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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第20話:砂上の王国の終焉

瓦礫の山となった王宮から、もうもうと煙が立ち上がっている。


 かつて私を「ゴミ」と呼び、雨の中に突き出したあの場所。

 傲慢な第一王子が、偽りの聖女と笑っていたあの玉座。

 そのすべてが、今、私の目の前で「無かったこと」になろうとしていた。


「……これですべてだ、エルセ」


 ジークヴァルト様の低い声が、私の鼓動を優しく刻む。

 彼は私の背後にぴったりと寄り添い、その逞しい腕で私の腰を抱き寄せていた。


 私たちは今、王都中央広場にある「歴史の石碑」の前に立っている。

 この国の始まりから現在までを刻む、魔法的な記録媒体。

 そこには、今も忌々しい名前が刻まれていた。


『次代の王、ジュリアン・フォン・ローゼル』


 その文字を見た瞬間、私の胸の奥に、かつての冷たい雨の感覚が蘇る。

 ……けれど。

 隣にいるジークヴァルト様が、私の手をそっと握り、その指先に銀のペンを滑らせた。


「書け、エルセ。君を傷つけた歴史など、一文字たりとも残す必要はない。

 君の手で、この世界を『正しい形』に書き換えるんだ」


 私は、深く頷いた。

 銀のペンの先を、石碑に触れさせる。


『三月二十五日。偽りの王位継承者ジュリアンの名は、歴史のどこにも存在しなかった』


 ペンを走らせた瞬間、石碑から凄まじい火花が散った。

 石に刻まれた「ジュリアン」という文字が、苦悶の声を上げるように歪み、ドロドロと溶け出していく。


 同時に、広場の隅で衛兵に取り押さえられていた「浮浪者の男」が、絶叫を上げた。


「あ……あがぁっ!? 私の……私の名前が……思い出せない!!」


 それは、かつてジュリアンと呼ばれた男だった。

 石碑から名前が消えた瞬間、彼を知るすべての民衆の記憶からも、彼の存在理由が消失した。

 人々は、泥にまみれて叫ぶその男を「狂った浮浪者」としてしか見ない。


「エルセ様……! 見てください、歴史が、世界が書き換わっていきますわ!」


 ラピス様が観測機を抱えて叫ぶ。

 セラフィナ様は、その凛々しい横顔に感涙を浮かべ、剣を掲げて膝をついた。


「偽りの王国は、今、ここに死した。……真実の聖王国の誕生を、我らが女神エルセ様に捧げん!」


「「エルセ様! ジークヴァルト陛下! 万歳!!」」


 広場を埋め尽くす数万の民衆が、地鳴りのような歓声を上げる。

 その中心で、ジークヴァルト様が私を正面から抱きしめた。

 大勢の目があることなど、彼には関係ないらしい。


「エルセ……これで、君を貶める者は、この国の歴史から一人もいなくなった。

 これからは、誰も君を『無能』とは呼ばせない。君が言葉を発すれば、それが法となり、君が記せば、それが神話となるんだ」


 ジークヴァルト様の黄金の瞳が、独占欲という名の炎を湛えて私を見つめる。


「君をこのまま、私の国の最深部へと囲い込みたい。

 民衆にさえ、君の美しさを見せるのが惜しくてたまらないんだ。……分かるか? 私の、この狂おしいほどの想いが」


「……はい、ジークヴァルト様。私も、貴方だけの記録官でいたい。

 貴方と歩むこれからの日々を、一番特等席で記し続けたいのです」


 私は彼の首に腕を回し、自らその唇に触れた。

 甘く、深く、二人の魂が「聖王国の主」として結ばれる誓いの口づけ。


 その瞬間。

 王都全体が銀と黄金の光に包まれ、崩壊した王宮の跡地に、クリスタルのように輝く「新聖王宮」が、私の記録の通りに一瞬で再建された。


 圧倒的な奇跡。圧倒的な勝利。

 どん底から始まった私の物語は、今、最高潮のハッピーエンドを迎えた。


 ……はずだった。


「――おめでとう。素敵な『改変』だったよ、エルセ」


 不意に、時間が止まったかのような静寂が訪れた。

 熱狂していた民衆の動きが、空を飛ぶ鳥の羽ばたきが、すべてが静止する。


 唯一動ける私とジークヴァルト様の目の前。

 青い空に、真っ黒な裂け目が走った。


 そこから、一枚の「白い封筒」が、ひらひらと舞い落ちてくる。


「……何だ、これは」


 ジークヴァルト様が警戒し、私を背後に隠しながら、落ちてきた封筒を剣先で拾い上げる。


 封筒の裏には、見たこともない紋章――歯車と瞳を組み合わせた「世界の守護者システム」の刻印があった。


「ジークヴァルト様、待ってください。……それは、私が記したものではありません」


 私の銀のペンが、カタカタと震え始める。

 管理者の権能を持つ私が、この世界に「書いていない」もの。

 それは、この箱庭の外側から届いた、警告メッセージ


 ジークヴァルト様が封を開け、中にある一枚の紙を取り出した。

 そこには、ただ一文。


『――書き換えすぎた歴史は、世界の許容メモリを超えた。

 これより、不適切な管理者エルセ・フォン・アルメットの「修正」を開始する』


 空の裂け目から、真っ白な服を纏った、感情のない顔の集団が降りてくる。

 それは、皇帝さえも凌駕する威圧感を持った、世界の「バグ取り」たちだった。


「……フン。神の使いか何か知らないが、タイミングが悪いな」


 ジークヴァルト様が、凶悪なまでの笑みを浮かべて剣を構える。

 彼の魔力が、空の裂け目さえも焼き尽くさんばかりに膨れ上がった。


「エルセを『不適切』だと?

 ……笑わせるな。彼女こそがこの世界の唯一の正解だ。

 邪魔をするなら、その『世界の理』とやらを、私が根こそぎ切り刻んでやる!」


 本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。

 私は、震える手で新しい手帳のページを開いた。


 第3章――『管理者の反逆』。

 私は、神にさえ抗う愛の記録を、ここに綴り始める。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


王国編、堂々の完結!

ジュリアンの名前が石碑から消えるシーン、書きながらミラも「これが最高級のざまぁだわ……」と震えてしまいました。

そして、名実ともに王と妃になった二人ですが……まさかの「世界のシステム」からの介入!?


「ジュリアンの末路が完璧すぎてスッキリした!」

「第3章の敵が『世界のバグ取り』って、スケールが凄すぎる!」

と思っていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援の一つ一つが、神に抗うエルセの「筆の魔力」になります。


次回、第21話は「世界で一番甘い戴冠式(の裏側)」。

迫り来るシステムからの刺客を前に、ジーク様が「まずは式を完遂させろ」と無茶を言い出し……!?

愛と戦いの新章、どうぞお楽しみに!

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