすがは溺愛の獅子、期待を裏切らない重さですね!(笑)


そして去り際の不穏な言葉……「オリジナル」の第一王子の再起動!?

せっかく「存在抹消」したのに、システムの手によって蘇ってしまうのでしょうか。


「ジーク様の全肯定が尊すぎる!」「修正者のリーダーが不気味……」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、神のシステムに立ち向かうエルセの「筆の魔力」になります。


次回、第22話は「神様は、少しだけお休みしたい」。

激動の戦いの後、ジーク様が「疲れたエルセ」を離宮に連れ帰り、二人きりの甘すぎる休息(看病)が始まります……が、不穏な影はすぐそこに!? お楽しみに!

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